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保谷東
「やっと終わった……。時間、掛かり過ぎだろ……」
六月に入り、圭は、有給休暇を使い、会社の健康診断で立川緑病院を訪れていた。
一時間ちょっとで終わると見込んでいた彼だったが、思いの外、病院が混雑し、全ての検査が終わったのは正午前。
オプションの検査を受け、追加料金を支払うために、会計待ちをしている。
(随分と中途半端な時間になってしまったな。せっかくの有休だし、昼メシを食ったら、たまには都心にでも向かうかな。それか、家でのんびりしながら、Hanaの楽曲の視聴をしようか…………)
会計カウンターの前に設置されている椅子に腰を下ろしながら、ぼんやりと午後からの過ごし方を思案する圭。
(それにしても、長過ぎだろ……)
会計時間を待たされている状態の圭が、次第にイラつきを覗かせていく。
その時、カウンターの前を歩く、見覚えのある女に目が留まった。
金髪のような明るい髪色のストレートロング、黒い長袖のTシャツにホワイトデニムのワイドパンツに身を包み、クリアファイルを持って俯き加減で歩く女は、『家庭料理 ゆき』の看板娘、美花だった。
彼女は暑いのか、長袖のTシャツを、手首よりも少し上まで捲っている。
肩に掛けていたトートバッグの中を覗き、何かを探している美花。
財布でも探しているのだろう。
思い返せば、彼女に会ったのは四月、DTM事業部内の防音室で、スマートミュージックの意見交換をして以来。
あの後、元恋人で身体の関係を続けていた女、井河千夏が突如現れ、関係をやり直せないか、と言われた圭は、女をラブホテルに連れ込み、どす黒く染まった感情の赴くままに、千夏を犯した。
それ以降、圭は『家庭料理 ゆき』の暖簾をくぐっていない。
(彼女…………体調不良で…………仕事を休んでいるのか……?)
美花の事を気にしている、という事は、やはり俺は彼女に気持ちが傾いている事なのだろう、と、圭は腕を組み、明るい茶色の艶髪に眼差しを向ける。
久しぶりに見掛けた美花は、どことなく痩せて、表情にも覇気がないように見えた。
病院で偶然にも彼女に会うなんて、思いもよらなかった事。
(声を掛けたら…………驚かれるかもしれないな……)
圭は徐に立ち上がると、彼女の元へ、ゆっくりと歩み寄る。
「…………久しぶりだな」
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