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第四話「恐怖の余韻」
🔪ツグミの覚醒
宮迫を殺した夜。ツグミは鏡を見つめていた。
「俺は、殺した。」
もう、間違いない。自分の手で、確かに命を奪った。
黒い髪は少し乱れ、肌にはうっすらと血の跡がこびりついている。血色が悪く、目の下にはくっきりと隈ができていた。その瞳には……かつてなかった光が宿っていた。
「……これが、俺の顔か。」
指先を喉にあてる。脈が跳ねていた。自分はまだ、生きている。
そして――
「”また”やりたくなる。」
ツグミは、ぞっとするほど落ち着いた声で呟いた。
その背後から、静かにスケアリーが近づく。
「うん、いいねぇ。殺した人間の顔って、こうじゃなきゃ。」
彼は、ツグミの肩にそっと手を置いた。
「ツグミくん、君は”最高の料理人”になれるよ。」
🔪スケアリーの実況「恐怖の後味」
スケアリーは椅子に腰かけ、紅茶を片手に語り始めた。
「さてさて、本日のメニューの”後味”を見ていこうか。」
「”殺人”というメインディッシュを終えた後の”口直し”……これが、実は料理において”最も大事な要素”なんだよ。」
彼は、恍惚とした笑みを浮かべる。
「さぁ、今夜の味を振り返ろう。」
彼は指を一本立てた。
「まずは、”恐怖の香り”……」
「殺される直前の宮迫くん、いい匂いだったねぇ。」
「顔色がどんどん青ざめて、額にじっとりと汗を滲ませる。震える指先。見開かれた目。」
スケアリーは目を閉じて、まるでワインの香りを確かめるように鼻を鳴らした。
「”死の直前”の人間はね、最高に熟成された”旨味”を持ってるんだよ。」
彼は次に、指を二本立てる。
「次に、”恐怖の食感”……」
「宮迫くんの喉を締めた瞬間、ツグミくんの手のひらに”生命”が伝わったよね。」
「まるで柔らかいフォアグラをナイフで切る瞬間みたいに……力が抜けていく感じ。」
スケアリーは、ツグミの手を取ると、まるで芸術品を見るように眺めた。
「うん、この手……いいねぇ。”恐怖を生む手”の形になってきてる。」
そして、指を三本にする。
「最後に、”恐怖の余韻”。」
彼は、ツグミの目をじっと覗き込む。
「今、君の中に”余韻”が残ってるよね。」
「”またやりたくなる”。それこそが、最高の”後味”さ。」
スケアリーは、ツグミの頭を撫でるように優しく微笑んだ。
「いいねぇ、ツグミくん。”一皿目”は、完璧だったよ。」
そして、彼は満足げに笑い、 高らかに宣言した。
「これがスケアリーイズムだ。」
ツグミは、その言葉を噛み締めるように、鏡の中の自分を見つめた。
もう、”戻れない”。
それでいい。
🔪次なる標的
スケアリーは、ユリウスの隣に座って紅茶を飲んでいた。
「ねえ、ユリウス。ツグミくん、”次の一皿”は何がいいと思う?」
ユリウスは眉をひそめた。
「……次の”被害者”のことか?」
スケアリーは、ティーカップをくるくると回しながら、楽しげに笑う。
「被害者? そんな言い方、やめようよ。」
「”新しい料理の材料”って言ってほしいなぁ。」
ユリウスは、無意識に拳を握った。
(……こいつはやはり、異常すぎる。)
だが、彼は観察者だ。この男の手法を、最後まで見届ける義務がある。
「……ツグミが狙う相手は?」
スケアリーは、ちらりとツグミを見た。
「ツグミくん、自分で決めてみようか?」
ツグミは少し考えてから、ポツリと言った。
「……”俺が自由に選んでいい”のか?」
「もちろん。”お前の味”を、さらに研ぎ澄ませるんだよ。」
ツグミは、ゆっくりと考えた。そして、ポツリと一言。
「……アイツを殺したい。」
スケアリーは舌なめずりをした。
「いいねぇ。その食材……”熟成”させたら、極上の味になりそうだ。」
次回 → 「次の食材」