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「猿〜!!」
いつものようにふざけた呼称は、今ではただの遊びだが、流石に猿呼びは失礼だと頭に来る。それも、1人じゃないのがまた。
「猿! 元気しとったか?」
最初に大声で猿と呼んだのは自身の生徒である鬱島大。元気かと聞いてきたのは鳥井希だ。
小学生というのはエネルギーがあり、大きな夢を抱いている。くそしょうもないけれど、大人でも釣られて笑ってしまうような面白い夢を。
「だーれが猿だってー? もしかして反省文でも書きたいのかー?」
もちろん今「猿」と呼ばれているのは自分───猿山らだ男だ。名前に猿があるからなのか、それとも体育教師とかいう立場にいるからなのか……よくわからないけれど、子供たちに言わせれば「全部の要素を入れたら猿だから」らしい。
なんとも失礼だ。
「いやあ、まぁ許してやってください」
ふと、周りに比べて大人びた声がした。少し視線をずらせば、目の前にいたのは桃瀬豚平だ。
周りよりも大人しめだが、悪ノリはしっかりとノるタイプの少し癖のある生徒だ。けれど普段の素行は3人に比べてまだいいため良しとする。
残りの1人は捏島孝行。いっつも自分のケガを見て嫁さんと喧嘩をしたのかと口うるさく言うため成敗している。ただ、最近はもう怪我もないが。
……みんなのことをフルネームでは呼びにくいためあだ名で呼んでいくこととする。
「許してくれって……何? なんか緊急事態?」
そんな猿呼ばわりをいつもなら傍観しているトントンが、珍しくも2人に対して怒らないであげてくださいと言うため、何か事情があるのかと聞いてみれば、相手は首を横に振るばかり。
何なんだと思いながら「はあ?」と声を上げれば、みんなに変わって代弁したのはコネシマだ。
「いやあ、なんかさっき先生が何もないところをぼーっと見よって気になったんす」
さすがコネシマ、と言うべきなのだろうか。人の表情に関しては敏感だ。だからこそ表にあまり出さないようにしていたのだが。
「……じゃあ、お前らが猿って呼んだのは俺の意識をお前らに持っていくために……」
「そういうことや。まぁ猿もええ歳になってきたんやし思い耽ることもあると思うけど」
「何? ゾムはやっぱり反省文書きたいのか?」
犬猿の仲だと言われる生徒との微かな罵り合いは、やはり少し楽しくなってしまう。
……けれど、自分がボーッとしていたことが当たっているのが少し怖い。子供というのは、本当によく周りを見ているものだと改めて認識させられた。
「先生は何を考えとったん?」
「……」
何を考えていたのだろう。きっとそんなのは愚問にしかすぎない。
自身が鬼になって、彼らを怯えさせてしまったことへの罪悪感は未だ拭えない。自分は救いようがない人間だとわかっていたのに、幸せな生活を送ってしまっていることが悔しい。
「───天乃のこと」
場が静まり返るのは予想の範囲内だった。というか、予想的中と言った方が正しいか。
───天乃はもうこの世にいないのだから、その話題を出されても適切な反応なんてできないだろう。
「天乃って……どっちのですか?」
やはり、そう聞かれるのだろう。
この4人の他に、もう1人生徒がいる。天乃呂成太だ。ロボロはクラスの中でも真面目な部類で、明るく元気な子だ。トントンと変わらず悪ノリにはノるタイプ。
けれど、この場にいないだけだ。
「───刑事さんの方」
この世にいない天乃は、天乃呂成太の兄である天乃絵斗だ。
ロボロがこの世にいないわけではなく、今はただ、天乃絵斗が亡くなったことによるショックで保健室登校となっているためいないだけだ。
ただ、刑事さんの方だと言わない方がこの沈黙も静かなままではなかっただろうに。
『お前と………もっと─────』
あの言葉と表情が、頭から離れない。
天乃は、天乃絵斗は───死んだ。
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