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他の街との交易なども殆どなく、一方を除いて囲まれた土地にある街、スウォード。
そんな街は寂れて荒れ果てているのかと思いきや、どうやっているのかその街だけで成り立っていて、平和である。
街はどこも石畳が敷かれ、道端に孤児や物乞いなどもいない。スリくらいの小悪党こそたまにいてるものの、人殺しはついぞ聞いたことのないような街。
そんな嘘のような街があるのは、最初の住民とそのリーダーたちによるもので、以来この世界には珍しい民主主義すらも成立し、人間も獣人や亜人種も共に助け合うことで成り立っている。
とはいえ、それでも孤児というのはなくならない。道端で放浪こそしていないが、親を早くに亡くしたり、ほか訳ありな子供たちが街の西側の一角にある孤児院で暮らしている。
院長というのも仕事として成り立ち、多くはないが街からの援助で皆がそれなりには生活できている。
加えて50年ほど前の院長が、働かざる者食うべからずとして子供たちで敷地に畑を作り自活し、街中でも働いて収入を得られるような仕組みを街に浸透させたとか。
そういった取り組みもあり、街では身寄りのない子供は孤児院へと預ければ、むしろ生活力ある逞しい大人へと育つとされ孤児院出身であることで言われなき差別を受けることもない。
いま、街のメインストリートを歩くエルフの少女もそんな孤児院の出である。
物心つくころにはこの街の孤児院の世話になっていて、両親の顔は覚えていない。周りの大人も自分は孤児院の玄関先に捨てられていたのを保護したと、そう聞かせてくれた。
まだ日の昇らない時刻に、床に座り膝を抱え歌を歌っていたのだと。人間でなら3歳のように見えたそうだが、エルフとしてその通りかはわからない。便宜上15年経った今は18歳を自称している。誕生日は拾われた春の日だ。
しかし彼女は、そんな自分の境遇を不幸せと思ったことはない。むしろいつも周りに同じ孤児たちや優しい大人たちに囲まれていた生活は楽しいものだったと。いまの自分を形成している大切なものだと。
ブーツが石畳をコツコツと鳴らすのさえ楽しみながら、目的の店へと向かう。
この世界のこの街において18歳は成人であり、ほとんどの住人はこの歳には何かしらの職に就いている。このエルフについても例外ではなく、この春から彼女が選んだ職業は狩人。
冒険者のうちの特に小動物を専門に狩って街の食肉を得る仕事である。
ずっと同じこの街で暮らしていながら、街ゆく住人を見ても川を流れる水のきらめきにさえ退屈することなく楽しめる彼女だが、それでも悩みを抱えている。
今日はそんな悩みを解決したくてはじめての店に向かっている。”はじめての店”にわくわくとしている彼女が本当に悩んでるのかは、彼女にさえわからない。ただ問題の解決が必要なことだけは確かだ。