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辻󠄀美音🩷
1
ラチム
41
短編小説 11/? 3/? 1/?
夕暮れ、約束の18時。
昼と夜の境界が曖昧になる逢魔が刻。
僕は言われた通り、境内の中央に鎮座する椛の大木の前に到着していた。
紅い光が斜めに差し込む境内には、ただ優しく頬をなでる風と、ひらひらと舞い散る椛の葉があるだけ。不気味なほどにしんと静まり返っている。
「……誰も、いないじゃないか」
しばらくの探索に疲れ、踵を返そうとした、その瞬間だった。
「───扇さんだね。待っていたよ」
背後から、よく通る艶やかな女性の声が響いた。
ハッとして振り返る。そこに佇んでいたのは、夕闇の中でひときわ目を引く、およそ神社には似つかわしくない奇抜な格好をした女性だった。
左右に結ばれたツインテールの隙間から覗く顔立ちは、一見すると可愛い系だ。しかし、その双眸は左右で全く異なる異様な色彩を放っていた。右目は緑の瞳孔に瑠璃色の縁取り。左目は灰色の瞳孔に朱色の縁取り。全身には、ジャラジャラと数え切れないほどのアクセサリーが過剰なほどに身につけられている。
「……君は、誰だ。なぜ僕の名を」
「あいつ(タヌキ)から、あんたのことは全部聞き出したから。何でも知ってる。」
不敵に微笑む彼女───どこか超然とした態度でそう言いのけた。
あいつから聞き出した。その言葉が本当なら…。僕は焦燥感を抑えきれず、一歩詰め寄って本題を切り出した。
「なら、教えてくれ。薫さんは今、どうなっている!?」
左右のオッドアイを細め、短く、淡々と告げた。
「資格あるものとして認められた。」
「!! だったら、そのあと、どうなったんだ!」
重ねて問い詰める僕に、彼女はただ一言、冷徹な事実を突きつけた。
「───とられたよ」
その言葉の意味が、脳裏に最悪の光景を結ぶ。
とられた。情熱を、
夕日は照らしていた。
力なく、膝から崩れる。
「そんな、嘘だろ……っ」
世界がぐらりと歪む。絶望のあまり地面に崩れ落ちそうになった僕の肩に、彼女の手がそっと置かれた。
「終わってない」
衣服越しに伝わる、妙に冷たい手の感触。僕は縋るように彼女を見上げた。
「なぜだ……! 全てを奪われたなら、もう……!」
「そうだね。言葉で聞くよりも、見た方が早いでしょ」
彼女は僕の頭部にそっと優しく手を添えた。
次の瞬間、僕の視界は強制的に暗転し、意識が濁流に呑まれるようにして引き剥がされていった。
───気がつけば、僕は「視て」いた。
おぞましい巨躯の怪異『巳魈』と、そしてあれは…『狛犬』。約束の象徴か。その前で、胸を貫かれ、左腕を失って倒れている薫の姿を。地獄のような戦場の光景が、僕の脳内に直接流れ込んでくる。
呆然とする僕の意識の隣で、解説を施すように琉甘の声が響いた。
「不思議に思うでしょ? 全ての情熱を奪われて物言わぬ肉体になったはずの彼が、何故、今も立ち上がろうとしているのか」
彼女の言う通りだった。完全に機能停止しているはずの薫の肉体。なのに…。
「表に出ていた”薫”という情念。ただ、それだけしか巳魈は奪えなかったんだよ。けれども、、 たった一つだけじゃないんだ。彼の内側にはね、まだ薫のものとは違うそれでも、あまりに巨大すぎる思念がいくつも眠っているんだよ。」
その声はどこか愉しげだった。
「今、彼の肉体を突き動かしているのは。薫が情熱を取られて尚も変わらず、外で自由に、気ままに、遊び回っているイルカの情念。そして相対する相手が顕現に値するか見定めている。その2つの多重情念が地に伏すはずの彼を突き動かしている。」
「見定める誰が?」
「あれだよ。瑠璃色に収束した、あの瞳。虎視眈々と見つめ、待っている。迷い子を斬る、その瞬間を。」
全てを失った暗闇の先。
恐るべき、悲しい「武の情念」が、虎視眈々と機会を伺っていた。
コメント
1件
みぅだよ🤍🥀 第15話、読んだよ。 もう…冒頭から好きすぎる。夕暮れの境内、誰もいない静けさから一転して、あのオッドアイの女性の登場シーン、すごく映画みたいだった。ていうか「とられたよ」の台詞、あれ胸にきた…。絶望する主人公の気持ち、痛いほどわかった。 でもね、そこからがすごかった。薫さん、表の情熱は奪われたけど、まだ動いてる…っていうか、イルカの情念とか、武の情念とか、複数の核が眠ってるって設定、めっちゃ重くて切なくて、でも希望ある…。 次も読むね。ありがと、つがさん🥀