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いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

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いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

53 - 【第五章】第九話 過去の記憶・焔②(焔・談)

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2025年03月06日

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「……“俺”?紅焔が、“俺”って……」と、不思議そうに竜斗が呟く。

そんな事は一切構わず俺は抱き締める腕に力を入れた。


「竜斗、竜斗……あぁ……」


どうしてずっと忘れていられたんだろうか?

これほどまでに愛おしい者の名前を。


その名前を口に出す度に、ずっと奥底に埋もれていた記憶がじわじわと溢れ出てくる。名を呼ぶ度に竜斗も嬉しそうに笑って、「今日の紅焔は甘えん坊さんだなぁ」と言いながら優しく応えてくれた。

「ねぇ、部屋に入ろう?廊下は……此処は離れだとはいえども、誰かに見られちゃうかもよ?子供同士で何してるんだーって言われちゃったら、どっちも困るよね?」

熱っぽく高揚した瞳を向けられて素直に頷く。そんな瞳で見られては、まるで視姦でもされているみたいな気分になってくるから不思議である。 ——でも、だ。

「……子供?俺達は、子供なのか?」

「何言ってるの?当たり前じゃないか。紅焔の年齢は正確には知らないけど、少なくとも僕よりも下だし。僕だってまだ十七だから、神族としてはまだまだひよっこ扱いしかしてもらえないのが悔しいなぁ」

「……十七、だと?」


(それは、年齢の話か?俺が、子供?——いや待て。んな訳あるか!)


一度は明後日の方向へぶっ飛んでいた意識を完全に取り戻し、竜斗から離れて自分の姿を慌てて確認した。

普段好んで着ている紺色の着物を身に纏ってはいるが、いつもしているはずの目隠しをしていない。その代わり、術の施された大きな札が額に貼ってあって顔の前方を覆われ、まるで近隣国の僵尸きょうしみたいだ。袖から見えている骨みたいに細長い手足には何となく見覚えがあるが、こんなモノはもう過去の遺物と化していたはずなので悔しい気持ちになってくる。


違う、これは今じゃ無い

これは過去だ、俺の過去の記憶の世界だ。


そう確信し、ずっと閉じていた瞼を開いてしまいながら、焦り混じりに「リアン!今はとにかく、リアンを探さねば!」と言い、慌ててその場から離れようとした。この空間の何処に奴が飛ばされたかなんてアテは一切無いが、リアンは『何かあっても二人で解決しよう』と言っていた。異世界について詳しい奴と一緒にだったらこの状況だって何となるはずだ。


早く合流しなければ、この異常事態を、共にどうにか——


「——誰なの?ソレは」


背後からぬっと手が伸びてきて、急に竜斗に口を塞がれた。細くて今にも折れそうな俺の腰に腕を回し、リアンを探すべく今にも走り出そうとしていた体をがんじがらめに拘束する。

「んぐっ!んっー!」

離せと心の中で叫びながらもがくが、びくともしない。こんな細い体だからか?いや違う、この時期の俺と竜斗とでは、比較しようが無い程に俺よりも彼の方が格上なのだと悟り、背中に冷たいものが流れ落ちた。

「……初めて聞く名前だね。僕の知らない名前を、どうして紅焔が口に出来るの?僕が知らない事なんか、何一つとして君の中にはあっちゃいけないのに、何で?どうして?ソレとは何処で会ったんだい?僕達はほとんど一緒に過ごしているのに、そんな隙が、紅焔の何処にあったの?」

がっちりと拘束されているせいで竜斗の顔が見えないが、声色だけで嫉妬や怒りに満ちている事がはっきりとわかる。


だが、こんな竜斗は知らない。


今この瞬間にだって溢れかえってきて止まらない、自分の記憶の中の彼はいつも笑顔で、優しくって、朗らかで、光に満ちた存在だった。半人半神の身にありながら『神族』として誰からも認められる男だったのに、背後からはドス黒い感情しか感じ取れない。

「……紅焔の部屋に戻るよね?僕と一緒に、居るよね?僕の居ない何処かになんて、イイコな紅焔は行かないよね?今までだってそうだったろう?毎日、毎日毎日。朝も昼もずっと一緒に居て、あまりにも僕達がべったりしてるから、昨日だって父上が呆れていたんだから。だけど僕はこのまま二人きり、ずぅぅっと一緒がいいな。……紅焔も、そう思うよね?」

「……」

知らない存在に拘束されているみたいな恐怖を感じ、声が出ない。そもそも口を塞がれているので物理的に返事が出来ないというのもあるが、きっと塞がれていなくても返事は出来なかった気がする。

「無言はね、肯定と同じ意味らしいよ。嬉しいなぁ、紅焔も……僕と同じ気持ちなんだ」と言い、ぐいっと後ろに体を引っ張られた。俺が元々居た部屋にずるずると連れ込まれ、二人の体が中に入ったと同時に襖が勝手に閉まっていく。


腕による拘束を解き、竜斗が口から手を離してくれたが、そのままの勢いで畳の上に押し倒されてしまった。肩が強く畳にぶつかり少し痛いが、すぐに体勢を立て直して起き上がろうとする。だけどそんな俺の上にすかさず竜斗が覆い被さってきて、全く身動きが取れなくなった。

「りゅう、と……?」

「なぁに?紅焔」

見たことも無い、仄暗い顔で微笑まれ、頭の中が真っ白になる。今の自分はどうするべきなんだ?とすら考えられずに固まっていると、竜斗が俺の髪に頬擦りをし始めた。

「あぁ、紅焔は今日もいい匂いだね。柑橘系の香りがするのは、昨日一緒に入った蜜柑風呂のおかげかなぁ」

クンクンと匂いを嗅がれ、耳の後ろを舐められた。

「ココって一番匂いが強い箇所なんだって、紅焔が昔教えてくれたよね。僕、紅焔自身の匂いもすごく好きだな……」

同じ箇所を丹念に舐めながら指で耳の外輪を撫で始める。こんな行為を竜斗とする日がまたくるだなんてどうしても信じられず、意図せず体が強張ってしまう。

「紅焔は耳を触られるの好きだよねぇ。君の体の為に撫でっこしてるだけなのに、いっつも体を跳ねさせて、可愛いったらありゃしないよ」

クスクスと笑い、竜斗が楽しそうにしている。


あぁそうだった、完全に忘れていた。


過去の記憶なんか深井戸の中に捨て去ったみたいに今の今まで思い出せずにいたが、昔はこうやって、しょっちゅう人目を盗んでは互いの体に触れ合って、舐めて、竜斗から大量の神通力を分けて貰っていたんだったな。餓鬼みたいな俺の細い体を育てるには『こうするのが一番だ』って言い聞かされて、言い包められて。


流れや理由は違えども、行為自体はまるで今の俺とリアンの様じゃないか。


「ココとか、ココも、触られると勝手にピクッて動いちゃうし、何度見ても、何度味わっても可愛いなぁって思っちゃうよ」と言いながら、首筋を撫で、着物の中へ手を忍ばせて鎖骨付近をツツッとなぞってきた。

彼が言うように、勝手に体が震えて変な声が出そうになる。掃除道具入れの中でリアンにされた行為とも被り、心音が段々と早くなってきてしまった。

「あぁーあ。君はまだまだ子供だし……起きている紅焔には、絶対に此処までしかまだしないって、決めていたのになぁ……。君が悪いんだよ?僕が知らない名前を口にするから、僕の知らない存在と知り合いになんかなるから」

着物の前をゆっくりと開いていき、はだけた肩をガリッと噛まれた。そのせいで八重歯が肌に刺さり赤い血がツツッと流れ落ちていく。竜斗がその血を丹念に舐めとって神通力で即座に癒すとすぐに傷口は塞がったが、噛み跡だけはしっかりと残ってしまった。

苛立ちをぶつけるみたいに何度も同じ行為を繰り返し、箇所を変え、肩以外にも、胸や腕、腹にまで噛み跡が増えていく。興奮気味に行うその行為は所有印を残しているみたいに見え、俺から逃げる気持ちをすっかり無くしてしまうには充分な行動だった。


「す、すまない……。お前がいるのに、お前だけなのに、俺は——」


「“俺”?“俺”って、また言ったね。何それ、誰かからの影響なわけ?しかも……謝る、の?謝るって事は悪い事をしたって認める事になるけど、それでも紅焔は、僕に謝るの?」と、竜斗が早口で捲したてる。

この時代の俺は自分の事を“われ”と言っていた事を思い出し、こんな些細な事ですらも、今の竜斗からは怒りを買う事に驚きを隠せない。奴はこんな短気な男では無かったはずなのに、リアンへの嫉妬のせいだろうか。

「ち、違う!そうじゃない、違うんだ、説明させてく——」までは言えたのに、唇を奪われてしまい続きを言わせてもらえなくなった。これはただの『過去の記憶』を具現化させたもののはずで、現実じゃないのだと頭の中では考えているのに、この口付けがあまりにも嬉しくて歓喜に震えてしまう。

だけど同時に、馴染み深い感覚も襲ってきた。

互いの絡む舌や唾液の味、わざと八重歯で舌を傷付けて、俺の血をも味わおうとする行動とが、どうしたってリアンとの口付けと重なる。


「僕はそもそも、『謝って』なんて言ってないよね?ただもう、二度と僕の知らない名前は呼ばないで欲しいな。竜斗って、僕の名前だけを言えばいいんだよ。この声は、この口は、僕の名前を呼ぶ為だけに開かれていないと、ね」


「だけど、聞いてくれ!りゅぅ——」

俺の言い分を聞く気なんか微塵も無いのか、離れてもすぐにまた口を塞がれてしまう。穏やかな印象しか無かった竜斗と交わしているとは到底思えない激しい口付けがひたすた続き、骨の髄まで溶けていってしまいそうだ。


だけど駄目だ、このままじゃ。一刻も早く廃病院へ戻らないと。

リアンを、探さないと。


そうは思うのに、口付けを交わしながら体を弄られ、思考する事を阻まれてしまう。肩を、腕を、腰を、太腿までもを熱い掌で撫でられてしまい、どうしたって体が喜んでしまって明確な目的を易々と追い払っていく。

「……濡れてるよ?僕に触れられて、気持ちいいんだね」

内腿を下から上へと竜斗の手が滑り、手の甲で軽く、褌越しに魔羅を撫でられてしまった。

「んあっ!」

「あぁ、やっぱりだ。思い描いていた通りの素敵な声だね。ずっと、ずーっと聞きたいと思っていたから、嬉しいなぁ」

しつこく同じ行為をされ、声が我慢出来ない。このままでは褌を汚しかねないくらい的確に弱い部分を攻められ、「ば、馬鹿!止めろっ」と言いながら竜斗の胸を押したが、力が入らず無駄だった。


「ば、馬鹿って……え?紅焔がそんな口のきき方するなんて、驚きだな」


そういえば、この時の俺は竜斗に好かれたい一心で、比較的素直な性格だったかもしれない。騙されやすく、奴の言葉の全てを鵜呑みにしていた。だが今はそんな事を気にしている余裕なんか、俺の知らない一面に変貌している竜斗のせいで微塵も無く、今の自分の性格でしか対応出来そうになかった。


「俺だって、こんなお前は知らん!」


「そりゃ……見せないよ。嫌われたくないし。好きな人には、理想の自分しか見せたくないものだろう?でもお互い様だったって訳か。猫被りしていたんだねぇ、二人とも」

納得しか出来ずに言葉を詰まらせていると、穿いている褌や帯を難なく解き、竜斗が俺の着衣を脱がせ始めた。だけど完全に全てを奪うのでは無く、着物には袖を通したままなのが不思議でならない。

「……今までだって沢山僕の力を分けてあげてるのに、まだまだかなり細いねぇ。だけど、それでも紅焔は本当に綺麗だから、何も気にする事はないよ。でも、もっともっと君を肥えさせてあげたいから、今日はもう、最後までまぐわってしまおうか」


何を言っているんだ?竜斗は。


聞こえた言葉の意味を理解出来ず、俺はポカンとしてしまった。

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