傷口の血を指先にとり、血を舐める。
「ほう。あなたは毒が身体に効かない人ですよね。大変面白いです」
僅かだが、毒が残っていた。
私の持っている解毒剤で対応できそうだ。
敵に襲われる可能性があるとわかってから、万が一のためにいろんな薬を持ち歩くことにした。
「小野寺さん、これ、飲んで。水がなくてごめんね。でも、口の中で溶けるから」
小野寺さんをなんとか仰向けにして、口を開けてもらい、粉薬を飲ませた。まだなんとか意識がある状態だ。これで安静にしていれば、命に関わることはない。
「さて、行きましょうか?」
「はい」
司波がこちらを見てほほ笑んでいる。
これで良かったんだ。
最後に樹くんに会いたかった。
もうその願いは叶わない。
覚悟は決めていた。
司波が私に背を向けた時の一瞬を見計らった。
自分の懐に隠しておいた注射器を自分に刺す。
「何をしているんだ!?」
注射器を手で振り払われたが、その液体は私の体内に入っていた。
「何をしたんですか!?」
思ってもみない行動をとられ、司波の怒りが露になった。
「あなたはもともと病気を抱えている。加えて体内に入ると、拒絶反応が起こり死に至る毒がありますよね?」
「何が言いたいんですか?」
冷静を装ってはいるが、抑えきれていない。
「蜂の毒です」
ピクンと瞼が反応をした。
間違いない、小野寺さんの情報が合っていて良かった。
「今の注射で密度を濃くした蜂の毒を私の体内に入れました。なので、私の血は何の役にも立たない。私の血を少しずつ取り込んで利用することもあなたにはできない。研究材料に使うにも、あなたには危険が伴います。残念でしたね」
もしもの時のために自分用に取っておいて良かった。
本当なら、月城さんか小野寺さんがあいつに差し込むはずだったから。
私には司波に対抗できる力はない。
「あははははは!!!!」
司波が発狂したかのように笑い出した。
「やられた、やられましたね!では、あなたにはもう用がありません。死んでもらいましょう!!」
私を利用して、生きたいと思っていたのだろう。
憎しみが声からも感じられた。
私は空を見た。こんな日なのに、青空だった。
目を瞑る。
天国に行けるだろうか、樹くんがあいつをきっと倒してくれる。
そう考えると最後なのに気持ちは穏やかだった。
その時、一羽の鳥の声が聞こえた。
急降下し、鳥は、司波に爪を立てて攻撃している。
「やめろ」
応戦しようと司波が刀を振り上げた時、鳥は華麗にその攻撃をかわし上空へと消えて行く。
「青龍?」
間違いない、青龍だ。
刹那、私と司波の間に立つ人影が現れた。
その人物は自分の刀を抜き、目で追えない程の速さで斬撃を入れる。
「樹くん!!」
「くっ……!」
司波は、思わぬところからの攻撃で体制を整えることができず、避けるために後方に飛ぶことしかできなかった。
「大丈夫か?待たせたな、すまない」
樹くんも少し息が切れている。
急いで来てくれたのだろうか。
「おや、隊長さん。思ったより到着が早い。計算外でしたよ」
「俺もお前が今日仕掛けてくるとは計算外だった」
二人は睨み合う。
「その女が余計なことをしてくれたお陰で、私の計画は台無しです。私は今までにないほど今激情しています」
それを聞き
「あとで、きちんと説明をしてもらう」
樹くんが私に咎めた。
「あとでなんてことは在り得ないんですよ、あなたたちは皆ここで死ぬのですから」
司波が攻撃態勢をとる。
「小夜は俺が守る。命に代えても。だから、心配するな」
私にそう伝えると、樹くんは司波に向かって走っていった。司波もこちらに向かって走ってきており、二人は勢いよく衝突する。
そうだ、伝えなきゃいけないことがある。
「樹くん!刀に毒が仕込まれています!少しでも切られちゃダメです」
チッと舌打ちをし
「余計なことを」
司波が呟いた。
二人の剣技が交錯する。
「面白い、面白い!先ほどの男も強かったが、あなたはもっと強いんですね」
刀と刀がぶつかる音がする。
すごい速さで目で追えない。
一方が押し出したかと思うと、もう一方が反撃をする。
そんな膠着状態が続いていた。
私は二人の戦いを見守るしかなかった。
お願い。お父さん、お母さん、樹くんを守ってあげてください。
その時、鳥の鳴く声がした。
「青龍?」
なぜ鳴いたのだろうと思ったその時、私は後ろから羽交い絞めにされた。
私を押さえつけているのは、隊服を着た隊士だった。
「司波様、やりました!」
男が声をかけると、二人がこちらを見る。
「小夜!」
一瞬の隙を司波は、見逃さなかった。
樹くんの刀を握る力が一瞬劣ったのか、司波の攻撃によって刀が弾き飛ばされてしまった。
「これはこれは!まさに絶体絶命というやつですね」
私は身動きがとれないし、樹くんも刀がなくなり応戦ができない。
「さて、ゆっくりと殺してあげましょう。お二人とも。まずは隊長さんから、何もできないよう腕を切り落としてあげましょうね。変な真似はしないで下さいね。先にあの女を殺してもいいんですよ?」
私が男に捕まっているせいで、樹くんは動きがとれない。
私の首には刀が突き付けられている。
私はいつも彼らの足手まといになっているだけだ。そんなのは嫌……!
その時、青龍が勢いよく飛んで来て、男の目を狙って爪を立てた。
「ぐわっ!」
いきなりのことで、男が動揺している。
私はその隙に男を力一杯突き飛ばし、拘束から逃れた。
樹くんはそれを見逃さず、刀を取りに戻る。
しかし、司波がそれを見逃すわけがなかった。
「そうはさせるものか!」
樹くんは刀を取ることはできたが、態勢がうまく整っていない。
司波の刀の方が速く、彼を捉えた。
が、間に入ってそれを受け止めた人影があった。
「颯!?」
司波の攻撃を刀で受け止めている。
「樹、早く!」
声を出した時、小野寺さんは力で負けてしまい、勢いよく後ろへ飛ばされた。
小野寺さんの代わりに樹くんが攻撃態勢に入り、司波の懐へ勢いよく切り込んだ。
小野寺さんを受け流した後だったため、防御が間に合わず、司波は樹くんの攻撃を避けきれなかった。
「ぐわっ!!」
彼の攻撃を受け、苦痛の声をあげる。
「樹くん!あれを!」
私は必死で叫んだ。
樹くんは、間髪を入れずに私が作った毒入りの注射針を司波へ刺した。
「何を……?」
司波はその場に呆然と立ちすくんだ。
「何をした……!?」
ふらふらしながら樹くんに近づこうとした時、息切れを起こし始めた。
「はぁ…!!はぁ……!」
呼吸ができない様子で、その場に倒れ込む。
そして吐血した。
「私の夢が……。私はただ最初は……。普通に生まれてきたかったと……。思っただけなのに……」
悲しい言葉を残して、絶命した。
私は、その場に座り込んでしまった。
やっと終わったんだ。
その時、青龍の鳴き声がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!