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目の前に並べられたコスメたち。美しいそのデザインに、わぁ! と目がハートになった。とんでもなくかわいい!!!
まるで魔法にかかったみたいにメイクを施されていく。垣内さんは私の骨格や、肌の状態や色から似合うものを的確に選んでくれる。話のテンポもよく心地いい時間が流れる。
篤人と垣内さんは、高校の同級生。ときどきは会って飲みに行く仲らしい。
「はい、できた」
鏡に映った自分は、見違えるようだった。こ、これが自分?
「花音かわいい」
「えっ!? あ、ありがと、う」
素直にほめられて、頬が熱くなる。
「|凌《りょう》、これ全部な」
その言葉にハッとする。ちょ、ちょっとまって、全部!?
「あの、予算的に全部は……」
「いいから」
あっという間に支払いを済ませる彼をあわあわと見つめている間に、垣内さんがブランドのロゴ入り紙袋に商品を入れていく。
「人って変わるもんだねー」
「んだよ」
「彼女に首ったけの永井なんて、初めて見た」
けらけら笑う垣内さん。むすっと機嫌を悪くした永井くんの顔はなんだかかわいい。くすくすと笑いながらお店を後にする。「サンプルもいろいろ入れてありますので、またきてください」
「ありがとうございます」
永井くんが紙袋を受け取って、持ってくれた。自分で持つと言っても、いいからの一点張り。
お店の前でわぁわぁしているのも恥ずかしくて、ぺこりと垣内さんに頭を下げてエスカレーターに向かって歩き出す。
当たり前のように、篤人がすっと手をつないできて、とくんとひとつ胸が鳴った。
「なんか、すごいねBAさんって。別の人になったみたい」
「まあ、夜の花音には及ばないけど」
もうっ! 何言ってんの!? とぷりぷり怒る私をよそに、上の階へ向かうエスカレーターに乗った。
「あれ、スイーツ見にいくんじゃないの?」
「まだプレゼント揃ってないから」
揃ってない? と首を傾げる。永井くんはレディースファッションのフロアへと歩いていく。
「コート、買お」
「へ? コート?」
「うん。あれ、あいつに買ってもらったんでしょ」
そんな話をしたことがあったのを思い出す。
「よく覚えてたね」
「着たくないけど着てるって言ってたじゃん」
「あー……」
もうあれ着ないでと言いながら、お店に入っていく彼。
すっかりフロアは春になっていて、今着る冬用コートは品揃えが少ない。
2月の終わり頃は、寒い日があったり、温かい日があったりと天気も落ち着かないけれど、新作春コートはどれもすてきだ。
「春コート、いいね。なんかワクワクする」
「花音が気に入ったの買おう」
「いや、ちょっと待ってよ。予算的にこのお店だと……」
「気にしなくていいから。ここじゃなくてもいいけど好きなの選んで」
そう見つめられると、時間が止まったように感じる。
お店の中で、気に入ったデザインのものを見つけて羽織ると、ふわっと気持ちが軽くなる。
似合うよと彼に言われて胸がぎゅっとする。少し低い声が、私を褒める。そのことが素直に嬉しいと思う。
じゃあこれにしようかなと、脱ぎながらタグを見て値段を確認しようとすると、彼がすっとそれを持っていく。
えっという私の小さな声も気にせず、近くにいた店員さんにそれを渡していた。あわあわと慌てるのは本日2回目。
彼があっという間に支払いを済ませるのも本日2回目で、さすがに……と袖を引っ張る。
「プレゼントって言ったでしょ」
「あ、あの」
「俺があげたいだけだから」
そのあとルームウェアと、ランジェリー売り場も周り、お金はすべて彼が払ってくれた。荷物も全部持ってくれるので、恐縮でしかない。
荷物を肩から下げた彼とエスカレーターを地下一階まで降りて、目的のスイーツ売り場へと向かう。
少し前にリューアルした店内は、華やかさが増している。
|人間スピーカー《山田さん》が差し入れでよくくれるという、洋菓子店の売り場へと足を向けた。
「あ、いた」
小さく声を上げた彼の視線の先に、山田さんの姿。
絡めた指をきゅっと握りなおした彼に連れられて、列に並んでいる山田さんに近づいていく。「あら!?」
向こうもこちらに気がついてくれた。
立ち止まって彼が挨拶をする。
「山田さん、こんにちは」
「こんにちは! おそろいでおでかけ?」
「はい、ちょっと買い物に……」
へー!! と驚きながら、さりげなく篤人が持っている紙袋に目を遣る山田さん。女性もののブランドばかりだから、きっと何か感づくものがあるだろう。