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聖なる夜だなんて笑わせてくれる。


俺が授業中なのにノートに下手くそな落書きをしている女をじっと見つめても、例え12月23日まで予定を入れずに毎日手に包まれた機械を眺めても、恋人で溢れかえる街中を独り歩いてみても。


彼奴が俺の方を見る事も、クラスのグループチャットから俺の連絡先を追加して[ 25日空いてる? ]なんて聴いてくる事も、独りの俺を偶然見付けて「 あれ三宅君? 」なんて話し掛けてくれる事も無い。


何も運命や奇跡を信じている訳では無い。

少し偶然とやらが起きて、其れが何らかの手違いで必然と化して、彼奴が俺の隣を歩いているだけの少女漫画なら有り得そうな展開を望んでいるだけだ。


別に、御前が居ない25日が寂しいとか、

そんな事はまるで無い。


今日でなくてはいけない理由も無い。


きっと今日は御前が文化祭後からよく見ているあの男と何処かで愉しげに笑っていて、だから、今日じゃなくて良い。

明日でも明後日でも、1ヶ月後でも、1年後でも、最悪10年後でも。


何時か、何時か。


そう願っているだけで。


イルミネーションもクリスマスプレゼントもそんな煌めくモノすら要らない。


御前が欲しい、だなんて1番強欲で貪欲な思考回路を巡らし商店街に聳え立つクリスマスツリーを見上げていた。


同級生達がインスタグラムのストーリーを次々に更新していく。

君のアイコンが紅紫色と橙色のグラデーションの淵で彩られた。

液晶画面をタップした先で眼の前のツリーが[ I’m waiting for you.  ]という文言と共に載せられていた。

中学英語ですら危うい俺には難しいが今の時代は便利な事に翻訳機能というものが搭載されたスマートフォンがある。


人生で初めてそいつに感謝しながら打ち込んで検索を掛けた。


ストーリーの右上に付いた緑色のマークに口角が緩みそうでどうも気が引き締まらなかった。


俺じゃないのだろう。

どうせ彼奴の事を待っているのだろう。

知っている。

分かりきっている。


でも、

此のツリーを少しぐるりと回れば君が居る。


勘違いも程々にしておけ、と脳内で警鐘が響き渡る。


今日じゃなくても良い?

最悪10年後でも?

運命なんて望んでない?

嗚呼、違ぇ。

嘘に決まっている。

そんな訳が無い。


気に喰わねぇ奴だった。

気になる奴だった。

好きな奴だった。

大好きな奴だった。

何をしていても愛おしい奴だった。


愛しているだなんて子供の俺が言っていい言葉では無いのかもしれない。

でも、確かに、愛していた。


ストーリーにいいねを押して、

1歩ずつ君の元へ近付いてゆく。




[ 私は貴方を待っています。 ]




「 早かったね?三宅君 」


「 … ぇ、否、別に … 」


白いコートに白いブーツ、手に持っている黒いバッグ以外は雪よりも白かった。


「 ぁの、さ! 」


「 ん? 」


「 祈咲さん、が待ってるのって、 」


「 三 宅みやけ 雅 玖がく 君の事だよ 」


俺は未成年飲酒でもしてしまったのか寒さで脳が麻痺してしまったのか好きな女から自分を待っていたと言われていると勘違いしている。


嗚呼、馬鹿馬鹿しい。


そんな事言わせたかった訳じゃない。

優しいからって無理矢理俺とデートやらをさせたかった訳じゃない。


「 否、嘘吐かなくても … 笑 」


「 嘘じゃない。

ほら急いで!お店予約してあるの! 」


俺の手首を掴みどんどん進んでいく女。

手首が痛くなってきた頃にそっと掌を握り、

終いには指を絡めてくる。


「 … 何? 」


「 手、嫌だった? 」


「 別に、 」


嫌な訳が無い。

夢か幻想でも見ているのかと頬を抓ってみても此処は紛れも無い現実で寧ろ恐怖すら感じている。


暫く手を繋いだ儘、引っ張られ着いた先は街の一角にある小洒落たレストラン。


洒落た男では無い俺にはイタリアンだかフレンチだかも分からない。


「 緊張してる? 」


小さな笑い声と一緒に発せられる其の声は俺に向けられていて、君と俺の距離は机を挟んでいるだけの至近距離。


「 え、否 …

何で俺を連れ出したんだよ 」


馬鹿なのか?と言いそうになり踏み留まる。


「 君って本当、鈍感だよね 」


御前には言われたくない、という言葉もギリギリ飲み込んだ。


「 告白、どっちからする? 」


「 は? 」


何だ其の質問は。

コップに注がれていた水を飲み干して意を決した。


「 カッコつけたいから俺 」


「 お、いいねぇ〜笑 」


洒落た店には似合わない笑い声を上げて告白される準備万端ですとでも言いたげな表情かおで姿勢を正した。


「 祈 咲きさき 詩 朋しほさん、好きです。

付き合って下さい。 」


「 んーどうしようかな? 」


チラリと此方を横目で見て曖昧な返事をした。

結局此奴には揶揄われていただけだと悟って帰ろうとした。


「 帰るの? 」


まだ料理も来ていないテーブルを見下ろして頷こうとしたものの好きな女は心底淋しそうな眼を魅せた。


「 … 付き合ってくれるなら帰らない 」


「 策略家だねぇ?笑 」


折角手に入れられそうな好きな女は逃すまいと再度席に着く。


「 私、雅玖君とクリスマスに逢えて良かった。 付き合う、一生離さないよ。 」


罪な女だと呆れた。


俺の気持ちなんて何も考えていないんだろう。

ひとり慌てふためく俺の事なんてどうでもいいのだろう。


「 ずりぃ奴 … 」


「 策略家の雅玖君には言われたくないなー? 」


嗚呼、此の女には敵わない。



聖なる夜だなんて笑わせてくれる。


好きな女は知らぬ間に俺の事を好きになっていたし、鈍感なのは俺の方だし、12月25日だからこそ逢いたいと思っていた。


馬鹿馬鹿しいかもしれない。

実際そう思っていた。


でも幸せそうにペペロンチーノパスタを頬張る御前を見ると此れは奇跡だと、運命だと、勘違いしてしまいそうになる。


此れが恋とやらで、

此れがクリスマスとやらだ。


「 記念日がクリスマスって何だか素敵じゃない?あ、乾杯してなかったね?ちょっと遅くなっちゃったけどしない? 」


ひとりでベラベラと喋り続けて鮮やかなオレンジ色の液体が入ったグラスを此方に向けてくる。


『 乾杯 』


きゃっきゃ嬉しそうに笑うのだから此方まで笑いそうになる。


不思議な女だった。


「 KP!KP!ストーリー上げたら匂わせとか言われるかな!?笑 」


「 良いんじゃねーの? 」


「 じゃあ親しい友達枠だけにする 」


そうして通知が来るように設定していた君のアカウントからストーリーを追加したという趣旨の通知が来た。


「 通知ONにしてたの?脈アリすぎ 」


「 うっせ 」


親しい友達枠とかいう自分でストーリーを見られる人を選べるシステムは残酷だと思う。


そして俺は強制的に親しい友達枠に入れられ、君のストーリーを見る事が出来てしまう。


「 私は親しい友達に君しか入れてないから安心してね 」


「 は? …… は???? 」


またケタケタと笑ってDMしてみてと急かす。


[ 好き ]


口にしなくても伝えられるシステムというのは素晴らしい。

此方は無駄に照れたり恥ずかしがったりせずに済む。

そして相手は、顔が紅くなる。


可笑しな事に眼の前の女は先程と変わらず悪戯に笑っていた。


スマートフォンが振動して表示されたメッセージは酷なものだった。


[ じゃあ愛してる ]


顔が熱くなる。

此奴と同じ気持ちで生きてきただなんて事実は信じ難い。


「 私の勝ちー 」


[ 飽きたから辞めるとか言ったらぶっ飛ばすからな ]


[ こっちのセリフ ]


眼が合って吹き出す女は可愛らしい。


「 ずっと一緒に居てね? 」


「 詩朋が居れば良いだろ 」


小さい声を漏らし頬を紅色に染めた。


誇らしげに笑ってやれば顔を覆って一言呟くものだから此方もしてやられた。


 「 … だいすき、 」







聖 な る 夜 に 乾 杯 を

策 略 フ ィ ア ン セ



end.






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