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結愛
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ありあ
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#純愛
結愛
93
早朝。制服姿の信愛は、まだ眠気の残る目をこすりながら、ゆっくりとリビングへ姿を現した。
「おはよ〜・・・」
「おはよう信愛」
台所に立つ母、銚子がいつものように振り返る。
「ご飯出来てるから食べちゃいなさい」
「はぁ〜・・い」
気の抜けた返事をしながら席へ向かい、トーストを口に運ぶ。
しかし食事中の信愛の表情は、終始優れなかった。
それは数日前から、ずっと胸の奥に引っかかっていることがあるからだ。
「ねぇ?お母さん?」
「なに?」
「あのさ・・・ちょっと聞きたい事あるんだけど」
「何よ改まって」
信愛は少しだけ言葉を選んでから、恐る恐る切り出した。
「この前の高舘先生の家での事なんだけど」
「ああ、あの猫の霊の話?」
「うん・・・」
そこまでは言えた。
けれど、その先がどうしても喉につかえる。
「あれってさ・・その・・・」
本当に聞いていいのだろうか。
あの時見た、いつもとは違う母。
自分の知らない母のもうひとつの顔。
もしかすると、母には何か隠さなければならない事情があるのかもしれない。
そう考えると、いつも聞き出せない。
「いや・・やっぱいい」
信愛は無理やり笑って立ち上がった。
「行ってきま〜す」
そしてテーブルの上にあったトーストを口いっぱいに頬張ると、そのまま逃げるように玄関へ駆けていった。
残された銚子は、娘が出ていった方を黙って見つめていた。
「その様子を見ていた多摩雄が、静かに口を開く。
「なぁ?銚子?」
「なに?」
「信愛も薄々気づいてるんじゃ無いか?
君が只者じゃ無いって事・・・」
銚子はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「そうみたいね・・・」
「もう無茶はしないでくれよ」
「あなた・・・ごめんなさい」
謝る銚子に、多摩雄は穏やかに首を横へ振った。
「いや、俺は別に怒ってる訳じゃない」
少しの沈黙を置いて、その表情から笑みが消える。
「ただ・・俺は君が苦しんでる姿を散々見てきた」
多摩雄は言葉を続ける。
「だからもう・・そんな姿を見たく無いんだ」
そう告げると、多摩雄は銚子を優しく抱きしめた。
「あなた・・・」
その腕の中で、銚子は静かに目を伏せる。
「天縁教団は今でこそ事実上の解体に近い状態だが
いつまた力をつけて動き出すか分からないんだ」
「そうよね・・・」
銚子の返事は、どこか重かった。
◇ ◇ ◇
学校に着いてからも、信愛の胸の中にある靄は晴れなかった。
「はぁ〜・・・」
深いため息が漏れる。
結局今日も聞く事ができなかった。
ここ数日これの繰り返しだった。
聞こうとして切り出すが、すんでの所で忘れたい過去なのかもしれない、という考えが脳裏をよぎってしまい、言葉がつっかえて聞くのを躊躇ってしまう。それの繰り返し。
やっぱ無理に聞かない方がいいのだろうか。
机に座ったまま、信愛はぼんやりと窓の景色を眺める。
「はぁ〜・・・」
再び、大きなため息が漏れた。
そんな信愛の様子を、茜とさくらが心配そうに見つめていた。
「なんかすっごい悩んで無い?」
「だね・・・何かあったのかな?」
茜は少し考えてから、心当たりを口にする。
「やっぱお母さんの件かな?」
「お母さんの件ってなに?」
「ほらあれだよ!宗くんの家での事!」
「ああ、あれか!信愛の霊気より
お母さんの霊気が多かったって話ね」
さくらは思い出したように手を叩く。
「そうそれ!結局、未だに聞けてないんだよ
あの日からずっと悩んでるっぽいし・・・」
「大丈夫かな・・信愛」
茜とさくらは、思い悩む信愛に不安な眼差しを向ける。
コメント
1件
信愛の「聞きたいけど聞けない」もどかしさ、すごく伝わってきました…。母・銚子さんの過去に何があるのか、多摩雄さんの優しいけど切ない言葉も胸に刺さります。家族の“秘密”って、重いですよね。続きが気になります…!