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泡咲めろあ🫧🪄
843
りんご
904
翌夜。
鐘が鳴った。
山の奥から。
ゴォォォン……。
旅僧が足を止める。
「寺など、ありましたかな」
「ない」
お師さんが答えた。
また鳴る。
ゴォォォン……。
低く。
腹の底まで響く音だった。
「封印が死んだ」
旅僧の顔色が変わる。
「死んだ?」
「ああ」
お師さんは山を睨んだ。
「俺達のじゃない」
佐衛門は歩き出した。
「行くぞ」
三人は鐘の音を追った。
月明かりの山道を抜ける。
やがて、木々が途切れた。
旅僧は息を呑んだ。
墓だった。
一つや二つではない。
山の斜面いっぱいに墓が並んでいる。
古いもの。
崩れかけたもの。
名前の削れたもの。
中には、石だけが残ったものもある。
「……何人いるんです」
「分からん」
佐衛門が答えた。
だが。
歩みを止めた。
墓を見ている。
何かを数えていた。
「……違う」
「何がです?」
佐衛門は墓を見渡した。
乱雑に並んでいるように見える。
だが。
よく見ると違った。
二十四。
墓の列が、二十四に分かれている。
それぞれの列の先に、少し大きな石が立っていた。
「二十四……」
旅僧が呟く。
佐衛門の顔から、僅かに表情が消えた。
「封印と同じだ」
墓地の中央に、巨大な石がある。
墓石というより。
何かを押さえつける蓋だった。
その下から。
鐘の音が響いている。
ゴォォォン……。
「……墓じゃない」
佐衛門が呟く。
「これ全部が――」
お師さんが遮った。
「言うな」
低い声だった。
「まだ、決まったわけじゃない」
だが。
その隻眼は、二十四の墓を見ていた。
巨大な墓石に、亀裂が走った。
バキッ。
その瞬間。
二十四の列のうち、一つが暗く沈んだ。
墓石に刻まれていた文字が消える。
旅僧が息を呑む。
「……一つ」
佐衛門が数える。
「壱」
また。
ゴォォォン……。
二つ目の墓列が震えた。
「弐」
さらに。
「参」
佐衛門の声が止まる。
お師さんが、月を見上げた。
ほんの一瞬。
そして目を逸らした。
「……もう始まってる」
やがて。
墓石の前に人影が現れた。
白い着物。
長い髪。
顔がない。
「遅かったね」
顔のない女が言った。
旅僧の背筋が凍る。
「四つ目は終わった」
女は墓を見た。
「だから、あと二十」
佐衛門の目が細くなる。
「……やっぱり」
顔無しが笑う。
「何か気になる?」
「お前」
「何?」
「こいつらは、お前を見てない」
顔無しの笑みが消える。
佐衛門が巨大な墓石を見る。
「墓を見てる」
旅僧も周囲を見渡した。
その通りだった。
墓から這い出した黒い影たちは、一体も顔無しを見ていない。
全員。
中央の石だけを見ている。
お師さんが低く呟いた。
「……墓守」
顔無しが振り返る。
「そう」
「ここを守っている」
巨大な墓石に、もう一度亀裂が走った。
バキッ。
影たちが一斉に跪く。
顔無しの身体が強張った。
「まずい」
初めて、その声に焦りが混じった。
「早すぎる」
佐衛門が刀の柄へ手を置く。
「何が来る」
答えはなかった。
墓石が鳴る。
ゴォォォン……。
今度は鐘の音ではない。
何かが。
石の内側から叩いている。
ゴォォォン……。
ゴォォォン……。
二十四の墓が、一つずつ震え始めた。
佐衛門は刀を抜いた。
墓石の亀裂から。
白い手が伸びた。
指が地面を掴む。
その瞬間。
山中の二十四の墓から。
一斉に、
声がした。
『ひとつ』
『ふたつ』
『みっつ』
数えている。
誰かが。
封印を。
墓を。
何かを。
ゆっくりと、起こしていた。
コメント
1件
第六話、読ませていただきました……。鐘の音から始まる不気味な空気、一気に引き込まれました。二十四の墓と顔のない女——あの「墓じゃない」って台詞、ゾッとしました。ラストのカウントダウン、何かがゆっくり起き上がってくる感じがたまらなくて。続きが気になりすぎます……! 重くて美しい表現、すごく好きです。