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気を取り直し、南風家の面々が姿勢正しく座り直した。私も彼らの行動に慣れてきたのか、失敗をごまかそうとする猫みたいな『失態なんぞ晒してはおりませんが?』風の表情がちょっと可愛く見えてきたのだから、不思議なもんだ。
「結婚の件じゃが……他にもっと相応しい相手がおるんじゃないか?普段の私は、ほぼ『こんなん』じゃぞ?」
マーモットが故の短い手を前に出してバタバタと軽く動かして、不都合さをアピールする。だが何故か、部屋の皆々が動物園の『ふれあいコーナー』に集まる父母達みたいな顔になった。
「夜会の会場を必死に走っていたのは、この姿でだったんだねぇ」
血に染まっていくハンカチで鼻を押さえながらアルサが言う。魔力を用いたエコーロケーションのおかげで会場内を駆ける『私』の存在を察知してはいても、流石に正確な種族までは把握出来ていなかったという事か。
「——えっと二人の結婚の件だけどね、何も適当な事を言っているとか、『管理者』様の『後継者』である叶糸君の気持ちを慮っての発言ではないんだよ」
「……そう、なのか?」
「えぇ。実は夜会の直後から、南風に対して『“龍の獣人”である、あの女性の情報が欲しい』という依頼が鬼の様に来ているの」とサリアが補足した。
「まさか渡してなんかいないよな?」
まんまるな背中にざわりと寒気が走る。すぐさま叶糸の顔を見上げると、まるで威嚇でもしているみたいな表情になっていた。——だが、一族の猛者ばかりなのか、今ここに居る南風家の面々は微動だにしていない。しかも、自分達にとって崇拝するに値する『管理者』を裏切る者など一人もいないという誇りを抱いていると感じ取れる雰囲気を、全員が纏っているではないか。
だからか、叶糸がすぐに威嚇行為を控えた。多くを語らずとも彼らは信頼に値するとすぐに思えたのかもしれない。『私』と『補佐』達が『信頼出来る』と既に判断した一族なのだ。当然と言えば当然か。
だが敢えて、「「勿論です」」と当主夫婦が力強く頷き、『言葉』にした。『誓い』にも近い強さがその声にはある。
「まぁ、夜会の会場を騒がせてしまったから、星澤家には情報を少しくらいは渡さないとだけどね。でも『実は私の妹なんだ』と言うくらいで済ませるから安心していていいよ。別件の、彼らが欲しくって仕方がない情報を売れば、この件に関してはそれ以上を求める気は無くなるだろうさ」
一旦区切り、アルサが話を続ける。
「でね、『“龍の獣人”の情報が欲しい』者達の中にね、『西條ソロア』が混じっているんだけど——」
「——っ!そ、ソロアがか⁉︎」
「お、アルカナも知っているのかい?」
「……あぁ、まぁ」とアルサに対して言葉を濁す。
(『叶糸』の、じゃなくて『私』の情報を?)
言い知れぬ嫌悪感に叶糸が顔を歪めている。『今回』はまだ関わっていないのに、魂に刻まれてしまった『過去』の不快感がまた蘇ってきてしまっているのかもしれない。
「……叶糸」と呟き、彼の頬に手を伸ばすと、自分から顔を近づけてくれた。瞼を閉じて甘えるみたいに擦り寄ってきてくれて嬉しくなる。
「その、ね……彼女は、アルカナを自分の『嫁』にしたいと思っているみたいなの」
「——はぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
サリアの言葉を聞き、部屋中に響かんばかりの声を上げてしまった。でもすぐに納得出来てしまう。『私』は西條ソロアが結婚相手として渇望している『王族』や『皇族』の血筋の者ではないが、その存在自体が『吉兆』であり『希少種』であり『この上なく崇高な者』ではあるのだ。『アレこそが私に相応しい』とでも思ったのだろう。過去に生まれた『龍の獣人』達は全て国の統治者達に是非にと請われて婚姻関係を結んだくらいの『種』だから、『王族』以上に魅力的な者に見えたのかもしれない。
(今はもう貴族間でも同性婚が認められている。ただ、後継となる子をなす為に異性の『孕み腹』か『子種の提供者』を同時に囲うか、体外受精を検討するべしという条件付きではあるけども)
ただの推測でしかないが、『龍の獣人』である『私』を娶り、他の貴族との交配か体外受精でもさせて孕ませれば、自分は純潔で高潔なまま『崇高な者』の『伴侶』でいられるとでも考えていそうだ。……『過去』に実弟を強姦してまで平民の血筋である叶糸との婚姻を回避しようとした女である。そのくらい平気で考え付く気がする。
(あの時、華麗に踊る叶糸に見惚れていた訳じゃなかったのか!)
納得はしつつも、それでも彼女の見る目の無さと、何処までも自己中心的な女である可能性の高さに呆れてしまう。絶対に今回も関わるべきじゃない相手であると、改めて思った。
「でね、叶糸君の方の情報を欲しがっている者も一人いるんだ。あの感じだと、まず間違いなく、結婚相手として探っている気がするんだよねぇ」
「……それは、誰じゃ?」とアルサに訊く。嫌な予感しかせず、続きの言葉を聞くのが怖くなった。
「本来なら依頼主の名を明かすのは規約違反なんだけどねぇ……」と少し困った顔にはなったが、そもそも私達に隠し通す気はなかったのか、ゆっくりとアルサが口を開けて言葉を紡ぐ。
「——依頼者は『|北尾《きたお》スリエ』。我が家と同じく『侯爵』の爵位を持つ家の一人娘だよ」
やっぱりその女か!と叫びそうになった口を慌てて塞ぐ。何処までも叶糸の『過去の不幸』が彼を追いかけて来る感覚に対し、ざわりと体が震えた。
「不遇な剣家の末息子であれば、離婚歴が三度ある災難付きの女性とでも、喜んで結婚すると踏んだんじゃないかな」とアルサが推察を述べる。
あぁそうか、今回も『過去』と同じ理由なのかと、深いため息が溢れた。
🌻向日葵

瑠璃マリコ
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コメント
1件
うわ、今回も情報量多いし展開エグかったですね……!特に西條ソロアがアルカナのこと狙ってるってとこで「はぁ!?」って声出ました。いやマジで過去からしつこく絡んでくる相手すぎる…。あと叶糸が威嚇してたのに南風家の誠実さ見てすぐ信頼に切り替えたシーン、二人の絆が表れててグッときました。過去の因縁がまた動き出しそうで続きが気になる…!