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「頼み…………ですか?」
躊躇しながら言葉を紡ぐ廉に、上目遣いで応える優子は、身体を強張らせる。
「…………キスしたい」
吐息混じりに零された廉の最後の頼み事に、底知れぬ『男の艶』を感じ取った優子は、狼狽えながら瞠目してしまう。
けれど、喉から絞り出されたような彼の声音には、甘やかさと、ほんの少しだけ苦悶も滲ませていた。
彼女は、肯定も否定もせず、哀愁を帯びた顔立ちの廉に、視線を交わせる事しかできない。
(私……ズルい女だ……。これで専務と……本当にさよならなんだって思うと…………専務の痕跡を……唇に焼き付けたいって……思ってしまう……)
優子はぎこちなく、首をゆっくりと縦に振った。
「優子……」
繊麗な両肩に、筋張った手が添えられると、優子は廉に、唇をそっと重ねられた。
冷んやりとした唇に、仄かな熱を感じ取り、彼女は、胸が引きちぎられるほどの苦しさに覆われていく。
一度顔を離し、美麗な表情に浮かぶ花弁を愛おしそうに見つめている廉は、優子の上唇と下唇を、甘く食んだ。
二つの唇の温度が溶け込み合い、一つになった瞬間、彼は、焦らしながら顔を離していくと、初々しいほどのキスに、彼女は廉から、無償の愛を注がれていた事に気付かされた。
廉から、名残惜しむ眼差しを向けられる優子。
やり切れなさと、苦渋を孕ませた彼の表情に、優子の喉元が、キュッと締め付けられる。
「優子と…………『普通の男と女』として……再会していたら…………違った未来が……あったかもしれないな……」
慕情と葛藤を振り切るように、廉は勢い良く立ち上がり、恋文を思わせる言葉を置き去りにすると、上着を羽織り、堂々とした足取りで部屋を出ていく。
バタンとドアが閉まる音が、彼女の鼓膜を切なく震わせ、全てが終わったと悟った。
「廉…………さ……ん……」
メインルームに残された優子は、ガクリと膝を崩し、ローテーブルに顔を伏せた。
(これで……いい。専務が私と一緒にいる事で……全てが傷付くんだったら……これが…………正解なんだ……)
キリッとした瞳は揺らいで潤み、引いていた雫が滴り落ちる。
「さよ…………な……ら……」
抑え込んでいた廉への気持ちが昂っていき、優子は悲嘆に暮れていると、時間が過ぎていく度に、滂沱と流れる涙を、止める事ができなかった。
***
コメント
4件
過去を忘れて前向きに成って欲しい優子さんまた廉さんに会えるのよ新しい恋を廉さんと始めて欲しい…よ

前を向いて歩いて 諦めないで 強くあれ そして幸せを掴んで