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#魔王
青空美空
8
ruruha
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298
於田縫紀
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◇
東棟の夜は静かだった。
雨は止み、虫の鳴き声が微かに聞こえる。
リーナはベッドへ腰掛けながら、大きくため息をついた。
「はぁ……。」
食堂の火事。
水没した会議室。
ここまではまだいいが。
突然現れた見知らぬ少女。
「もう……最近いろいろありすぎて、感覚が麻痺してきてる気がするわ。」
こめかみを押さえながら、ぼそりと呟く。
「……考えても仕方ないわ。」
「もう寝ましょう。」
その時だった。
コンコン。
「……。」
ノックの音が響く。
コンコン。
「……。」
気のせいだと思うことにした。
コンコン。
「……あぁもう!」
リーナは勢いよく立ち上がる。
「何よ!誰!?」
扉を開けると、そこには見覚えのある少女が立っていた。
「……やっほー。」
「……??」
リーナの思考が停止する。
「あれ。」
少女は不思議そうに首を傾げた。
「だんまりになっちゃった。」
「………。」
リーナは無言で扉を閉めた。
「待って待って!」
少女は慌てて扉へしがみついた。
「締め出さないで〜……。」
「何!?」
リーナは額へ手を当てる。
「今、夜中の二時なんだけど!?」
「ツッコむところそこ?」
「そこよ!!」
結局、押し切られる形で少女を部屋へ入れることになった。
少女はきょろきょろと室内を見回す。
「意外に綺麗な部屋……。」
「失礼ね……。」
リーナは腕を組み、じとっと睨む。
「……はぁ。」
「自分から来たってことは、いろいろ聞かれる覚悟はあるってことよね?」
「ないけど……。」
「なんなのこいつ……。」
「なんて嘘だよ、嘘。」
少女はけらけら笑った。
「名前くらいなら教えてあげる。」
「なら早く教えなさいよ。」
少女は少し考え込んでから、にっこり笑う。
「私は……んー……。」
「ソフィアって呼んで。」
「ふーん。」
リーナは椅子へ座り直す。
「案外普通の名前ね。」
「……で。 あんたは何?」
腕を組み、ソフィアを見据える。
「半神なの?」
「それとも、失礼な新しい世話係かしら。」
「んー。」
ソフィアは首を傾げた。
「半神とか、よく分かんないんだよね。」
「…まぁ、そんなのどうでもよくない?」
「よくないわよ!」
リーナは机を叩いた。
「そもそも、みんなあんたのこと放置してるけど、今の状況は異常事態なのよ!?」
「意味不明なやつが屋敷の中にいるなんて、外部にバレたら大問題なの!」
「そういうの、よく分かんない。」
「あんたねぇ……。」
「怒らないでよ〜。」
「怒っても仕方ないでしょ!」
リーナは深いため息をつく。
「……そういえば。 なんであの時、喋らなかったのよ。」
「今はこんなにペラペラ喋ってるくせに。」
「あー。」
ソフィアは少し困ったように笑った。
「実は、すっごく緊張してたんだよね。」
「あの……フローさん? って人、 めっちゃ怖かったから……。」
「……。」
リーナは怪訝そうに眉をひそめる。
「あんた、フローと面識あるのね。」
「うん。」
ソフィアはあっさり頷いた。
◆
数日前。
「……。」
ソフィアは屋敷の庭を一人で歩いていた。
「なんか、あっさり入れちゃったな……。」
不思議そうに辺りを見回す。
その時。
「……誰かいる。」
人影が見えた。
「……?」
振り返ったのはフローだった。
「誰だい。」
穏やかな声だったが、その瞳は真剣だった。
「ここは立ち入り禁止区域のはずだよ。」
「……。」
ソフィアは黙ったまま立っている。
「結界をどうやって越えたの?」
「……。」
「何も言わないのかい?」
フローが一歩近付いた瞬間。
「……っ。」
目の前の少女が、ふっと消えた。
「……消えた?」
◆
「って感じで……。」
ソフィアはのんきに話を締めくくった。
「何しれっと消えてんのよ!?」
リーナが即座にツッコむ。
「やっぱり只者じゃないわよ、こいつ……。」
「化け物を見るような目で見ないでよ!?」
「見てるんじゃなくて、事実を確認してるのよ!」
「ひどくない…!?」
東棟の夜は、今日も静かだった。
……部屋の中だけは、全然静かではなかったが。
コメント
1件
第十五話、読み終えました! 東棟の静かな夜──そこに突然のノック、そして現れたソフィア。リーナが扉を閉めようとするくだり、思わず笑いました(笑)。食堂の火事や水没した会議室に続いて今度はあの少女…確かに気が休まらないですよね。 でも、夜中に押しかけておいて「ツッコむところそこ?」って返すソフィアの軽さと、リーナの「そこよ!!」の即答のテンポが心地よかったです。回想で明かされたフローとの邂逅も、あっさり“消える”ところが怪しさ満載で、もっと知りたくなりました。 部屋の中だけが静かじゃない──その締めがすごく好きです。続き、気になります!