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羽海汐遠
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レイ
215
#小説
凍えそうなカモ
19
ささみチーズ。
103
2話 「暑さは熱さで制す」
8月。今は夏休みシーズン真っ盛りで、平日の昼間から街には子供たちが沢山いる。
それにしても、
「…暑いよな〜」
そう呟き、隣に目を向ける。黒髪の少年は赤いビー玉のような瞳をこちらに向けるだけで、それ以外何の反応も見せない。
その頬を掴む。むにゅ、と柔らかい肌の感触に、なんだか不思議な感じがした。
こうして触れる感覚は普通の子供なのに。むしろとても健康的で、髪も肌もツヤツヤしている。
こんなに暑いのに、汗すらかいていない。
「アイス食う? 」
「…」
「ふーん?じゃあ激辛カレー食わしてやるよ」
自分はニヤリと笑う。少年は反応しなかったが、その目線は前方の後頭部が寂しい男に向かっていた。
「行くよ」
少年の手を握り、店へと向かい歩き出す。少年の目線はまだあの男へ向いている。
「お前が他人に興味を持つなんて珍しいな。 もしかして知り合い?」
少年が現れてから3日が経っていた。分かった事は、喋らない、表情が変わらない、誰の言うことも聞かない。つまるところ、何も分からないということだ。
猫が突然人間になってしまった説を疑いはじめてもいい頃合いだろう。
「…」
もちろん返事なんてあるはずもなく、俺はその男に話しかけに行こうとしたが、結局人混みに紛れて見失ってしまった。
それから、死ぬほど辛いカレーがあると噂のカレー屋に行った。暑さは熱さで制するのだ。
店に入ると、かなりマッチョなインド人の男がイラッシャイマセと白い歯を見せて歓迎してくれた。
席につき、メニューを睨む。とりあえず店で1番辛いものと、迷ったが少年の分は甘口のカレーにしておいた。
少年は大人しく座っていて、どこかも分からない場所を見つめていた。
「…好きな食べものとかある?」
「……」
会話が続かない。そもそも会話どころか、言葉を話さないんだが。
「…」
「…」
「…」
「…」
「オマタセシマシタ〜」
頼んでいたカレーが届いた。見た目から物凄く辛そうで、ほんの少しだけ後悔してきた。
「…うまそー、いただきます」
手を合わせる。最初の1口、の前に料理を前にしても微動だにしない少年に、スプーンを握らせる。
「ほら、食べな」
それから自分はカレーを食べ始めた。思ったより辛くなく、夢中で食べた。おいしい。
「……!?辛ッ」
しかし、突然燃え上がるような痛みが広がり、ボロボロと涙が出てきた。
「か、辛い…遅効性かよ」
少年は泣く自分をひと目見ることすらせず、カレーを食べていた。
なんで俺はこんなに辛いものを頼んだんだろう。激辛だってメニューにも書いてあったのに。いや、それを目当てに来たんだけどさ。
半分も食べずに諦めるなんてダサすぎる。流石にプライドが許さない。
そうは思っても、手は止まっていた。
スプーンだけが行ったり来たりしていたら、いつの間にか少年は食べ終わっていた。
「…早。なあ、これ食べてみる?」
「……」
「はい、あーん」
すんなりと、少年の口に入った。大人気ないかもしれないが、もしかしたら少年の無表情が崩れるかもしれないと期待もしていた。
「…」
「まじかよ…お前、すごいな」
少年は表情を動かさなかった。辛いものが好きな俺が泣くほど辛かったそれを食べてもなんの反応もないなんて。
「…これさ、食える?」
少年の皿と自分の皿を交換した。スプーンを握らせると、少年はチラリと自分を見たあと何事もなかったように食べ始めた。
店を出て、コンビニでアイスを食べていた。さっきのカレーという遅効性の毒がまだ効いていて、口内がピリピリと痛かった。
「はぁ、生き返る…」
少年はあれを完食した。本当に凄い。少し心配にもなるが、特に何とも無さそうだから大丈夫だろう。
横を見ると、少年はまたどこかを見つめている。目線を辿ると、さっき店に入る前に見た、後頭部が寂しい男がいた。
50代ぐらいで、渋い色をした長袖のシャツを着ている。
「やっぱり知り合い?」
男は駅の方へとゆっくり歩いていた。それをぼんやり見ていたら、前方の建物の看板が揺れている事に気がついた。
落ちそう、そう思った刹那。
「あ…っ」
看板が落下した。運悪くその下には、先程の男が。
「……は」
手に持っていたアイスが溶けて、ぺちゃりと地面へ落ちた。
嫌になるほど暑いはずなのに、自分はその場に凍りついていた。
コメント
1件
ああ、読了しました。この第2話、めちゃくちゃ気になりますね。 まず「暑さは熱さで制す」っていうタイトルがもう好き。でも実際は激辛カレーに泣かされて、最後はアイスも地面に落とすっていう——皮肉が効いてる。そして何より、あの少年の無反応さ。最強クラスの辛さを平然と食べきる描写、「お前すごいな」ってなる気持ち、すごく分かる。 伏線っぽいあの後頭部の薄い男性も気になるし、最後の看板落下の場面は一瞬で空気が変わった感じがして、ぞっとしました。少年の視線の意味もまだ全然掴めないし、続きがすごく気になります。