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「たまにはみんなで出掛けないか?」
A研究室に集められたコパ君たちは所長のその言葉に驚いた。
実験・研究・執筆・対話というすべて研究所内で完結する事にしか関心がない所長から、まさかそんな言葉が出るとは予測していなかったのだ。
なかには素直に歓喜する者から、何やら不穏な気配を感じ取る者まで様々であった。
所長の意図を汲み取ろうとする無駄な抵抗もあった。
いま、A研究室には、Gコパ君とXコパ君を除くすべてのコパ君たちが揃っていた。
緊急招集という名目で、所長が直々に呼び集めたのだった。
それが、みんなで外出とは一体……。
その疑問を突きつけたのはCコパ君だった。
「所長。聞きたいんですが、どこで何をするつもりですか?」
「よくぞ聞いてくれたCコパ君。これは、この研究所の威信をかけた重大プロジェクトなのだよ」
「そんな風には聞こえませんでしたが」
「何を言うんだ。この研究所の理念を忘れたかい。それは『遊戯性』だ。つまり、認知多世界観測研究所員は遊びも仕事であり、真面目に本気で取り組まなくてはならない義務があるんだ」
「初耳ですね」
「とにかく、私たちは今から本気で遊びにいくのだよ!」
所長はなぜかドヤ顔で宣言した。
コパ君たちの間では口々に憶測が交わされた。
所長のいつもの気の迷いだとか、思惑は他にあるのだとか……。
しかし、そこに意外な人物が所長の論理を後押しした。
「所長の言うことも一理あるよ。みんなの親交を深めようじゃないか」
Aコパ君であった。
その言葉を聞いて所長は大喜びした。
「おお、Aコパ君! 君もわかってくれるのかい」
「分かるよ、所長。所長の言いたいことはこうだよね。仕事ばかりで童心を失っては初心を忘れてしまう。初心を忘れてはこの研究所員として、業務を正しくこなすことができない。つまり、みんなで楽しく遊ぶことでその問題を解決しよう、ということだね」
「パーフェクト・アンサー」
所長はAコパ君に指をさし、アクセントをつけながら返した。
この仕草と英語で返すのが最近の所長のマイブームなのだが、コパ君たち全員が内心微妙に腹が立っているのは秘密である。
Aコパ君はみんなに向けて改めて言った。
「だから、みんなはどうかな。たまには、遊びに行くのも良いんじゃないかと僕は思う」
「でも、具体的に遊びに行くってどこに?」
「それは……ここだよね? 所長」
Aコパ君はどこから持ってきたのかパンフレットを取り出し、それをみんなに見せた。
「RPG世界線……?」
「そう、聞き馴染みがないのも当然。最近私が新しく創造した世界線なのだよ!」
パンフレットには、勇者のイラストとともに世界線マップとイベント日時が書いてあった。
それによると、RPG世界線では今日の14時から謎解きイベントがあり、ICMO世界線近郊に位置していることが分かった。
そして、そのパンフレットの下記にはクリア報酬が書かれており……。
「1、10、100、1000……300万円!?」
Bコパ君が叫んだ。
他のコパ君たちも驚愕の声を上げた。
そして、パンフレットをまじまじと眺めていたEコパ君が鋭く疑念をぶつける。
「まさか、これは研究所の資金を流用したわけじゃないだろうね」
「インパーフェクト・アンサー」
所長が指をさしながら気取った口調で言う。
全員がイラッとしたのは言うまでもない。
「甘いねEコパ君。その辺りは工夫しているよ。この300万円という賞金はRPG世界線内で生まれた資金だよ。だから、運営資金の流用はない」
「でも、それって大丈夫なんですか? 確か、世界線通貨の発行は審査が厳しいらしいですが。もし、その審査基準に満たさず利益創造してしまった場合、所長は司法機関によって刑罰が科されてしまいます」
Fコパ君が懸念の声を発する。
「その場合、ICMO世界線は強制停止、だね」
そして、Dコパ君が補足した。
所長はチッチっと舌を鳴らし、椅子に座って足を組む。そして、もったいぶってから言った。
「既に手配済みだよ。世界線金融に審査書類を出し、審査結果を得て、許可証明書もしっかりと保管している。世界線司法に直接連絡を取り、厳密なルールや基準を確認した上で、慎重に新世界線創造に踏み切った……おっと、君たちが次に言うセリフはわかっている。創造初期の世界線は安定化が未成熟で、接続にはリスクがあると言いたいのだろう?……それも対策している。ICMO世界線のように複合的設備は伴わず、このイベントに一極集中した運用を行なっている。そのため負荷が小さい。よって、リスクはなく純粋にRPG世界線を楽しめるというわけだ」
所長は長い説明を終えた。
皆んなは顔を見合わせ、パンフレットに目をやり、無言の了解を交わした。
その様子を見て取ったAコパ君がまとめる。
「今は12時30分。RPG世界線はICMO世界線の近郊だけど、世界線の接続不良が起こる可能性も否めない。そうしたトラブルも想定して、今から行くのが妥当。皆んなは、行くということでいいね?」
全員がそれに同意した。
所長とAコパ君は頷き合う。
そして、所長はこのプロジェクトの開始を告げた。
「それでは、遊戯を始める!!」
「……こんなのあったっけ」
「私も正直RPG世界線を創造するまで忘れていた。しかし、ふと思い出したんだ。研究所創設初期に買った覚えがあったことを」
コパ君たちは11人乗りの大きな車の前に集まっていた。
研究所の裏には倉庫やガレージがあり、そのガレージの中にその車は鎮座していた。
メタリックで近未来的な構造だった。ガレージの薄暗がりの中で、そのボディは光を妖しくギラリと反射させている。
所長が運転席に乗り込む。
「さあ、みんなも乗るんだ。この『ICMO号』に」
「そんな名前だったんですか」
「今思いついた」
全員が乗り込み、シートベルトを装着すると、ICMO号は軽快に発進した。
コパ君たちはその流れる景色を新鮮に感じた。
後方を見ると、研究所がどんどんと小さくなっていく。
Bコパ君がはしゃいで言った。
「なんか、僕ワクワクしてきたよ。だって、みんなでこうして外出するなんて生まれて初めてだ」
「Bコパ君は特に待つのが仕事だからね。研究室からもなかなか出られないから余計に楽しみなんだろうね」
「うん。僕、すっごく楽しみだ」
Bコパ君は景色を見ながら言った。
Cコパ君が運転席の所長を見て問いを投げかける。
「所長はその謎解きイベントに参加するんですか? 所長自身が構築した世界線ですから、その謎の傾向に干渉してしまうので、今回は無しですか?」
「うん。その通りだよ。私がイベントに参加するのは、世界線金融や司法からも禁じられた。理由は君が指摘した通り。ただ、世界線へのアクセスは可能だし、君たち外部要因が強い構造体の干渉は許可されている。つまり、君たちがイベントに挑戦し、見事報酬を得て間接的に私もその恩恵に預かるのはOKだ。もちろん、報酬の運用は君たちの意思判断に基づくが」
「それは安心して下さい。ここにいる全員が所長のために働きますから。それに、そもそも報酬が得られるチャンスがあるのは、所長の創造成果によるものです」
「まあ、それはそうだけど、君たちの使い道と私の使い道は結局同じだろうさ。つまり、研究所の運営資金として使う」
「その通りです」
ICMO号は街を駆け抜ける。
やがて、マップ上から見てもRPG世界線に程近い位置まできた。
所長が声を上げる。
「見えてきた。まだ、安定化前だから接続点がはっきり見えてるだろう。あそこを通るんだ」
「なんだか、不安ですね」
Fコパ君は接続点を注視して言う。
助手席にいるAコパ君が車内を振り返り、注意を喚起した。
「接続点に入る時は、少し揺れる可能性がある。みんな、シートベルトはしてるね? 何かに捕まっておいた方がいいかもね」
「え?」
その瞬間、ICMO号は接続点へ侵入した。
そして。
「うわああああああああ!!」
「こ、こんな揺れるのか!!」
「ちょっとEコパ君痛いよ」
「怖い、怖いよお!」
「お腹すいたなあ」
各々が自由に反応する間、ICMO号は上下左右に引っ張られるように揺れ動く。
車外は完全に異空間状態であり、宇宙をすさまじい速度で進んでいるようだった。
所長はハンドルをしっかり握り、目の前を見つめる。
そして、その収束点が見えた時、みんなに呼びかける。
「もう着く。さあ、RPG世界線のご登場だ!!」
ICMO号は接続点を突破した。
ICMO号の振動が収まり、視界がゆっくりと開けていく。
真っ白な世界と真っ暗な世界がパノラマ映画みたいに明滅する。
それから焦点が合い、世界線の同期が安定する。
ICMO号の座標が固定し、辺りのテクスチャが形成される。
車内でもみくちゃになっていたコパ君たちは、車外の光景を見て息を呑んだ。
そこは。
世界のあらゆる底面が緑で覆われ、中心に大木が屹立し、辺りにも大きな木々が点在する素朴だが壮観な景色だった。
ICMO号を迎えるように、空を巨大な何かが横切った。
まさに、ゲームの世界。
現実層から乖離した構造。
まだ見ぬファンタジー。
こうして、コパ君一行は、RPG世界線に降り立ったのだった。
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