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オレンジ色に染まる天を見ながら、自分の席に突っ伏す。
正しくは、自分が座っていただけど…
ただ誰もいない教室は時計の秒針が進む音だけが鳴っている。
『平子くん、君に尸魂界に戻って死神として再び働いてもらいたい。』
目の前で頭を下げながら穏やかに話す京楽サン、つい『は?』と声が溢れたのもしゃーないやろ。
関係ないはずのひよ里ですら、横でギャーギャー騒いどるし。まぁハッチが止めてくれてんのは幸いやったな。
止めてなかったら、100%ひよ里は京楽サンを殴ってたんやろーなぁ…
大方『藍染に騙されてんのに気付いた途端これか!!謝罪の一つぐらい寄越せや!!』とか喚いてんのやろ。
『おい!ハゲシンジ!!』
ひよ里の怒号で軽く飛んどった意識を戻し、『なんや、ひよ里』と振り向くと俺の目に顔が映る。ひよ里は泣くような怒りを隠すことなく叫んだ。
『決めんのは、シンジお前や。でも、よぉ考え!!アイツら…』
『空いた5番隊隊長に務まるのは現状、元其の座に付いていた君が適任と上と総隊長が判断を下したんだ。』
言い籠ったひよ里の言葉を聞き、あくまでも自分ではなく上からの命令だと言うかのように京楽サンは相変わらずただ緩やかに穏やかに頭を下げているだけだった。
『…わかった、やったるわ』
『本当かい?』
この言葉を待っていたかのようにすぐさま顔を上げた京楽。反して一層暴れようとするひよ里
『ッ!!アホシンジ!!』
『しゃーないやろ、上の判断やしな。適任が俺しかおらんのやろ』
『あぁ…すまないね。平子くん、迷惑をかけるよ。』
『ただし、条件があるんやけど。聞いてくれるよなぁ』
それが2日前のこと
まぁ俺が出した条件が3日だけ、空座町に残ることの許可。
色々やらなあかんことがあるから、そう理由を付けて。
今日が最終日
明日にはこの机は俺の机や無くなってる。俺の居た記憶も一護達以外には多分残らんやろ、そこまで未練はないけど、ちぃとばかし寂しいもんやなぁ。
そう自分の考えに沈んでたら、優しく扉が開けられた。
霊圧がなくともわかる、足音と丁寧さ。
よっこいしょ、って口から溢しながら上半身をそっちへと向けた。
「何しにきたん一護」
「気付いてたんだな、平子」
横に座りつぶやくちっこい少年、まぁ身長だけは小こくないけど…
「んで、何しにきたん?用があったんやろ俺に」
バレバレの行動を見透かされて驚いたように目を開けながら俯いた一護
「なんや、感情の上下が激しいやっちゃなぁ…」
其の声を皮切りにまた教室が静寂に包まれた。秒刻の上を滑るように遅くなっていた。何を話すわけでもないんやけど、今なら何されてもきっと一護は困ったように笑うんやろな…
不器用なくせして、バレへんように笑うんやろ
窓の外では烏が2、3羽纏まって飛んでいった。オレンジに黒は映えんなぁ…とか思いながら空を眺める。
沈黙を破ったのは一護の方やった
「あのさ、平子。」
目に映しながら一護の言葉を聞いていた。
「お願いが、あんだけど。聴いててもらっても良いか?」
顔を上げて見つめてくる一護、そんな律儀にお願いされちゃあ断ることもしにくいやろ…
「できる範囲やったら考えたるわ」
安堵したように目を細めた一護
ほんと、戦っとる時とは違って穏やかに笑う。こっちの調子が崩れてしまいそうになって苦笑しか無い。
「………すを………い」
「えっ?」
一護から聞こえた声がどうにも信じられんくて、念の為聞き直す
「だからっ、平子にピアス開けて欲しいって言っんの!」
「聞き間違えじゃ無いやんけ…」
「本当にええんか?」
痛みが伴うことぐらい一護だって知ってるやろうし、なんで俺を選んだのか全く持って意味がわからん
「俺は、平子が良い…」
脳内を読んだように制服を握りしめながら頭を下げる。珍しいにも程があるわ…
あの一護が誰かに頼って頼むのは。
「…ええよ」
開けたるわ、そう言いながら頭を撫でれば制服一護のズボンに黒い斑点が幾度か落ちた。
2人しかいない教室にピアッサーの押し込まれる音が響いていった。
其の後に小さく聞こえた「ほな、またな」と言う声。
その日、平子真子の霊圧は空座町にから消えた。
「おっはよー!!一護!!」
「黒崎くんおはよう」
教室を開けた途端に鼓膜に響く聞き慣れた声。
でもそこには、関西弁の訛りが入った声も聞こえない。
自分の席の隣には誰もいない。
席も無くなっている。
アイツは元々居るべき所へ帰っただけ。
ただそれだけだ。
死神の力のない俺にはもう関係がない話である。
何かを吹っ切れたように小さく笑った
「おう、おはよう」
そう返した一護の耳には黄色のピアスが光っていた。