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「リン、離せ……」
「ドンレ様、どうか、横におなりください」
身をよろめかせて、寝台から乗りだそうとするドンレを、リンがなだめていた。
部屋詰めの侍女達は、ドンレの形相におののき、遠巻きに眺めている。
「しかし、戦が!!」
頬がこけ、やせ細ったドンレは、床《とこ》に崩れこんだ。
「大丈夫。あなた様が心配することはありません」
かばうかのように、やさしく寄り添うリンの姿が、ドンレのやつれ具合をいっそう際立たせた。
おそらく長くないだろうと、取り巻き達は離れていった。
見舞いに訪れる者も減り、力及ばない今に、ドンレは焦れていた。
「……王は、ご出陣されるのか?」
「はい」
「ならばこそ、このように休んでいては……」
国の大事と、ドンレは息巻く。
床から起き上がることすらままならない体で、何も果たせるわけがない。
もちろん、ドンレ自らが一番わかっている。だからか、このところ、もどかしさを、周囲にぶつけてばかりいた。
「ですから、どうか、早くお体を」
気が立っているドンレをなだめようと、リンは彼女を抱きしめる。一種異様な臭いが鼻をつく。
薬湯の匂い。いや……これは、死臭……。
効いてきたか。リンは胸の内で笑みを浮かべた。
「ドンレ様、今日は、これで」
「どうした?」
もしや、自分を見捨てるつもりなのだろうか。
病がドンレの猜疑心を増殖させていた。
皆離れて行く中、せめて、若く美しいリンは引き止めておきたかった。
逃がしてはならぬと気が焦る。
リンは、ドンレの焦りを利用していた。
正直、側にいるのは、腹立たしかったが、ドンレの元にいるのは、目的があってのこと。それを成し遂げるまでは――。
あのお方のためにも……。
「実は、祈祷を……」
はにかむように、ドンレに言う。
「祈祷?」
「はい。ドンレ様が、はやくご回復なされますように寺へ通っているのです」
リンは、確かに祈っていた。
そう、呪術という名の物を──。