私 の 長 い 走 馬 灯

後輩に彼女を作れと言われた翌日 ｡

独り家に籠もるのも酷く億劫で外を流離う午前10時半過ぎ ｡

人なんて居やしない近くの海が見えた ｡

燦々と降り注ぐ太陽の反射で所々白く光っている ｡

穏やかな波に彼女の笑顔が重なって気付いた時には砂浜へと降りていた ｡

砂浜に腰を下ろし何分経ったか ｡

仕事の疲れ

彼女への想い

後輩の言葉

一時（ひととき） ､ 総て手放した様に引いては寄せる波を眺めていた ｡

何も考えない様に

彼女の笑顔すらも一度は脳内から消えていた様にも感じる ｡

自分でも何故だか解らない儘

兎に角 ､ 脳内を ‘ 無 ’ にしようとしていた ｡

何色とも言い難い複雑に彩られた海に黒い影を見付ける迄は ｡

「 … は 」

最初は魚か何かだと思っていた ｡

違った ｡

そこそこ大きな魚だとしても確実に違った ｡

姿形からしてヒトだった ｡

服が濡れる事も気にせず黒い影から其の人を引き上げた ｡

夜勤帰りか何かだろうか ｡

昨日話したばかりの後輩とよく似た服装だった ｡

OLという感じの綺麗な服が海水を含んで軽く透けていた ｡

濡れた長い黒髪が彼女を連想させる ｡

「 は ､ ゆ … 」

嗚呼 ､ 違う ｡

腕の中に居る女性が彼女だと解ってしまった ｡

何時の日も教室の隅でひとり儚げな雰囲気を漂わせ ､ 空を見上げていた彼女の横顔と血色の無い青白い肌の女性の顔がパズルの様にピタリと重なる ｡

彼女との日々が

忘れようと必死になったあの時間（とき）が

1度にフラッシュバックしてくる ｡

119

冷えきった指先で3つの数字を押し電子音の後 ､ 繋がった電話越しの相手に彼女の容態を伝える ｡

「 羽優 ､ ！ 」

何度も呼び掛けながら肺に空気を送り込む ｡

何度も ､ 何度も ､

彼女の脈が戻るまで必死に続ける ｡

もう1度 ､ 空気を送り込もうと近付けた唇に彼女の口から僅か洩れた空気が触れた ｡

「 羽優 ､ ？ 」

瞼はピクリとも動かない ｡

救急車のサイレンは未だ聴こえない ｡

彼女と逢いたかった筈だった ｡

でもいざ目前にした彼女は酷く弱っていて俺の知らない彼女で ､

恐くなった ｡