それから一週間後、俊は鎌倉の自宅でパソコンに向かっていた。
先週雪子の家の間取りや広さを実際にこの目でチェックしたので、自宅店舗にする際の大体のイメージを思い浮かべる。
普段やっている仕事と規模の大きさは全く違うが、取り組む行程はほぼ一緒だ。
既存の建物を生かしどう作り上げていくか。それがプロデューサーの腕にかかっているという点では同じ作業だった。。
その行程が面白くて今までこの仕事を続けてきた。
だから例え規模が小さくても、雪子の家をカフェに変えるという計画は俊にとってはやりがいのある仕事に変わりはない。
予算を具体的にはじき出しそれが予算内に収まれば、彼女はきっとカフェをやるだろうと俊は確信していた。
普段は柔らかでふわっとした印象の雪子だが、実は彼女が芯の強い女性だという事を俊は見抜いていた。
彼女は夢を一度諦めたかもしれないが、それが実現可能だと分かればすぐにまた動く。
俊はそう思い、あえて具体的に動いているのだった。
離婚を決意しそれを実行し一人で子育てをしてきた女は強い。
雪子はそれだけでなく、父親もきちんと看取ったのだ。
そんな逞しい雪子に、俊は敬意を表したいくらいだった。
だから雪子の夢を実現する為ならなんでも協力したい。そう思っていた。
一方、雪子はいつものような毎日を過ごしていたが、家にいる時はもっぱら自宅ショップに関する情報をネットで集めていた。
実際に自宅ショップを開いている人のブログや動画を見たり、鎌倉市内にそういった店があれば出かけて行き実際に見てみる。
幸い鎌倉にはそういったカフェや雑貨店が山ほどあったので参考になる店がいっぱいあった。
この半年間、更年期だなんだと言って家に引きこもってばかりいた雪子の姿は、もうそこにはなかった。
いつの間にかデパートで生き生きと働いていた頃のような雪子に戻っていた。
そんなある日、雪子はパートから帰って来て郵便受けをチェックしていた。
いくつかの郵便物が来ていたので手に持って家の中へ入る。
家に入るととりあえず荷物を置き郵便物も一旦テーブルの上に置いた。
そしてまず最初に洗濯物を取り込みに行った。
その後一息つこうと、日本茶を入れてダイニングの椅子へ腰かける。
雪子はお茶を飲みながら郵便物を一つ一つチェックしていった。
ほとんどがチラシやセールス関係のハガキだったが、1つだけ白い封筒があった。
宛名には息子の和真の名前が書いてある。
雪子は裏返して差出人を見てみた。
するとそこには、『笹倉俊之』という名前が書かれていたので驚く。
笹倉俊之は、雪子の元夫、そして和真の父親の名だった。
雪子は久しぶりにその名前を見て心臓がドクドクト音をたてる。
なぜ俊之は今頃和真に手紙を送って来たのだろうか?
雪子は離婚してしばらくの間は元夫に和真を会わせていた。
親権は雪子が持っていたが、父親が会いたがった場合拒否する事は出来ないからと弁護士に言われ仕方なく元夫に会わせていた。
しかし和真は小学校高学年になった頃から父親に会いに行くのを嫌がるようになった。
そして中学生の思春期なると父親と会う事を拒否し始める。
和真には離婚の原因が俊之の不倫だとは伝えていなかった。
俊之にも言わないでくれと頼まれていたので、その事は隠していた。
しかし4歳の時に父親の不倫現場に遭遇した和真には、なんとなくその時の記憶が残っていたのかもしれない。
だからなんとなくは察していたのだろう。
和真は父親の不倫について一切触れてはこないが、もしかしたら全てを知っているのでは? と感じる事も多かった。
だから父親に会うのを嫌がるようになったのではと雪子は思っている。
父親と会わなくなってからの和真は、一切父親について口にする事はなくなった。
そんなところへいきなり息子宛てに手紙が来た。
一体何が書いてあるのだろうか?
さすがに雪子が勝手に見る訳にもいかないので、とりあえず和真が帰って来る時まで保管しておく事にした。
雪子は、折角楽しく暮らしていたのにまた悩みの種が舞い込んで来たので暗い気持ちになる。
元夫の俊之は、雪子達親子が平穏に暮らしているところへいつも変な波風を立てて来る。
それは別れてから20年経った今でも変わらないのだと思うと、思わず大きなため息が漏れた。
しかしいつまでも過去の人間に捉われていても時間がもったいない。
雪子はなんとか気持ちを奮い立たせると、夕食の準備に取り掛かった。
コメント
3件
さんざん家族を傷つけ 迷惑をかけておいて....😡💢 雪子さんが やっと幸せを見つけ 自分の足で歩み始めた矢先に、今さら 一体何だというのだろう⁉️ 息子さんも、きっと相手にしないだろうけれど🤔
勝手なもんよね😮💨 何かあるから送ったきたんだろうけど、今更なんなの?だよね。 せっかく雪子さんが自分の為に生きて行こうと新しい扉🚪を開いたのに…腹立つわ〜😤
シングルマザーとして息子を育て上げ、父親の最期を看取り、更年期も克服し自分の夢を叶える努力をしてる雪子さんを尊敬のまなこで見つめ称える俊さん✨✨ それとは対照的に離婚後面会を拒否し出した息子へ手紙を送ってきた元夫。 読者はよく送れるなーと唖然とするけど、送られた方は本当に気分悪いし困るし憤慨すると思う😤 良いことが書いてあるとは思えないし、開封できないジレンマもあってイラつくわーっ💢😡