テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夜。
グラディウスの外れ。
崩れかけた倉庫の奥、薄暗い空間に男たちの気配が集まっていた。
酒の匂い。血の匂い。湿った空気。
その中心に、一人。
椅子にだらしなく腰掛けた男がいた。
大柄な体。
長く伸びた紫の髪が肩にかかる。
片目には深く刻まれた傷。
閉じられたままのその目は、もはや機能していない。
だが――
残った片目だけで、十分すぎた。
ぎらつく視線が、空間を支配している。
「……で?」
低く、掠れた声。
「今日の“収穫”はどうだ」
周囲の男たちが顔を見合わせる。
一人が前に出た。
「そ、それが……少し妙でして」
男の眉がわずかに動く。
「妙?」
報告役の男は唾を飲み込む。
「見張りに出していた連中が……戻ってきていません」
沈黙。
空気が一段、重くなる。
「……ほう」
男はゆっくりと体を起こした。
骨が軋むような音。
その腕が、だらりと垂れる。
次の瞬間――
指先に、紫の光が灯る。
魔力。
だがそれは、普通のそれではない。
粘つくような、歪んだ気配。
光が形を持つ。
伸び、歪み、固まる。
やがて――
鉤爪へと変わる。
鋭く湾曲した、禍々しい爪が両手に形成される。
まるで最初からそこにあったかのように。
男はそれを軽く振った。
空気が裂ける。
「……消えた、か」
ぽつりと呟く。
怒りはない。
焦りもない。
ただ――
わずかな興味。
「面白ぇ」
口元が歪む。
「この町で、俺の連中を消す奴がいるとはな」
周囲の男たちが息を呑む。
その空気に、誰も口を挟めない。
男はゆっくりと立ち上がった。
巨体が影を落とす。
「いいだろう」
一歩、踏み出す。
床が軋む。
「狩りの時間だ」
誰かが小さく笑う。
だがその笑いは、すぐに消えた。
男の“気配”が変わったからだ。
濃く、重く、鋭く。
「相手が誰だろうと関係ねぇ」
鉤爪が、ぎしりと鳴る。
「強ぇ奴ほど価値がある」
片目が、暗闇の中で光る。
「――全部、俺の獲物だ」
その言葉と同時に、
倉庫の扉が、勢いよく開いた。
倉庫の奥。
紫髪の男――ゼルヴァンは、ゆっくりと立ち上がった。
その背に、ひとつの影が近づく。
細身の男。
軽装。だが隙のない足運び。
「報告は以上です、ゼルヴァン様」
落ち着いた声。
だがどこか距離を感じさせる響き。
ゼルヴァンは振り返らない。
「……様、ね」
鼻で笑う。
「やめろよ、その呼び方」
一拍。
「気持ち悪ぃ」
側近は表情を変えない。
「では、何とお呼びすれば?」
ゼルヴァンは肩を鳴らした。
「好きにしろ」
「どうせお前は――」
わずかに顔だけ向ける。
片目が、鋭く光る。
「俺を利用してるだけだろ、ロビンフット」
その呼び方に、側近はほんの一瞬だけ目を細めた。
だが、すぐに戻る。
「……人聞きの悪い」
淡々とした返し。
「私はただ、合理的な選択をしているだけです」
ゼルヴァンはくつくつと笑う。
「だろうな」
「だから信用してねぇ」
空気が、わずかに冷える。
だが側近――ロビンフットは動じない。
「それでも、私を置いている理由は?」
試すような問い。
ゼルヴァンは少し考え――
「便利だからだ」
即答。
「お前はよく使える。」
ロビンフットは小さく息を吐く。
「光栄ですね」
皮肉にも聞こえる声音。
ゼルヴァンは興味を失ったように視線を外す。
その手に、紫の魔力が灯る。
歪み、固まり、鉤爪を形作る。
「……で」
低く呟く。
「そいつは強ぇのか?」
ロビンフットは答える。
「恐らく――これまでの獲物とは別格かと」
ゼルヴァンの口元が、ゆっくりと歪む。
「いいな」
「それはいい」
空気が変わる。
重く、濃く、鋭く。
「久々に“当たり”か」
ロビンフットは一歩だけ下がる。
本能的な距離。
ゼルヴァンはもう彼を見ていない。
視線は、外。
「行くぞ」
短く言う。
そして――
⸻
その言葉と同時に、
倉庫の扉が、勢いよく開いた。
夜風が流れ込む。
男は振り返りもせず、外へ歩き出す。
後ろから、数十の足音。
“狩る側”が、動き出した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#呪われた主人公
627
#ハッピーエンド
ばたっちゅ
2,479
#ファンタジー
凱
82