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第十六章 月に還る闇
第三話 陽の差す部屋
窓から差し込む眩しい光が瞼を透かす。
ジントはゆっくりと目を開いた。
見慣れない天井。
昨夜はいつ眠ったのかよく覚えていない。
気付けば眠気に負けていた。
隣からは規則正しい寝息が聞こえる。
肌に感じる、少し高めの体温。
視線を向けると、ダイチがすぐ隣で眠っていた。
無防備な寝顔。
少しだけ乱れた群青色の髪。
その姿に、ジントは自然と微笑む。
そして思い出す。
昨日、自分を庇って毒矢を受け、倒れた姿。
弱くなる呼吸。
冷たくなる身体。
動かなくなる手足。
それでも必死に起き上がり、自分を見つめる姿。
優しく揺れる、青い瞳。
その、言葉。
ーー好きや、ジント……
突然、心臓を強く掴まれたように苦しくなる。
熱い気持ちが、胸の奥から溢れ出す。
ジントは思わず、シーツの下でダイチの手をギュッと握った。
ーー温かい。
涙が出そうになるのを、必死で堪える。
しばらくそのまま目を閉じる。
大きな掌から伝わる体温と、穏やかな呼吸、僅かに響く鼓動を感じる。
それが段々気持ちを落ち着かせてくれた。
やがて軽く息を吐き、部屋を見回す。
向かいのベッドではジュウタロウが静かに眠っていた。
椅子にもたれたまま眠るハヤト。
そして床では、なぜかシュンタが大の字になって転がっている。
昨夜とほとんど変わっていない。
思わず笑いそうになった。
ふと窓へ目を向ける。
差し込む光は随分強かった。
「……昼かな」
小さく呟く。
その声でダイチが身じろぎした。
「ん……」
重そうな瞼を開く。
「おはよ」
ジントが言う。
「おはよ……」
まだ眠たげな声。
そして。
「…………」
繋がれた手に気付く。
ダイチは柔らかく微笑むと、そのまましばらく二人で寝転んだまま、ぼんやり窓の外を眺める。
穏やかな時間だった。
やがて他の三人も少しずつ目を覚まし始める。
「……よく寝た……」
ジュウタロウが珍しく寝起きらしい声を漏らした。
「身体が重い……」
ハヤトは肩を回しながら苦笑する。
「……なんで俺、床で寝とるん……?」
シュンタは顔をしかめながら起き上がった。
「自分で落ちたんやろ」
ダイチが即座に突っ込む。
「落ちてへん!ジュウが落としたんや!」
「お前が勝手に落ちたんだ」
「ジュウ酷いわ〜!」
いつものやり取り。
誰かが笑う。
その空気が妙に心地良かった。
身支度を整えた5人は、一階の食堂へ降りていく。
するとおかみさんが、ちょうど食器を並べているところだった。
「あら、おはよう」
「おはようございます」
ハヤトが挨拶する。
おかみさんは笑った。
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「よく寝てたわねぇ」
「起きたら昼でした」
ジントが少し恥ずかしそうに言う。
「ふふっ、知ってるわよ」
おかみさんは肩をすくめた。
「何度か様子見に行ったんだけどねぇ」
5人が顔を上げる。
「全然起きる気配なかったもの」
「すみません……」
「いいのよ」
おかみさんは優しく笑った。
「昨日は疲れてたんでしょう?」
そして少し楽しそうな顔になる。
「それにしても驚いたわ」
「?」
「みんな同じ部屋で寝てるんだもの」
一瞬静かになる。
「仲が良いのねぇ〜」
にこにこと笑うおかみさん。
ハヤトが苦笑する。
「まあ……長い旅でしたから」
「家族みたいなもんやな!」
シュンタがジュウタロウの肩を組む。
「こんな弟は嫌だ」
迷惑そうな顔で即座に返す。
「じゃあジュウはお母ちゃん枠な!」
「余計嫌だ」
「なんでぇ!?」
食堂に笑い声が響いた。
おかみさんはそんな5人を見ながら、どこか嬉しそうに目を細める。
「ほんと、良い仲間を持ったわね」
その言葉に、5人は自然と顔を見合わせた。
そして誰からともなく微笑んだ。
5人が席に着くと、おかみさんは満足そうに頷いた。
「よし、それじゃあ今からお昼ご飯にするわね」
「やったー!」
真っ先に反応したのはシュンタだった。
「朝ご飯ちゃうんやな」
ダイチが呟く。
「もう昼だしねぇ」
おかみさんは楽しそうに笑う。
ほどなくして食卓に料理が並び始めた。
焼きたてのふっくらとしたパン。
大皿に盛られた香草焼きの鶏肉。
たっぷり野菜のスープ。
白身魚のソテー。
採れたての果物。
豪華というわけではない。
けれど心まで温かくなるような料理だった。
「いただきます!」
5人の声が重なる。
しばらくは誰も喋らなかった。
ただ黙々と食べる。
「……美味い」
ジュウタロウがぽつりと呟く。
「お、ジュウが素直や」
「うるさい」
「でも本当に美味しいな」
ハヤトも頷く。
ジントもスープを一口飲み、小さく息を吐いた。
「なんか落ち着くね」
「せやなぁ」
ダイチも笑う。
そんな穏やかな空気の中、奥の厨房から娘が顔を出した。
料理を運ぶために出てきたのだろう。
そして少し頬が赤くなる。
シュンタはそれを見逃さなかった。
「おっ」
ニヤリ。
ダイチが嫌な予感しかしない顔をする。
「お前やめろよ」
「なんもしてへんやん」
「すでにしている」
ジュウタロウの声を無視して、シュンタは爽やかな笑顔を作った。
「昨日はありがとな〜!」
娘がびくっと肩を震わせる。
「は、はい……!」
完全に緊張している。
「え、えっと……お怪我の具合は、いかがですか……?」
「お嬢さんのお陰で、もうこの通りやで!」
肩を大きく回す。
そして、パチリっ。
得意のウィンクを飛ばす。
「っ!」
娘の顔が一瞬で真っ赤になる。
そのままさっと料理を置くと、
「し、失礼します!」
慌てて厨房へ逃げ込んでしまった。
一瞬の静寂。
そして。
「お前ほんま懲りへんな……」
ダイチが呆れた声を出す。
「いやぁ、可愛ええ反応やなぁ」
「話聞けや」
そのやりとりにハヤトが吹き出す。
ジュウタロウは額を押さえた。
「旅芸人とはそういう生き物なのか?」
「違うと思う」
ジントが即答する。
食堂に笑い声が広がった。
厨房の奥から、おかみさんの声が飛ぶ。
「ちょっと!シュンタくん!」
「はい!」
「娘をからかうんじゃないよ!」
「からかってへんて!」
「嘘おっしゃい!」
食堂中が笑いに包まれる。
シュンタは大袈裟に肩をすくめた。
「みんな酷いわぁ」
「自業自得や」
ダイチが楽しそうに返す。
再び笑いが起こった。
窓の外では、穏やかな陽射しが村を照らしている。
夕方になれば、5人は再び歩き出す。
白霧山へ。
最後の運命の待つ場所へ。
けれど今はまだ、誰もその話をしなかった。
ただ美味しい食事を囲みながら、
笑い合う。
今のこの時間が、幸せだった。
コメント
3件
ジントが朝目を覚ましてダイチの手を握ってるシーンはきゅんが止まりませんでしたꉂ🤭 みんなで食卓囲んでいるのが心温まりますねぇ……
comi、第28話「陽の差す食卓」読んだよ〜! 朝、ジントが目を覚ましてダイチの手を握るシーン、めっちゃ心臓掴まれた……「好きや、ジント」の告白からの流れが良すぎる。ああいう静かな朝の温もり、ちゃんと書けるのすごいわ。 食堂での5人のやり取りも、いつものノリで笑えるし、おかみさんの「仲が良いのねぇ」に「家族みたい」って返すシュンタ、最高やん。 最終章目前の穏やかな一幕、めっちゃ沁みた。ありがとう!