仕事帰り。
案の定、仕事で遅くなりお腹ペコペコになったので、美咲の店へ。
美咲の店は職場からは離れてるけど、自宅までの帰り道にあるのでこういう時立ち寄れるからとっても助かる。
「おっ、いらっしゃい」
「美咲~ご飯~」
「ハイハイ」
店に入りいつもの席へ。
「今日は何にする?」
「う~ん、じゃあね~今日は・・これ!」
メニューを見て即決で食べたいモノを指差して伝える。
「は~い。じゃあちょっと待ってて~」
あっ、美咲に早瀬くんとのこと話しておいた方がいいのかな。
でも別に関係性はそんな変わったってワケじゃないし。
うん、別に付き合ったワケでもないから、わざわざ報告することないよね。
そういえば、そんな彼ともここで最初出会ったんだっけ。
あの時は適当に話してただけだったのに、まさかこんな風になるとはな。
でも。なんだろ。
不思議と今ちょっとそんな彼との時間も楽しめてる自分がいる。
「透子」
その時後ろから声をかけられる。
ちょっと待ってこの声・・・。
やっぱりその姿を見て溜息。
涼さん・・・。
「なんでまたここに?」
「またこっちに仕事で出張来てて。今日は時間出来たから」
「そうですか」
「隣いい?」
「・・・どうぞ」
ここは美咲の店だから私が断ることも出来ないし仕方ない。
「あっ、涼さん。いらっしゃい」
「美咲ちゃん。どうも」
「またこっちに出張ですか?」
「あぁ。最近ちょっとこっち来ること多くて。あっ、ビールもらえるかな?」
「了解で~す」
美咲が注文を受けて準備しに行く。
「透子。連絡先変えただろ」
「はい・・・」
あの時は連絡先が繋がっていることにも無駄に期待したくなくて連絡先を変えた。
「あの部屋にはまだ住んでるの?」
「・・・まさか。とうの昔に引っ越しました」
別れてからしばらくして気持ちを引きずりたくなくて、引っ越ししようと決めた。
その時、修ちゃんと美咲が今の部屋を紹介してくれた。
まぁ、それがまさかの早瀬くんの隣の部屋だったワケだけど。
「潔いね。オレと繋がってるモノはすべて無くしていってるってワケか」
「今も残してる意味なんてあります?」
「あっ、涼さん。どうぞビールです」
「あぁ、ありがとう」
勝手な人だ。
昔から都合よく自分の思う通りに考える人だったっけ。
「いや。オレの勝手な都合だよな」
「・・・そうですね」
「透子。ちょっと話出来る?」
「今してますが」
「いや、これからちょっとゆっくり・・」
「今からご飯食べるんで」
「それ終わってからでも」
「終わったらすぐ帰ります」
「じゃあ、今でもいいや。オレまた明日大阪帰るから」
「そうですか」
「だから、もう今日しかないから今話すよ」
出来るだけもう話したくないのにな・・。
「透子。あの時はあんなにオレに甘えてくれてたのに」
「・・・昔の話です」
あの時の私じゃなく今の私はこんなに冷たくて可愛くない。
だから、このあからさまな接し方を見て、気持ちわかってよ。
「もう昔に、あの時みたいにオレたち戻れないかな?」
・・・やっぱり勝手だ。
自分勝手に私の前からいなくなったくせに。
「前に言ってたけど・・ホントに今大切にしてくれる彼氏なんていんの?」
「・・・います」
そこ重要?
実際は彼氏なんてあれから出来るはずもなくて。
まぁ、本気にさせ合う微妙な関係の人ならいるけど・・・。
っていうか、いてもいなくてももう関係ない。
「透子。オレ・・今もお前のこと・・・」
「あの」
その時もう一つ聞こえて来た声。
「オレの大切な彼女に手出さないでもらえます?」
振り返ると、早瀬くんの姿。
「君・・が? 今の透子の?」
早瀬くんを見て涼さんが確認する。
「あと。前の彼氏だかなんだか知りませんけど、今オレのモノなんで、気易く呼び捨てにしないでもらえますかね?」
躊躇することなく堂々とそんなありもしない言葉を言い切る。
予測してない言葉に、前カレの前で今カレでもない人にドキドキしてる自分に動揺する。
例え嘘でもそんな言葉を言われるのはさすがにキュンとしてしまう。
「オレが彼女のこと大切にしてるんで心配しないでください。あなたの代わりにちゃんとオレが幸せにしますから」
涼さんとの関係と今の私の思いを知ってるから、きっと言ってくれている言葉。
付き合ってもなく、この先の約束なんてしてるワケもないのに。
だけど、嘘でもそのストレートな言葉は私の胸にダイレクトに響く。
嘘なのになぜかホントにその言葉のように守られているような気がしてしまう。
「随分若い彼氏だね。ホントに君に幸せに出来るの?」
やっぱり涼さんから見ても私と年齢差あるのわかっちゃうよね。
こんな若い子が、そもそも私の彼氏なんてやっぱり無理あるか・・・。
「だから? オレが彼女より年下でも、あなたより好きな自信も幸せにする自信もありますけど」
なのに、なんでそういう嬉しくなること全部この人は言ってくれるんだろう。
「すごい自信だね。だけどオレも昔のオレと違うんでね。そうそう簡単に諦められそうにもないからオレも今ここにいるワケだし」
・・・どういう意味?
自分から振ったくせに・・・。
「透子はオレのモノなんで絶対あなたに渡しません」
早瀬くんの口から次々想像もしてない言葉が飛び出してくる。
そのことにビックリして二人のやりとりをただ眺めてしまう。
「透子。この彼氏のことホントに好きなの?」
まさかのダイレクトな言葉。
そう涼さんに聞かれて、目の前にいる早瀬くんを見つめる。
聞かれた瞬間は、一瞬戸惑った。
どう答えるべきなのか。
ここは早瀬くんに甘えてもいいのかどうか。
だけど、彼と視線が重なった時。
同じように私を見つめて来る彼を見た瞬間。
この胸が切なく響いた。
「・・・好き。 だから、もう来ないでください」
意外だった。
その瞬間、躊躇なく私はそう答えていた。
好きかと聞かれて、抵抗なく、例え今だけの嘘だとしても、自分の口からこんな自然に好きだという言葉が出てくると思わなかった。
好きで好きで仕方なかった人は目の前にいるのに。
今は彼氏でもない関係の人を好きだとその人に伝えてる。
だけど、きっと今一緒にいてドキドキしたりキュンとするのは、昔好きだった人ではなくて、今嘘で好きだと言ってくれるこの人なんだと実感する。
自分の中から出てきたこの”好き”という言葉が、今の想いと少しずつ重なっていく。
そっか・・。
私、早瀬くんのこと好きになり始めてるんだ・・・。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!