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わたしは一人で滋賀県に行った事はなかったし、美鈴の実家の琵琶湖の畔のその地域をまったく知らなかったので、大津駅からタクシーでその住所へ向かうことにした
私は後部座席の隅に坐り、車窓の外の目の覚めるような青い湖を眺め、美鈴に持って行くピンクのカーネーションのお見舞いアレンジをぎごちなく膝の上に乗せて座っていた
美鈴の実家のある町通りにタクシーが入り信号待ちで止まった時、その時に、道の向こう側を美鈴にひどく良く似た女性が歩いているのに気がついた
美鈴とまったく同じ紫色のシャーリングロングスカートとゆるふわの茶色い髪をしていた、しかし顔は淡いグレーの淵にレースが付いた日傘の陰に隠れており、後部座席の埃に曇った窓から懸命に覗いたけどついに見えなかった
もちろん美鈴であるはずはない
しかし、ちょうどこの人口の少ない町で、美鈴に似た人を見かけるのはあまりにも偶然すぎるように思われた。
驚いたことに美鈴の実家は廃れた二回建ての文化住宅が集合している場所だった。
みんな、植木やら自転車やら洗濯物が集合住宅の前に溢れかえっている
まるでその界隈は昭和初期の様な時代の波に取り残されたようだった
住所が書かれた引き戸式の玄関と表札を確認した・・・間違いない・・・この二階建ての一階のこの古ぼけた文化住宅が美鈴の実家だ