翌日も、焦げた髪の匂いがかすかに鼻をつき、遥の頭皮は熱と痛みの余韻で敏感に反応していた。鏡を見れば、焦げた髪の先端が不規則に縮れ、濡れた涙の跡が残る。寝返りを打つたびに痛みが走り、体はまだ震えを止められない。
「……ああ、いや……もう……」
小さくつぶやきながら、遥は布団に顔を埋める。謝り続け、懇願し続けたあの夜の記憶が、まるで刺青のように全身に刻まれている。痛みだけでなく、羞恥と恐怖が、逃げ場のない日常に溶け込んでいた。
朝食の音も、兄弟の声も、全てが遠く感じられる。目の前の現実よりも、舌に残る苦味、髪に残る焦げた感覚、肌に染みついた熱の余韻の方が鮮明に、遥を支配する。謝っても、懇願しても、終わりは来ない――そんな恐怖が胸を締め付ける。
「……今日も……終わらないのか」
小さな声が布団に吸い込まれる。孤独と無力感の中で、体は勝手に震え、心は痛みに縛られる。昨日の四人の冷たい視線が、まるで壁に刻まれたように、家のどこにいても追いかけてくる。
焦げた髪を触るたび、舌や腕に押し付けられたタバコの苦味を思い出し、嗚咽が自然と漏れる。逃げ場のない恐怖、謝るしかない自分、懇願するしかない体――それら全てが、生活の中に影のように残り続ける。
「お願い……もう……許して……」
布団に顔を押しつけ、震える体を抱え込み、涙と嗚咽で声はかき消される。誰も聞いてくれない。誰も止めてはくれない。痛みと恐怖、羞恥、絶望――全てが日常の空気に染み込んでいて、消えることはない。
外の光が差し込んでも、胸の奥の痛みは消えず、焦げた匂いと苦味は遥の体と心を縛り続ける。謝罪と懇願の声だけが残り、それを繰り返すことしかできない自分の無力さを、遥は一層深く噛みしめる。
――俺は、何のために存在しているんだろう。
誰も答えをくれない問いが、頭の中で繰り返される。焦げた髪、痛む頭皮、舌や肌に残る苦味、嗚咽の止まらない体――全てが、四人の支配の証。俺の存在は、完全に消耗され、謝罪と懇願しかできない道具にすぎない。
朝の光と日常の音の中で、遥はただ震え、涙を流し、体を抱え込むしかない。焦げた髪の匂いと苦味が残る限り、痛みと絶望は続き、四人の支配は終わらない。謝ることしかできない、懇願することしかできない――その現実が、遥の生活の全てを支配していた。
床に伏せたまま、布団に顔を埋め、遥は嗚咽と涙で震え続ける。存在するだけで痛みの対象となる、絶望の中の日常が、彼の心と体を永久に縛りつけていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!