テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
𝕔𝕠𝕔𝕠
34
#み!るきーず
ぷりんねこ
28
comi
1,524
#M!LK
はる☻
29,738
第十五章 二つの目覚め
第二話 真実の姿に灯る想い
ラディスへの帰路は驚くほど順調で、5人は日没前には南門へ辿り着いていた。
夕焼けに染まる巨大な城壁。
行き交う人々。
聞き慣れた街の喧騒。
門を潜りながらハヤトが振り返る。
「また明日にはラディスを発つことになるし、ダイチとジントは一度実家に戻るか?」
「せやなぁ……せっかくだし、みんなでまた俺んとこ来ん?」
ダイチが軽く笑う。
「なぁジントもーー」
だがそこで言葉が止まる。
「……ジント?」
ジントは周囲を警戒するように見回していた。
深く被ったフード。
その下の表情は強張っている。
ダイチの服を掴む手に、ぎゅっと力が込められた。
他の4人もそれぞれ、帽子やローブで身元が分からないよう隠している。
けれどーー門を潜ってから、妙な視線を感じていた。
ジュウタロウが低く呟く。
「……見られているな」
「ジンちゃんに懸賞金掛かっとるもんな……」
シュンタも周囲を警戒するように目を細めた。
「ハヤちゃんも……気ぃつけや」
先日情報屋に聞いた話が頭をよぎる。
ハヤトは静かに頷き、街を見渡す。
「……少しキツいかもしれないが、 このまま北門を抜けた方が良さそうだな」
その時だった。
——ぞわり。
一際強い視線を感じ、ジントが振り返る。
建物の影。
そこに白装束の男が立っていた。
冷たい目で、じっとジントを見つめている。
「っ……」
呼吸が詰まる。
嫌な汗が背中を伝った。
男の背後から、黒い瘴気のようなものが滲み出して見える。
恐怖。
憎悪。
執着。
人々の負の感情が、塊となって男へ纏わりついているようだった。
ダイチはその男を鋭く睨みつける。
そして低く言った。
「……行こう」
足早に馬を進める。
ーーゴーン……
ーーゴーン……
完全に日が沈み、教会の夕刻を告げる鐘が遠くで鳴り響いた。
5人は北門へ向かい、大通りを真っ直ぐ進む。
その時。
「……東側……なんだか瘴気が異常に濃い……」
ジントがぽつりと呟いた。
「東側って……貧民街の辺りか?」
ダイチが振り返る。
ジントは無言で頷いた。
門を潜ってから感じていた。
人々の視線。
悪意。
恐怖。
賞金目当ての欲望。
それら全てが黒い塊となって街の東側へ渦巻いているようだった。
まるで、巨大な瘴気の巣のように。
その瞬間——
カンカンカンカン!!
鋭い警鐘が夜空へ鳴り響いた。
東側。
5人が同時に顔を上げる。
先頭のハヤトが馬を止め、警鐘の方向を見据える。
そしてジントの方へ振り返る。
「……魔物か?」
ジントはハヤトの目を見て頷いた。
「行こう……!」
その声に一切の迷いはない。
ハヤトは一瞬だけ眉を寄せる。
だがすぐに決断する。
「全員、東門へ向かうぞ!」
その声と同時に、馬の向きを変え駆け出した。
夜のラディスを、四頭の馬が駆け抜ける。
東門付近は既に混乱状態だった。
逃げ惑う人々。
怒号。
悲鳴。
建物の隙間を駆ける黒い影。
獣型の魔物が兵士へ飛び掛かり、空からは鳥型魔獣が急降下して爪を振るう。
「くそっ!!数が多すぎる!!」
兵士達が必死に応戦していた。
瘴気が濃い。
空気が重い。
人々の恐怖が、さらに闇を呼び込んでいる。
そして東門付近、商店街のさらに奥。
ーー貧民街。
「ガキ優先だ!!走れ!!止まるな!!」
ツヨシが住民達を誘導していた。
仲間達も必死に避難を手伝っている。
迫る魔物へ、ツヨシは魔石付きのナイフを振るった。
火花が散る。
だが次の瞬間、建物の影から別の魔獣が飛び出した。
「ツヨシ兄ちゃん後ろ!!」
物陰へ隠れていたコウが叫ぶ。
「っ!?」
振り返るツヨシ。
だが間に合わない。
黒い獣が牙を剥き、背後から飛び掛かる。
その瞬間。
轟音とともに青白い雷光が夜を裂いた。
魔獣の巨体が横から吹き飛ぶ。
地面を転がり、壁へ激突した。
「……大丈夫か?」
拳を構えたまま、ダイチが振り返り低く問う。
ツヨシは一瞬目を見開き、そしてニヤリと笑った。
「……へぇ。やるじゃん」
ダイチは軽く拳を振り、すぐに視線を次の魔物へ向けた。
夜の貧民街。
崩れかけた木造家屋。
湿った石畳。
狭い路地に、人々の悲鳴と魔物の唸り声が反響している。
辺りを漂う瘴気が、黒い霧のように低く街を覆っていた。
「まだ来るで!!」
ダイチの声と同時に、細い路地の奥から獣型魔物が飛び出す。
黒く濁った毛並み。
裂けた口から覗く牙。
低く唸りながら、一直線に住民へ向かって駆け出した。
「下がってろ!!」
ダイチが地面を蹴る。
バチッ——!!
青白い雷が拳へ走る。
次の瞬間には、ダイチの姿が消えていた。
凄まじい速度で魔物の懐へ潜り込み、水流を纏った拳を突き上げる。
「っらぁぁ!!」
轟音。
雷光が夜の路地を照らした。
魔物の巨体が宙へ浮き、建物の壁へ激突する。
木材が砕け、砂煙が舞い上がった。
だが休む間もなく、上空から鋭い羽音が迫る。
ギィィィッ!!
鳥型魔獣。
黒い翼を大きく広げ、ダイチへ急降下する。
「チッ!」
咄嗟に横に飛び退く。
鋭い爪がマントを裂いた。
その隙を狙い、横からツヨシが飛び込む。
「どけぇっ!!」
魔石付きのナイフが赤く発光する。
一閃。
熱を帯びた刃が、魔獣の翼を深く切り裂いた。
ギャアアアアッ!!
悲鳴を上げながら、鳥型魔獣が地面へ墜落する。
その身体から、黒い瘴気がゆっくりと溢れ始めた。
すると、異変が起きる。
魔物達から流れ出た瘴気が、一方向へ吸い寄せられていく。
まるで夜の風に導かれるように。
ツヨシは息を呑んだ。
その先。
狭い路地の中央に、ジントが静かに立っていた。
目を閉じ、ゆっくりと瘴気を受け入れている。
黒い霧が彼の周囲を淡く漂う。
月明かりが、黒髪を銀色に照らしていた。
風が吹く。
長い前髪が揺れる。
その姿は、どこか現実離れしていた。
恐ろしいはずなのに。
禍々しいはずなのに。
——綺麗だ。
ツヨシはそう感じてしまった。
避難していた住民達も、いつの間にか足を止めていた。
泣いていた子供も。
怒鳴っていた男も。
皆、呆然とジントを見つめている。
黒い瘴気は、静かにジントへ吸い込まれていった。
苦しみ。
恐怖。
憎しみ。
絶望。
街に溢れていた負の感情までも、一緒に飲み込んでいくようだった。
やがて最後の瘴気が消える。
重苦しかった空気が、少しだけ軽くなる。
ジントはゆっくりと目を開けた。
夜より深い黒い瞳。
だがその表情は、驚くほど穏やかだった。
ツヨシは無意識に、ジントの元へ歩み寄っていた。
「……なんか、雰囲気変わったな」
「そう?」
ジントは小さく笑う。
そして真っ直ぐツヨシに向き合い、その顔を見上げた。
「まだ俺、ちゃんとツヨシにお礼言えてなかった」
「あの時助けてくれて、ありがとう」
追われて傷付いていた自分を救ってくれた人。
恐れず、嫌悪も抱かずに、ただ自分を受け入れてくれた人。
ツヨシへの感謝の気持ちを、ちゃんと伝えたかった。
だがその大きな黒い瞳に見つめられ、ツヨシは思わず視線を逸らす。
「……いや……」
「良くなったんなら、それでいい……」
ぶっきらぼうに言いながら、頭を掻く。
「あの時のお前、今にも死にそうだったし……」
「放っておけなかったから……」
ジントは目を細め、柔らかく微笑んだ。
「ツヨシって、見かけによらず優しいんだね」
「………あぁ!もう!」
「なんかお前やりずれぇ!」
ツヨシが吐き捨てるように言う。
その時遠くで、甲高い悲鳴が響いた。
続けて建物が崩れるような轟音。
地面がわずかに震える。
ダイチが鋭く振り返った。
「ジント!行くぞ!」
「うん!」
ジントはツヨシへ向き直る。
「じゃあね、ツヨシ!」
そう言って駆け出す。
ダイチもその隣へ並ぶ。
二人は貧民街の細い路地を、夜風のように駆け抜けていった。
その背中を、ツヨシは黙って見送る。
「あれが……月蝕の子か……」
ぽつりと呟く。
「なんか、聞いてた話と違うじゃん……」
ツヨシの脳裏には、夜より深い黒い瞳が焼き付いて離れなかった。
コメント
1件
第12話、読み終えました……! 夜のラディスに戻ってからの緊迫感、すごく良かったです。特にジントが瘴気を吸い込んでいくシーン、禍々しいのに「綺麗だ」って感じたツヨシの気持ち、すごく分かります。あの黒い瞳と穏やかな笑顔のギャップに、心臓がぎゅっとなりました。ツヨシとジントの会話も、ぶっきらぼうだけど優しさが詰まってて、じんわり来ますね…🌙