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――ミクラル王国、王都。


ミクラル代表騎士の一人、ナオミは、今日だけは城の仕事を休み、自室で静かに剣を研いでいた。


本来、代表騎士の仕事はモンスター関連が主。

だが数年前――《ブルゼ》によって《ナルノ町》が壊滅して以来、ナオミの業務の大半はその復興支援となっている。


ナオミ自身は、次の《ナルノ町》町長が“モグリ”であるため、仕事量の多さをまったく苦にしていなかった。

むしろ夜通し働き、モグリに逆に叱られるほどだった。


「早く休まんか!」


モグリの怒鳴り声がまだ耳に残っている。


――ナオミが幼かった頃。

親に奴隷として売られそうになっていたその場に、偶然通りがかったのがモグリだった。


「直接売ってくれれば良い値で買う」


モグリはそう親に交渉し、ナオミを“買い取った”。

そのおかげで、ナオミは奴隷番号を刻まれることもなかった。


「……ま、それ以上に身体は傷ものになっちゃったがねぇ」


ナオミの身体には、戦場で負った無数の傷跡が残っている。

治そうと思えば治せる。だが、どうせまた傷つく。いちいち気にするだけ無駄だった。


――最近までは、そう思っていた。


けれど。

“好きな人”ができた今、ナオミは少しだけ考えを変えはじめていた。

せめて、身だしなみくらいは整えておこうか――そんなことを考えていた矢先。


【緊急通信用魔皮紙】が、けたたましく起動した。


{大変です! ナオミ様!}


「なんだい……騒がしいね」


声の主は、ミクラル王国騎士団の一人。

緊急時以外、決して動じない彼が……今、明らかに焦っていた。


{《モルノ町》周辺にて、大量のモンスターが接近中! 現在、確認されているだけで……3000体を超えています!}


「な、なんだって……!?」


3000体。

しかも“確認中”ということは、それ以上いる可能性もある。


種類は不明。だが、その数であれば、町に張られたギルド結界とて耐えきれるはずがない。


「すぐに準備して向かう! 町の住民は避難させろ! 騎士団を《モルノ町》へ――」


そこまで言いかけたとき、

魔皮紙の通信が途切れ、代わりに――別の人物から、通信が入った。



{ナオミ殿、今のは誤報だ}


「……!? アレン国王!」


通信に割り込んできたのは、この国の王・アレンだった。


彼は変身魔法の使い手であり、見た目は一定周期で変化している。

だが、代表騎士であるナオミには“本物”であることが分かる仕組みになっている。


つまり、今この通信の相手は――確実に、“本物の国王”だった。


「どういうことで? あたしには、あの騎士が嘘をついてるようには見えなかったがね」


{あぁ、嘘ではない。言い方が悪かったな……つい先ほど、ギルドより連絡があった。

どうやら、モンスターの進路は町ではないらしい}


「ふむ。なるほど、それで“訂正”に来たわけかい。

でも、3000を超えるモンスターの群れが《モルノ町》をスルーするとは……どこに向かってるんだい?」


{そ、それは……今、調査中のようだ。とにかく、町は無事。

だから、ワシの権限で国から騎士団を出すことはない}


ナオミは、その言葉に微かな違和感を覚える。


言葉の端々。

“今、調査中”――国王らしからぬ、曖昧な回答。

“とにかく”という妙な言い回し。

そして何より――“出すことはない”という断言。


……まるで、“何か”を隠しているような口ぶりだった。


「そうかい。……じゃあ、あたしゃ今日は休みだから、これで切るよ。

……お望みなら今から風呂に入るとこだったから、脱ぐとこでも見ていくかい?」


{……ふっ。休みを満喫するといい}


通信が切れ、魔皮紙は机の上にふわりと落ちる。


ナオミはしばらく沈黙し――やがて、独り言のように呟く。


「あれは……何か、隠してるねぇ。《モルノ町》か……」


次の瞬間には、ナオミは立ち上がり、衣装棚を開ける。


数秒後――そこには、ミクラル騎士の姿はもうなかった。


変装を終えたナオミは、足音ひとつ立てず、静かに城を出た。


向かう先は――ギルド。

そして、“真実”の匂いがする《モルノ町》。






__________



______



ナオミとの通信を切り終えると、アレン国王は――一人、【国王の間】に静かに座り込んだ。

その表情は、国を治める王のそれではなく――ひとりの“弱い男”の顔だった。


「……国の王であるワシが、一つの町を見殺しに……」


誤報など、最初から嘘だった。

現在もギルドからは通信が入り続けている。だが、アレンはその全てを――王の権限で遮断している。


この【国王の間】においては、すべての情報通信・魔法信号を制御できる。

部屋の配置すら、魔法で自在に変化させられるよう設計されており――

本来は“敵国の侵攻”や“国家転覆”といった“最終手段”のために備えられたものだった。


だが今、国王は――その機能を“内側からの黙殺”のために使っていた。




そして――

どこからともなく、“声”が響いた。


国王にしか聞こえない、別格の存在の声が。




「これだけ人間がいるのなら……少しくらい、どうということもないだろう」


「……【アビ】か」


「よくやった。忠実だな」


「……言われた通りにした。

だが……本当なのか? 我が国に――『女神』がいるというのは」


「そうだ」


その声は冷たく、何の感情もない。だが、それゆえに重かった。


「先日から“気配”は感じていた。だが確証がなかったのでな。

だから、俺の使徒を送った。……だが、どうやら“別の存在”に殺されたらしい」


「……ッ!? それは……聞いておらぬぞ!」


「黙れ」


その一言で、アレンは言葉を止めた。


「俺がお前に言う義理があるか? 所詮、人間風情が」


「……くっ……」


「引き続き、俺の邪魔はするな。それが条件だ。

……邪魔をすれば、どうなるかは――分かっているな?」


「……わ、わかりました……」


その言葉を最後に――【アビ】の声は、唐突に途絶えた。






国王は、頭を垂れたまま、しばらくその場から動かなかった。




「…………『女神』……なぜ、現れた……

お前さえ……お前さえ現れなければ、こんなことには――」




――そして。


国王、そして各国の王たちが【勇者】の存在と『女神』の再臨を知るのは――

次回の《王国会議》にて、初めて明らかになることとなる。



______________


【通信魔皮紙】


通信魔皮紙とは、魔力を媒体とした遠距離通信用の魔皮紙である。


片方が魔力を流すと、対となる通信相手側の魔力の流れに微細な乱れが生じる。

これにより、相手は「通信が来ている」ことに気づく仕組みとなっている。


応答者が魔力を流すことで接続が成立し、魔皮紙が形を変え、空中に映像を投影する形で通話が始まる。

魔力量の加減により、「音声のみ」「映像あり」「画面サイズの調整」など通信形式を細かく調整することが可能である。


この魔皮紙は高価かつ高度な製造技術を要するため、一般にはあまり流通していない。


使用者は主に以下の通りである:

・騎士団

・貴族階級

・魔法学校

・各種商業施設や店舗


また、一部の高位冒険者が携帯する例もあるが、価格が高いため広く普及しているわけではない。


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