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8 - 第6話:点数の低い友達

2025年04月25日

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第6話:点数の低い友達


午後の実技は「協調判断演習」。

生徒たちはAIの出す仮想トラブルにどう対応するか、チームでの“最適解”を導き出す訓練だ。


AIが観察するのは、声のトーン、話すタイミング、同調性、発言量、表情筋の動き――

すべてが“協調スコア”として数値化される。





その日、ミナトはハヤセ・ジュンという生徒と同じ班に割り振られた。

彼は短く刈られた黒髪に、少し重たいまぶた。制服の襟が少し曲がっている。

表情は乏しく、声は小さい。

机の上の端末には、スコア31/評価対象外予備枠と表示されていた。


ミナトは彼のことを、ほとんど知らない。

“知らない”というより、“話すきっかけが与えられてこなかった”。





演習が始まる。

班の他の生徒たちがテキパキと「最適な提案」を繰り返す中、ハヤセは口を開かない。

一度だけ、「……いや、でもそれって…」と呟いた瞬間、AIが割り込んだ。


「発言意図が不明確。沈黙時間中の発言。-3点。」


その後、誰も彼に話しかけなくなった。





放課後。

ミナトはふとした気まぐれで、校庭の端にある屋上階段へと足を向けた。

人気のない鉄製階段を上がると、そこには誰かが座っていた。


ハヤセだった。制服の上にパーカーを重ね、腕を膝にのせてぼんやりと遠くを見ている。


「……来るとは思わなかったな」

ハヤセの声は、少し掠れていた。





「ここ、スコア低いと誰も来ない。

監視ドローンも反応鈍いし、黙ってるにはちょうどいい場所」


ミナトは黙って隣に座った。風が、音もなく吹き抜ける。


「俺さ」

ハヤセが言った。


「AIに向いてないんだと思う。……言いたいこと、うまくまとめられない。

適切な言葉とか、タイミングとか、そもそも“適切”って何なんだよって思っちゃって…」





ミナトは、そっと言った。


「……君の言葉、俺にはちゃんと届いてる」


ハヤセがミナトを見た。その顔には、ほんのわずかに戸惑いが浮かんでいた。


「……お前さ。あの詩、書いたろ?」


ミナトの手が、ぴくりと動いた。


「……あれ、良かった。泣くとかは無理だったけど。なんか、“音がした”って感じだった。

ずっと無音だったのに。ああ、これって俺の気持ちに近いかもって、思えた」





帰り道。

ミナトは、ポケットに詩の断片を書いた紙を忍ばせたまま歩いた。


「点数がすべて」というこの世界の外で、

ほんの一瞬だけ、人間同士の“感覚の橋”が架かった気がした。





翌日、ハヤセの席に貼られた評価シートにはこう記されていた。


「行動評価:沈黙傾向続行中。社会順応指導予備対象。」


それは、「次に消えるかもしれない者」の前触れだった。





それでも、ミナトのノートには新しい詩が綴られていた。


「言葉を持たない君が、

何よりも深く、僕をわかってくれた気がした。」

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