教室で一人、充の席に座って本来の主を待つ。トイレから戻ったらもう充は教室内に居なくって、『誰かに呼び出されて出て行ったぞ』とだけ、圭吾が教えてくれた。
今度からは充も連れてトイレに行かないとダメだな、一時たりとも充を一人にするなどもうしないでおこう。…… いや、流石にやり過ぎか。『寂しがりやの女子かよ!一人で行けや』って言われそうだ。
鞄は放置したままだから、きっとここに居れば戻って来るはず。校内を探して回ろうかとも思ったが、俺は充を信じてみる事にした。
先生に呼ばれただけかもしれないし、他の友人と立ち話をしているのかもしれない。俺を放置して女子からの告白を聞き、そのまま付き合うとかは…… 無いはずだ、無い無い無い無い、あってたまるか!
——信じると思った側から不安になり、唇を噛み締めながら必死に自分へと言い聞かせた。
制服の中からスマホを取り出し、写真のアルバムを開く。一枚一枚、舐めるようにジッと見て、心を落ち着かせる。
(可愛いなぁ、いつ見たって癒される)
写真を見て一人で口元を綻ばせていると、音も無く、誰かに後ろからスマホを取られた。
「——んなっ⁈」
驚き、慌てて振り返る。するとそこには、「うわ!なんじゃこりゃ!」と言いながらスマホの画面をフリックしまくる充が立っていた。
「…… ここが清一のコレクションルームなのか。お前の部屋に行った程度じゃ気付かん訳だ」
充の写真しか入っていないアルバム画面を俺に向け、それをゆらゆらと振って見せてくる。
(終わった…… もう親友としてすら、充の傍には居られないのか)
真っ青な顔を充に向け、意味は無いとわかってはいながらも、慌ててスマホを取り上げる。制服のポケットに放り込むと、俺は泣きそうな顔を隠すようにして机へと突っ伏した。
「モテるくせにさ、何で俺なんだか」
呆れ声が上から聞こえ、充が俺の頭を撫ではじめた。撫でる事には慣れていても、親以外に撫でられたのは初めてかもしれない。正直すごく心地いい。猫みたいに瞼を閉じて、充が俺に体を預けてくる時の気持ちをしっかりと理解出来た気がする。
「デカイ図体して甘えんなよ、全然似合わねぇわ」
クスクスと笑っており、言葉の割には楽しそうだし、止めるような気配は無かった。
写真の件がバレたっていうのに、充は何でこんなに機嫌がいいんだろうか。良い事があった……のだとしたら、一緒には居なかった間にか。先週と同じ心配をしている事に少し腹が立つ。
「どこに行ってたんだ?先生にでも、呼びだ——」
机から顔を上げて充の顔を見た瞬間、言葉が途切れた。
「み、充⁈どうしたんだ、その顔!」
「おいおい、今更かよ」
ケラケラと笑うが、笑うと少し頰が痛いのか顔が引きつっている。充の頰は赤い上に少し腫れていて、手には保冷剤が握られていた。
「ちょっと言い方失敗してさ、叩かれたわ」
「誰にだ?…… あぁ、先週の子か?」
「んだ。キッチリ話つけてきた——とは、言えないかもだけど。マズイ事に俺のせいで変な噂がたつかもしれん状況になった…… その辺は勘弁な」
「変な噂?」
訝しげな顔を向けると、充は少し困った顔を俺に見せた。
「あぁ。俺らがホモだって噂。マジで言われるかは、流石にわからんけど」
「…… 『ら』?」
充が好きな俺だけがそう言われるなら理解出来るが、一括りにされた理由がわからない。
「あぁ、まぁ続きは帰ってから話そうぜ。学校でするような話題じゃ無い」
「…… わ、わかった」
素直に頷くと、俺達は揃って俺の家へと急いで向かったのだった。
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