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「 おはようございま~す、! 」
今日は、クランクインの日。
何度か主演を経験したことがあるが、今日は特に緊張している。
なんてったって、初のBLドラマだからだ。
十数年芸能界にいるが、初めての経験すぎて右も左も分からない。
「 深澤さん、緊張してます?笑 」
マネージャーにいじられる。
「 もぅ、うるさいなぁ 笑 」
メイクをしてもらっている間、何十回と読んだ台本を開く。
『 凪と雫は体を重ねる。 』
幾度となく見た字面なのに、思わず目を伏せる。
「 ふ~…、落ち着けっ、… 」
BLドラマには、レベルがある。
初心者向け、中級者向け、上級者向け。
よりにもよって、今回のドラマは
猛者向けだ。
台本を読むだけでも、体が火照ってしまうような濃厚な触れ合いが多い。
俺は、そこそこBLドラマを嗜む方だが、ここまでのものを見たことがない。
「 ぁ~…、」
俺は頭を抱える。
今日は1話目の撮影だが、まさかの
しょっぱなから濃厚なシーンがあるのだ。
『 はだけた服に手をかける。
凪「 雫、こっち見ろ。 」
雫「…むり、 」
凪は少し顔をしかめて、雫の髪を掴む。
凪「 舐めろ。 」
雫は、言われるがまま、凪の____ 』
「 うわぁぁっ、!! 」
思わず、立ち上がってしまった。
楽屋にいた全員からの視線が集まる。
「 ぁ、あ…すみません、 」
席につき、深呼吸をする。
( 何度も主演を務めてきたんだからこんなので怖気付くな。)
そう自分に言い聞かせて、落ち着かせる。
突然、楽屋のドアが開いた。
「 おはようございます。深澤さんいらっしゃいますか? 」
鏡越しに見ると、金髪の高身長イケメンだった。
「 深澤さんは、そこにいらっしゃいますよ! 」
マネージャーが彼を案内する。
俺は、この期に及んで気づいていないふりをした。
「 深澤さん、! 」
肩に手を置かれる。
渋々振り返ると、ありえないほどの美形が立っていた。
「 凪役の、ラウールって言います!」
俺は汗が止まらなかった。
こんなイケメンと、あんな濃厚な触れ合いを…
頭はその事でいっぱいだ。
「 ぁ、…雫役の深澤辰哉ですっ、よろしくお願いします…、! 」
精一杯声を絞り出す。
彼は、少し困ったような顔をして口を開いた。
「 初のBLなのに…俺なんかが相手ですみません…笑 」
「 えっ、なんで謝るんですか、!
俺は、ラウールさんが初めての相手で安心してます! 」
( ん?なんか俺きもくね? )
俺は焦りすぎて、めっちゃ気色悪いことを口走ってしまった。
彼も困惑したような表情を見せる。
「 あっ、あぁ、いや、別に変な意味ではなくてっ、…え~っと、… 」
( こんな反応してたら、なんかほんとに思ってたこと言っちゃったみたいな感じになるじゃん、! )
良い弁解の言葉が出てこなくて、さらに汗ばむ。
そんなことをしていると、ラウールさんは吹き出した。
「 …ふふっ、面白いですね、深澤さん。笑 」
「 え…ぁ、……すみません… 」
ラウールさんが笑ってくれたことで、変な空気になっていた楽屋も少し和んだ。
「 俺、主演初めてだし、ずっと脇役だったので…深澤さんの相手が務まるか心配だったんですけど、深澤さんとなら、すごく頑張れそうって思いました!笑 」
俺はその言葉に救われた。
先程まで、不安で押しつぶされそうだったのが、すこし軽くなった気がした。
「 …ていうか、俺の方が年下なので敬語やめてください! 」
「 え、でも、言うほど変わんないですよね? 」
何気なく、口にするとマネージャーから平手打ちが飛んできた。
「 ばか! ラウールさんは23歳ですよ…! 」
「 …えぇ“っ!?!? 」
「 へへ…、すみません…若造で…笑 」
あることが頭をよぎった。
( 11歳差で、BLで濃厚なシーンばっかって…捕まらないよな…? )
しかも、11も下のイケメンに、攻められるという事実。
俺のプライドが傷ついた。
「 ぇ、いや…大丈夫だけど、…ほんとに23…?」
「 はい。23歳です笑 」
大人びすぎていて、てっきり27くらいかと思っていた…。
あまりの衝撃に言葉が出ない。
「 深澤さんこそ、本当に34ですか?
ちょっと、可愛すぎると思うんですけど。笑 」
「 は、はぁ!? なにいってんのよ、!
おじさんに可愛いとか、普通言わないから! 」
ラウールの年齢に見合わない余裕さに飲み込まれる。
「 深澤さん、ムキになりすぎ。笑 」
ラウールはくしゃっと笑ってそう言った。
翻弄されてたということが分かって、すごく恥ずかしい。
「 人をおちょくるなよ… 」
舞台は、学校。
昔から知り合いで仲の良い主人公たち。
新卒教師の、雫。
高校3年生の凪。
2人は、一見兄弟のように仲の良い幼なじみ。
だが、本当は、飼い主とペットのような2人。
歪んだ愛を育む2人の行方は…。
そんな内容のドラマ。
俺は、スポーツウェアを着て、ラウールは制服だ。
「 やっぱり、制服似合うなぁ… 」
「 やめてください。23で制服って、結構ギリじゃないですか?笑 」
その何気ない言葉が、34の俺にはグサグサと刺さる。
「 いや、34で新卒の方がきついだろ…。 」
ラウールは容赦なく笑う。
「 あははっ、たしかに!笑 」
「 お前…、そんな笑うことないだろ~… 」
自分で言うのはいいけど、人に肯定されるとちょっと虫の居所が悪い。
ラウールは、ごめんごめん。とふわっと謝罪すると
突然首に手を回してきた。
「 俺は、すっごく似合ってると思いますけどね、新卒役。 」
指の腹で俺の胸をなぞる。
びっくりして、ラウールを押して離れた。
「 っはぁ!? な、なにいってんの! 」
すると、先程まで真剣な顔してたくせに、可愛い笑顔にコロッと変わった。
「 あ~やっぱり深澤さん面白いなぁ笑 」
あんなこと言っといて、へらへらと笑いながら監督の方へ歩いていった。
俺は、11も下のやつに翻弄されて、馬鹿みたいに怒ってるのが恥ずかしかった。
そんなこんなで、機材の準備も終わり、撮影が始まった。
「 じゃあちょっと順番が前後してしまうんですが、撮影の兼ね合いでまず、キスシーンから撮影します! 」
「 えっ!? 」
よりにもよってキスシーンからだと…?
それはまずい。
まだまだ関係もできてないし、ほぼ初対面なのにあんなガッツリキスとか…
俺は必死にどうにかしようとした。
「 えっ、…教室のシーンとか…、 」
「 今日エキストラさん呼んでなくて お2人だけのシーンしか撮影できないんですよ~…!」
「 あぁ…はぃ… 」
俺たち2人だけのシーンといえば、1回は接触がある。
どちらにせよ、キスは避けられないということだった。
「 はぁ…、 」
溜息をつくと、ラウールが駆け寄ってきた。
「 深澤さん体調悪いですか? 」
「 えぇ?悪くないけど…?
なんで? 」
「 溜息ついてたから… 」
「 あ~… 」
俺はあまりにもキスシーンが憂鬱すぎて、行った行動で勘違いさせてしまった。
「 もしかして、…俺とキスシーン撮るの嫌ですか…? 」
「 …は!? 」
あさからさまに、しゅんとした顔をするラウール
垂れ耳と垂れ下がったしっぽが見えそうなくらい大型犬みたいだった。
「 そ、そんな…嫌だなんて思ってないよ、! 」
「 じゃあなんで溜息ついてたんですか…、 」
しゅんとした顔のまま、こちらを見つめられると口を紡いでおけなくなる。
「 ぇ…、ちょっと、緊張してて… 」
そういうと、ラウールはコロッと表情が変わる。
「俺とキスするの緊張するんですか? 」
生意気なデコを小突く。
「 いてっ、 」
彼は額を抑えてこちらを睨む。
「 ば~か。調子のるな。
お前だから緊張してるんじゃないわ。 」
「 え~? 可愛いなって思ったのに… 」
「 そんなの思ってくれなくていいよ~ 」
ラウールは少し不貞腐れた顔をしながら後ろにちょこちょこ着いてきた。
「 じゃあ、撮影始めます。
3、2、… 」
スタートの合図と同時に俺は音楽室へと向かう。
資料をたくさん抱えて。
「 雫。 」
「 あ、凪…! 学校おつかれさま! 」
「 …どこ行くの? 」
「 今から音楽室行くよ。凪は? 」
「 …俺も行く。 」
「 …そっか。 」
2人でならんで歩く。
俺の緊張はまだとれない。
「…よし!仕分けもできたし、… 」
「 …雫さぁ、あいつと仲良いよな。 」
「 ん? あいつって? 」
「 あのムキムキの体育教師。 」
「 あ~、吉永先生でしょ。
俺の上司だし…、まぁ仲良くはさせてもらってるよ。」
凪は立ち上がって迫ってくる。
「 …俺嫌なんだけど。 」
「 え? 」
壁に追いやられしまった。
「 …あんな甘えやがって。 」
「 ぃや、…別に甘えてなんかっ、… 」
「 …ちゅっ、 」
「 んんっ、…ぅ、! 」
逃げられないように腰を抱えられ、甘いキスをされる。
「 っ、ふ…ん~っ、! 」
「 っ…、雫、無防備な時多すぎ…。 」
「 んっ、…なにが、? 」
「 胸元ゆるゆるだし、首筋えろすぎるんだよ。」
長い指が服の中に侵入してくる。
冷たい手が俺の肌を滑る。
「 ぁっ、ちょっと…学校だよ、! 」
「 旧校舎に来る教師なんかお前以外いないだろ。 」
「 んっ、嫌、凪だめだよっ…! 」
俺は顔が熱くなる。
ラウールの顔が近くて、キスも情熱的で濃厚で。
なんだか変な気分になってしまった。
「 ちゅっ、…ん、 」
首筋へのキス。
息がかかるたびに、体が跳ねる。
「 ぁっん、やだ、凪っ、…! 」
「 黙っとけ。 」
口に指を入れられて、中を触られる。
歯をなぞられて、舌に絡められる。
「 んっ、ふっ…ぅ、 」
「 カット! OKです! 」
カットがかかると、凪を演じていたラウールとは真逆で、服を直してきた。
「 すみません、大丈夫ですか? 」
「 ぅ、うん…大丈夫、 」
顔が見れない。
こんなに、純粋で性欲の欠片も無さそうなやつから、“男“を感じた。
「 …深澤さん、照れてます? 」
「 は、はぁ? 別にそんなんじゃねぇよ…! 」
( お前はなんで照れてねぇんだよ…! )
ラウールは顔を覗き込んできて、ニヤニヤしている。
「 俺にドキドキしてくれるなんて、嬉しいなぁ笑 」
「 ばか、ドキドキなんかしてないって。
お前、恋愛ドラマ撮影中、相手を好きになるタイプか? やり方に口は出さね~けど、そんな事ばっか言ってっと勘違いされるぞ。 」
ラウールはきょとんとした顔を見せる。
「 俺、恋愛ドラマ初めてだし、そんなやり方してるつもりもありません。
ただ、深澤さんに思ったことを伝えてるだけですけど…勘違いしてくれますか? 」
「 …、!? 」
さっきの延長で、顔が近いままだった。
ラウールの目は揺らぐことなく俺を捉えている。
「 …おじさん弄んでも楽しくないだろ~? 」
ラウールの腕の中からすっと抜ける。
「 弄んでないです、本気なんですけど!」
「 はいはい、もういいから。次のシーンいくぞ。 」
「 …もぉ、… 」
in 深澤宅
「 今日の俺、なんかおかしい、… 」
今日1日振り返ってみた。
11も下の奴に“可愛い“って囁かれただけでムキになったり、何度も経験してるキスシーンに異様に緊張したり、本気で照れたり。
俺みたいなのが…有り得ない。
俺は今までキスシーンをしても、濡場を経験しても一切緊張などせず、引きづることもなかったのに。
今日だけは。
キスする前の、本能で動いているようなラウールの目が忘れられない。
「 …俺、やっぱりおかしい、 」
酒を飲むのを辞め、
すぐ寝床に入り、無駄なことは頭から消して眠りについた。
コメント
1件
読ませていただきました。タイトルが「# 1」ってのも新鮮でいいですね。 もう、深澤さんの緊張と動揺がひしひしと伝わってきて、読んでるこっちまでドキドキしちゃいました。34歳のベテ演員が11歳下のイケメン相手に翻弄されまくる様子が、すごく可愛くて愛おしいです。ラウールの余裕ある態度とのギャップがもう…! キスシーン、実際の撮影ってこんな感じなんだろうな〜と想像しながら読めて楽しかったです。続き、ラウールの本気度が気になります。次話も楽しみに待ってますね🤍