テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,102
#怖い話
212
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【一日一善、あなたに最高の幸運を!】
スマホの画面で、蓮の花を模した安っぽいアイコンが明滅している。
名前は『徳ポリス』
最近、SNSの広告や口コミで嫌というほど目にする「善意の可視化アプリ」だ。
「……徳、ね。それで飯が食えたら苦労しねえよ」
俺、八神孝介は、深夜のコンビニバイト帰りに毒を吐いた。
手取りは低く、家賃は滞納気味。
おまけに昨日、大事にしていた腕時計を落として壊した。
人生のどん底とまではいかないが、泥濘に足を取られているような感覚がずっと続いている。
ふん、と鼻で笑いながら、俺はなかば自棄っぱちでそのアプリをインストールした。
画面が切り替わり、カメラが起動する。
『周囲の「不徳」を見つけて、あなたの「徳」を積みましょう』
ふと足元を見ると、飲みかけのペットボトルが転がっていた。
普段なら無視する。
だが、俺はそれを拾い上げ、数歩先のゴミ箱に放り込んだ。
パチパチパチ、とスマホから軽やかな拍手の音が響く。
【徳+5:小さな清掃】
【現在のランク:迷える子羊】
「……なんだよ、これだけか」
期待した俺が馬鹿だった。
スマホをポケットに放り込み、アパートへの道を急ぐ。
だが、異変はその直後に起きた。
足元に、キラリと光るものがあった。
「あ……」
拾い上げると、それは昨日失くして諦めていた、あの腕時計だった。
傷一つない。
それどころか、止まっていた針が規則正しく時を刻んでいる。
「嘘だろ……?」
偶然だ。
そんなのは分かっている。
だが、その時、スマホが短く震えた。
『徳の報いです。あなたの世界に、少しだけ光が差しました』
心臓の鼓動が早くなる。
ただの偶然にしては、タイミングが良すぎる。
もし、このアプリが本当に「運命」を操作しているのだとしたら?
俺は吸い寄せられるように、もう一度画面を見た。
『次の幸運まで、あと徳15ポイント』
「……あと、15」
俺は周囲を見渡した。
街灯の下に落ちているタバコの吸い殻
ひっくり返った自転車、乱れた駐輪場の整理。
普段はゴミクズにしか見えなかった街の景色が、宝の山に見えてきた。
「拾えばいいんだろ。やればいいんだろ、楽勝だろ…善行くらい」
俺は、狂ったように笑いながら、夜の街へ駆け出した。
これが、地獄への特急券だとも知らずに。