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アドラル皇国
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#日常
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
2,231
エウロピア各地に、モンゴリア帝国侵攻の報が次々と届いていた。
東方より現れた騎馬の大軍。
その進撃はあまりにも速く、国境を越え、
一つの国を滅ぼしたという報せが届いた頃には、
すでに次の国が戦火に包まれている。
だが――。
エウロピアは、一つではなかった。
国が違えば、利害も違う。
教皇領。
諸侯。
王国。
都市国家。
迫り来る危機を前にしてなお、それぞれが自らの国を守ることを優先し、
足並みは揃わなかった。
モンゴリア帝国軍は、その隙を逃さなかった。
「ジャンヌ、前へ」
「はっ!」
名を呼ばれ、一人の少女が列を離れて前へ進み出た。
レイナの前で片膝をつき、深く頭を垂れる。
「ジャンヌ・ダルク。本日より、
大后陛下レイナさまに命を懸けてお仕えいたします」
「うむ」
レイナは静かに頷いた。
そして、新たに加わった者たちを含む騎士団を見渡す。
整然と並ぶ騎士たち。
その視線が、一斉にレイナへと注がれていた。
「皆も知っての通り――」
レイナの声が、閲兵場に響く。
「このたび我らは、ロウム教皇インノケンタウロス四世より、
ロウム教皇領モネ砦の守護を仰せつかった」
一度、言葉を切る。
「これより出陣する」
騎士たちの表情が引き締まった。
「これは、一つの砦を守るだけの戦いではない」
レイナは彼ら一人一人を見渡した。
「エウロピアの存亡を懸けた戦いである」
静寂。
やがてレイナは、少しだけ表情を和らげた。
「そして――」
その目が、遠くを見つめる。
「妾が死したのちは」
騎士たちの間に、わずかな動揺が走った。
だがレイナは構わず続けた。
「女王イサベルに、今と変わらぬ忠誠を捧げよ」
「…………」
「これは、大后としての命令である」
一瞬の沈黙。
そして――。
「はっ!」
数百の声が、一つとなって閲兵場を震わせた。
「ククルース。お前、どう思う」
「どうって?」
「リチャードを連れていくかどうかだよ」
ククルースは、少し意外そうな顔をした。
「そりゃあ、次の王様ですよ」
「行くに決まって――」
そこまで言いかけたところで、カルドは唇の前に人差し指を立てた。
「そりゃ、勝つと決まってるときの話だ」
「……」
ククルースが黙る。
カルドは椅子の背にもたれ、深く息を吐いた。
「今回ばかりは、な」
窓の外へ目を向ける。
エスカリオの街には、今日も多くの商人たちが行き交っていた。
東から来た者。
南から来た者。
はるか遠方の国々を巡ってきた者。
彼らが運んでくるのは、香辛料や絹、宝石だけではない。
情報もまた、商人たちの商品だった。
そして今。
彼らが口を揃えて語るのは、モンゴリア帝国のことだった。
――あの国と戦うなど、常軌を逸している。
――今ならまだ間に合う。
――望むなら、我々が間に立とう。
そう申し出る商人たちが、今日も王宮の門前に列を作っている。
カルドは、その光景をしばらく黙って眺めていた。
「こんな状態になってもな」
「はい?」
「エウロピアの足並みは、まだ揃わん」
声には苛立ちよりも、呆れに近いものが混じっていた。
「レグザの領主ヘンリクが、本国に救援を求めている」
ククルースも表情を曇らせる。
「見捨てるわけにもいきませんな」
「ああ」
カルドは短く答えた。
「見捨てるわけにもいかぬ」
そう言ってから、もう一度窓の外を見る。
「でもなあ……」
「どうしました?」
「なんだかな」
いつものカルドなら、そこで冗談の一つでも口にしただろう。
だが今日は違った。
笑みはない。
しばらく黙ったまま、遠く東の空を見つめている。
やがて――。
「嫌な予感がするんだ」
ぽつりと呟いた。
エスカリオ商王カルドの表情は、暗く沈んでいた。
「軍師様」
北へ続く街道を歩きながら、ユンナがふと思い出したように口を開いた。
「モンゴリア帝国の皇帝って、相当欲深いんですかね」
「なんでそう思うの?」
サイラスが隣を見る。
「だって、ずっと戦争してるんでしょう?」
ユンナは両手を広げた。
「東でも西でも戦って、どんどん領土を広げてるって」
「うーん」
サイラスは少し考えた。
「たぶんだけど、遊牧民族ってさ」
「はい」
「われわれエウロピア人とは、国に対する考え方そのものが違うんじゃないかな」
「国に対する考え方?」
「うん」
サイラスはそれ以上説明せず、前を向いた。
二人が目指しているのは北方の砦。
すでにその先では、モンゴリア帝国軍の侵攻が始まっている。
街道を行き交う者たちも少なくなっていた。
時折すれ違うのは、荷車に家財を積み込み、南へ逃げていく人々ばかりだった。
しばらく歩いてから、ユンナが再び口を開いた。
「でも、軍師様なら」
「ん?」
「やっつけちゃうんでしょ?」
サイラスは答えなかった。
「……軍師様?」
「うーん」
珍しく歯切れが悪い。
ユンナが不思議そうに顔を覗き込む。
「先日、王様に会ったんでしょ?」
「ああ」
「なんて言われたの?」
サイラスは少しだけ笑った。
「『勝てるか?』って」
「それで?」
「それでって?」
「どう答えたんです?」
サイラスは歩みを止めた。
ユンナもつられて立ち止まる。
風が吹いた。
街道脇の草が、ざわざわと揺れる。
サイラスは北の空を見つめた。
しばらくして――。
「たぶん……」
「はい?」
「負ける」
「…………え?」
ユンナの目が、大きく見開かれた。
だがサイラスは、もう歩き始めていた。
コメント
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ヤバい、ヤバい、ヤバいよこれ!!😭💦 第15話、重すぎる…!!レイナ様が「死したのちは」って言うシーン、背筋凍った…覚悟決めてるのが伝わってきて泣ける。そしてサイラス師匠の「たぶん負ける」…マジかよ、この作品で初めて希望のない言葉を聞いた気がする。まじでどうなるの、この先不安で胸が痛いけど、続き気になりすぎて眠れないよ…!!