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日記を読み終わり、その日誌からでてきた彼が残した最期の作品を今度は手に取り読む。内容はやはり私達の生活を元にして書いているようで、一つ一つのセリフは確かに身に覚えがあったものばかり。細部までしっかりと書いてあり、最初に書いたものと比べるとそれは天と地の差と言っても過言では無いかもしれない。
読み手がどんどんその世界に吸い込まれていくような文章構成、話の中でどちらに焦点を当てるかで同じセリフでもその言葉の意味も変わってくるものも見られた。あなたが最期の作品とお話したのも頷けます。ですが、これだけ素晴らしい作品だと言うのにこの感想をあなたに直接伝えることができない。この事実が私の心を苦しめる。
どんなに嘆いてもあなたは帰ってこない、そんなの分かりきっているし今後は切りかえて『生きていく』と決めたのに、なのにこうしてあなた関連のものを見つけ、読んでしまうと過去を思い出し、戻れないその過去を見つめてしまう。記憶からあなたを消す、なんてことは私は出来ないですが、今はただ前を向いて歩いてくためにこの『別れ』とは決別しないといけない。じゃないとあなたが残し伝えてくれたその願い通りにいかないから……。
一人そんなことを嘆いている時、ふと彼女の脳内に日誌の一部が映し出された。それは、サダハルの残した想い。最期の作品には実在した地名などが使われていること。そして、その場所には人がいる可能性があるということ。彼の願いは変わらずひとつ。マナが元気で過ごしてくれればそれでいい、彼の行動原理は必ずそこに収束していた。そしてマナはそれを思い出し行動する。
あなたは常に私のことを一番に考えてくれた。そうだよね、あなたが見たかったのはこうやって悩み苦しむ私じゃなくてあなたに見せたあの笑顔だよね。私はもう大丈夫、前を向ける。もう悩まないよ。私は『私』を確立できたから。
そう呟いたあと、手にある彼の作品を折りたたみ、サダハルが昔使っていたであろうトートバッグのようなものにそれを入れる。そして、そのバッグを肩にかけ書斎に向かう。目的は作品にでてきた地名探しとここからのルートを構築すること。サダハルが残した日誌にもあった通り、まだ生存者がいるかもしれない。その淡い期待を確かなものにするために彼女は行動する。それがサダハルの求めた未来であり、彼女の意志による行動なのだから。
書斎に着き、作品にでてきたヒントから本を確認していく。まず候補に上がるのは地形などが書かれている本、次に観光地などの特集が組まれている雑誌。これを選択肢に入れる理由としてはよりその地区の地形が詳しく書かれていること、そして観光地ということもあり有名なお店なども乗っていること。期待値は薄いが、もし形として残っているのなら有力な情報となる。一店舗でも分かればそこから芋ずる式に周りのことが分かっていくのだから。
情報を集めだして少しした頃、ある程度参考になりそうな本を見つけ出すことに成功し、今度は彼が残した小説たちと照らし合わせながら地図を作る。彼女でもたどり着ける場所で、そのうえで世界を知ることの出来るルートをきっと作っていると確信していたが、現実はそんなことは無かった。
とりあえず形になってきた地図の全体を見てみると、目的地になり得る場所は地図で見ても明らかに遠かった。それでも、私に諦めるという言葉はなかった。だって、あなたの望みはきっと私が幸せに暮らせることだと思うから。なら目的地の距離が遠くても別に問題はない。ただ、私は私の信じた道を行くだけだから。
その後何とか地図を完成させ、外の様子を確認しに地上の家にと戻る。外はもう暗くなっており、旅立ちは明日の朝になるだろう。そう思うと、私の心は寂しさを覚えた。明日ここを出るということはあなたとの思い出の地を離れるということ。あなたをここに置いていくということ。それが私にとってとても辛く苦しい選択であったけど、だからといって私がここに留まることをあなたは望んでないでしょう。あなたはきっと私に世界を見てほしいと願うはず……。私の意思はそこに無いかもしれないけど、もし取ってつけたものでもいいなら私の意思はあなたの与えてくれた道…問に対して答えることだと思う。だから私はその寂しさも超えて、『明日』をつかみに行こうと思います。ここで暮らし続けて『あの時』から進んでない私の中の時計を今直して、また0時から秒針を刻んでいこうと思います。そんな私をずっとずっと遠くの空から……星から私を見ていてくださいね。