テラーノベル
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──再会の感動(と、お尻への制裁)から5分後。 街には、まだ煙が燻っていた。
「……うぅ……痛い……尊厳が……お尻が……」
ツバキが涙目で地面に突っ伏している。
「ハァ……ハァ……物理で止めました。物理で」
ローザは爽やかに言った。
「あ、あの……」
カエデが、ハンガーとリモコンを構えたまま恐る恐る口を開く。
感動の再会から公開処刑まで、脳が追いついていない。
「……ツバキのお尻を……
すごいリズムで叩いてたけど……どういう関係?」
「はい! はじめまして! 私はローザと申します!
ツバキ様の付き人です!いざという時は、尻を叩きます」
ローザが、胸を張って自己紹介した。
「……ローザ……やめて……これ以上、
私の尊厳を掘り起こさないで……」
ツバキが地面に「の」の字を書きながら呻く。
「へぇ〜! 大変だねぇ。
ツバキ、こっちでも相変わらず手がかかるんだ?」
カエデが感心したように言うと、ツバキがガバッと顔を上げた。
「お前が言うな!?
こ、これは不可抗力で……
世界が私を聖女に仕立て上げて……!」
「またまたぁ。
昔からツバキは、カッコつけるとロクなことにならないもんね」
「ぐぅ……反論できない……!」
*
「おーい! 何だい? この騒ぎは!」
そこへ駆けつけてきたのは、アンナ。
パン屋の店主である。
「あ、アンナさん!」
「カエデ、そちらの方々は……?
……って、えええ!?
なんで向かいの肉屋と八百屋が炭になってるんだい!?」
アンナが腰を抜かしかける。
カエデが冷や汗をかきながら、チラリとツバキを見た。
「えーっと……感動のあまり、燃えました」
「ごめんなさい!!」
ツバキが綺麗なフォームで土下座した。
お尻を叩かれた直後の聖女の土下座に、
野次馬たちがざわめいた。
*
──その日の昼下がり。
パン屋の二階、カエデの部屋。
三人は向かい合って座っていた。
「……ねえツバキ?
2人はこの世界で何をしてるの?」
カエデが尋ねると、
ローザが目をキラキラさせて答える。
「ツバキ様のカメリア教の布教の旅です!
今日で信者が爆発的に増えました!(※焼け出された人たち)」
「……世界が……勝手にそうした……」
ツバキが遠い目をして下を向いた。
カエデがパンと手を叩く。
「じゃあ!私も一緒に布教の旅に参加する!」
「え?」
ツバキが顔を上げる。
カエデが真剣な表情になる。
「だって、ツバキと離ればなれになるのは嫌だもん。
何よりね!?実は、私……この世界では”勇者”なんだ」
ツバキとローザが同時に目をパチクリさせた。
「「……は?」」
「へへーん!私、勇者なんだよ!?魔王を倒すアレ!」
「世界の均衡が揺らぎ始めた……
よりにもよって、ド天然の貴様が勇者とはな……」
ツバキは信じてない様子だ。
「ゆ、勇者様……!?ほんとに!?」
ローザが思わず叫ぶ。
「うん、ちょっと見せるね──ステータスオープン!」
カエデがそう言うと、
空中にステータス画面が表示された。
\\ ♪ピ〜ロリロリ~ン……ポヨォォォ〜ン //
「「なにそのまぬけな効果音!?」」
ツバキとローザが同時にツッコむ。
空中に浮かぶステータス画面には、こう書かれていた。
【カエデ / 勇者 / レベル1】
【スキル:ウィルソンを投げつける Lv836】
【称号:パンくわえて転ぶ者 / 草さん】
【幸運:-530000(厄災級)】
「……イチ」
ツバキが食い入るようにステータスを見る。
「……イチ」
ローザもマジマジとステータスを見る。
そしてツバキが震える指で、一番下の項目を指した。
「おい……待て……
レベルも酷いが……『幸運』の数値、バグってないか?
マイナス53万って何だ。歩く災害か貴様は」
「えへへ!なんか強そうだよね!」
「あと……『ウィルソン』Lv836……?
称号『草さん』……?
なんで貴様はいつも普通に出来ない?」
「えへへ!ツバキ褒めすぎ!」
「いや、褒めては……」
ツバキはコミュニケーションを諦めた。
すると、カエデがポケットから石を出した。
「ウィルソン!」
「……は?……石?」
ツバキとローザがカエデの石を見つめる。
「うん!怖くてモンスター倒せないし、だから石を投げてる!」
「ダメだ……情報が渋滞してる……」
ツバキが白旗。
カエデが話を続ける。
「……この世界に召喚されて、すぐに国外追放されて……
モンスターに襲われて、道に迷って、雨に打たれて……
ウィルソンしか友達いなかったし……ほんとに怖かったんだ」
「幸運マイナスのせいだな……」
ツバキが小声で言った。
「でも、アンナさんが助けてくれた!パンくれたし!
だから私、誰かのアンナさんなりたい!」
カエデがキラキラした目で宣言する。
しかしツバキは、冷静に現実を突きつけた。
「カエデ。気持ちは分かったが、
お前が誰かを助けようとしたら、
その幸運値のせいで二次災害が起きるぞ」
「えっ」
「お前は『助ける』んじゃない。『巻き込む』んだ」
「ひどい!? 私、勇者なのに!?」
カエデがショックを受ける。
しかしツバキは、ふっと笑った。
「……だが、まあいい。毒を以て毒を制すとも言う。
貴様の『マイナスの奇跡(ドジ)』と、私の『捏造された奇跡(聖女)』……混ぜれば何か起きるかもしれない」
「えへへ、よく分かんないけど、また褒められた!」
「ポジティブ……ふふ。それがカエデだな。
……まあ、連れて行ってやる。
レベル1の勇者、幸運厄災級をな……」
「やったー!」
「素晴らしいです!
聖女様と、歩く厄災様が一緒に旅をなさるなんて!
これぞ『神聖なるカオス・キャラバン』!!」
ローザが感激の表情を浮かべる。
「名前が不穏すぎるだろ……」
ツバキが頭を抱えた。
*
「ねえ、ツバキ」
「ん?」
「私たちがこの世界に来たってことは……
もしかしたらサクラも……
どこかにいるかもしれないよね?」
「……!」
カエデがふと空を見上げて、ポツリと呟いた。
「サクラ……時の狭間に消えた名。
だが未だ、我が胸の刻(とき)に残る、絶対の記憶……」
ツバキの表情がわずかに揺れる。
「なんとなく、呼ばれてる気がするんだ。
サクラにまた会えるような気がするの」
「サクラ様とは?」
ローザが首をかしげる。
「私たちの友達。元の世界でのね。大切な仲間よ」
ツバキが答える。
「もしサクラもこの世界にいたら……」
カエデが目を輝かせる。
二人の思考回路が、完全にリンクした。
「「大魔王になってるね」」
ツバキとカエデが同時に言った。
一点の曇りもない、確信に満ちた声だった。
「サクラ様とはいったい……」
ローザが恐怖で首を傾げた。
「……ふむ、ならば我らが征く先に、
きっと”その声”もあるだろう。探すのは簡単だ。
うるさいとこにサクラは居る」
ツバキが小さく微笑む。
「えっと……こんな感じかな?
『生きてるだけでえらいって?ちげぇよ!?
“生きてるなら暴れろ”が正しいだろうがぁあ!!』」
カエデがサクラのマネをして叫んだ。
あまりに似すぎていて、空気が震えた気がした。
「……うわ、声まで思い出せる!?
……あははははは!」
ツバキが笑った。
二人の笑い声が、焦げ臭いパン屋の二階に響いた。
*
翌朝、パン屋の前。
出発の準備が整った。
「これ、道中の食料だよ」
アンナが大きな荷物袋をカエデに手渡す。
ずっしりとした重み。
中には焼きたてのパンが詰まっていた。
「アンナさん……こんなに……」
カエデの声が震える。
「あと、これも。当面の旅費だよ。あはは!」
アンナが小さな布袋を差し出す。
中でコインがチャリンと音を立てた。
「アンナさん……わたし…わたし…」
カエデの目に涙が浮かぶ。
「泣くんじゃないよ!カエデ」
アンナが優しく頭を撫でる。
「お前は強い子だ。
一人でここまで生き抜いてきたんだから。
それに……勇者様なんだろう?」
「……うん
……わたし、もしアンナさんに出会ってなかったら……」
カエデが声を詰まらせる。
「出会えたから、今があるんだ。それで十分だろう?」
「……うん!」
アンナがツバキとローザの方を向いた。
「ツバキちゃん、ローザちゃん、カエデのことを頼む。
こいつは優しすぎるから、時々危なっかしいんだ」
「その命、預かった……運命ごと!」
ツバキが力強く答える。
「カエデ様をお守りするのも、私の使命です」
ローザも頷く。
「それから……
お前が元の世界に帰れる方法が見つかったら、
遠慮しないで帰るんだよ。
ここはお前の世界じゃない」
アンナがカエデの肩に手を置く。
「でも……でも、もしこの世界に残ると決めたなら……
いつでも帰っておいで。ここがカエデの家だ」
アンナが微笑む。
「アンナさぁぁぁん!」
カエデがついに泣き崩れる。
アンナの胸に飛び込んで、声を上げて泣いた。
あの日、魔物に襲われて倒れていた自分を助けてくれたこと。
毎日温かいパンと寝床を提供してくれたこと。
何も聞かずに受け入れてくれたこと。
アンナからは優しいパンの匂いがした。
全部、全部、忘れられない。
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
「こちらこそ、ありがとう。
カエデがいてくれて、毎日が楽しかった」
ツバキも目頭を熱くしていた。
(命の恩人か……私にとってのサクラやカエデのように……)
「アンナさん、私……
私!絶対に立派な勇者になって帰ってきます!」
カエデが涙を拭いながら宣言する。
「ああ、待ってるよ。レベル1の勇者様!あはは!」
アンナはカエデの頭を優しく撫でた。
「……行こうか」
ツバキがカエデの肩を叩く。
「うん!」
カエデが力強く頷く。
涙は止まったが、目は赤い。
「これより、聖女様と勇者様の布教の旅が始まります!」
ローザが高らかに宣言する。
「聖女じゃないし、勇者はレベル1よ」
ツバキが小声で呟く。
「サクラも、きっとどこかで頑張ってるよね?そうだよね?
今度会えたときは、四人で一緒に旅ができるかな」
カエデが目を擦りながら言った。
「その時は、もっと賑やかになりそうですね」
ローザが微笑む。
「……ふむ、それもまた定めのひとつか……」
ツバキが小さく微笑む。
「さて、出発──」
カエデがアンナがくれた袋を抱える。
カサッ……
袋から紙が鳴る音がした。
「あれ?手紙かな?そんなの入ってたっけ?」
袋を確認するカエデ。
そこには──
【ナーラ看板修繕費:一式 ツバキ様御一行】
その下に小さく
【旅って、人生って、そういうもんだよ アンナ】
と書いてあった。
「ひぃッ!?」
ツバキが請求書を持ったまま立ちすくむ。
次の瞬間。
シュンッ……!
……ッんビーーーーーーーーーーーッ♡
「ツバキ!またビーム出てる!
あと、♡にイラッとするからやめて!?」
「ツバキ様ぁ!?お気持ちは分かりますが!」
「せ!せせせ制御不能ッ!
この魔眼は情緒を喰らい、暴走するッ!!」
パン屋の向かいで、
直ったばかりの八百屋の看板がまた一つ蒸発していた。
アンナが、笑いながら叫んだ。
「あはは!また借金増えたよ!ツケときな!」
*
──こうして、聖女(自称否定)と、
勇者(レベル1)と付き人の布教の旅が始まった。
焼いてしまった家や看板の借金を背負い、
居るかも分からない友達を探しながら、
東のエドノを目指して。
でも三人とも、なぜか楽しそうである──。
(つづく)
◇◇◇
──【本日のカメリア聖典追加節】──
『第四節:別れは涙と共に。そして、看板は光と共に消える』
解説:
感動は破壊を呼ぶ。
涙は光となり、看板を焼く。
街の修繕費は、また増えた。
◇◇◇
──【今週のサクラ語録】──
『生きてるだけでえらいって?ちげぇよ。
“生きてるなら暴れろ”が正しいだろうがぁあ!!』」
解説:
サクラ式・生存の美学。
呼吸をするように暴れ、脈打つように破壊する。
「癒し」や「丁寧な暮らし」なんて言葉は、彼女の辞書には載っていない。
載っているのは「打撃」と「暴動」だけ。
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