テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
───天乃は、天乃絵斗は死んだ。
いや、死んでいた、の方が正しい。この事実を知ることになるのがこうも遅かっただなんて、自分でも全く信じられない。
───天乃絵斗は、もうずっと前に死んでいた。
……………
「おいおい刑事さん、逃げてばっかでいいの〜?」
自分よりも数十歩先にいるのは、天乃絵斗だ。もちろん肉体もあるし飼育小屋にもぶち込まれる。
今は”あの日”だ。学校からなかなか家に帰らない、いつものあいつらを成敗した日。それでいて、なぜか天乃絵斗という刑事もいた日。
「じゃあ鎌を降ろしてくださ〜い?!」
天乃絵斗という刑事は、実に元気いっぱいのうるさいやつだ。自分が猿と呼ばれるより、こいつのほうがよっぽど猿と呼ばれるほうが違和感がないくらいには。
叫び声も、行動も、大胆でどこか細かいところも猿だと思う。
「だーれが逃げてる刑事に鎌を降ろすんですか〜?」
段々と呼吸音が大きくなる中、相手も段々と走るスピードが落ちてきている。
そういえば、こんな性格の人、昔いたような気がする。
「じゃあ止まってよ?!?!」
うるさくて、バカで、頭も悪かった。けど人一倍優しくて、強くて、人の表情に関して敏感で、努力家な男の子が。
「え〜、止まったら撃つんでしょ?」
「撃つわ!! 」
「撃つのかよ?!」
それでいて、どこか笑いのセンスがあるおかしい男の子。
───……ああ、思い出した。確か、この刑事さんとそっくりな容姿だった気がする。だからと言って、彼がその本人だとは思わないけれど。
「あ、あそこにUFO‼︎‼︎」
「いやここ学校だわ!?」
ああ、こいつとの漫才にも疲れてきた。そろそろスピードを上げて追い詰めよう。それでいて、飼育小屋にぶち込むだけ。
じゃないと、子供達にも帰ってもらえない。すぐ悪いことも企むし。
「──────ぁ」
「?!」
誰かの声が、ふと聞こえた。どこかから細い、生気のないような声が後ろから。
まさか、他にも生徒が?それとも、全くの部外者?はたまた、あいつらのいつもの声か。
全くわからなかったけれど、誰であろうと飼育小屋にぶち込むだけである。それでいて、背後はとらせない。
「っ……?」
後ろを振り向けば、そこには長い長い、暗い廊下だけが続いていた。
誰もそこにいなくて、先ほどの声も聞こえなくなっていた。
「………あ、やべ」
不思議に思いながらも前を向けば、とっくのとうに刑事さんは逃げ切っていた。自分としたことが、こんなことになるとは。
あの勢いのまま学校からみんなを連れて出て行ってほしいが、どうも学生の頃のあいつと性格が似ているのだ。みんなと学校中を冒険するのだろう。
「……はあ」
深く長いため息をついて、息を整えながら歩き出した。学校中を徘徊する警備員のように。
「しっかし……あいつの名前なんだったっけな〜」
ふと、あの刑事の容姿と性格が全く似ている学生の頃の友達を思い出す。
途中まではアホらしかったあいつも、夢を持てばびっくりするほどのテストの点数の上がりように、みんなが驚いていた。
けど、本人はそれを自慢することなく、ただ懐にしまうような謙虚な奴だった。
「……テストで俺と点数変わんなかったな〜。夢って偉大」
あいつはいつも謙虚で、人の感情をよく読んだ。そして俺も読まれていた。
───家系によるそれで、いつも俺が苦しんでいたのは、あいつにもよくわかっていたはず。けれど、そんな苦しみを拭うような楽しい時間をくれたのもあいつだった。
「……あー、やべ、子供達帰すことに集中しないと」
ただ、あいつの夢は何だったか。 それだけが一向に思い出せない。
「あー?! 猿や猿!!」
ふと学校中に響き渡ったのは、鬱の声。その後ろにもゾムとコネシマがいて、トントンと呂成太はいなかったけれど共に行動していることは見てとれた。
うん、もう考えるのはやめだ。今は目の前のことに集中しなければ。
15
104
21
コメント
1件
#2読み終えたよ……。 もうずっと前に死んでたって衝撃の事実から始まるの、重くて苦しくて、でも目が離せなかった。 主人公が天乃絵斗を見て「昔いた気がする」って思い出すシーン、すごく切なかったな……本人なのに気づかないもどかしさが痛いよ。 「夢って偉大」って言葉に、全部詰まってる気がする。次も気になる……!