テラーノベル
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「RPG世界線に着いたぞ!!」
所長はICMO号を丘の上にとめて、頂上から全貌が見えるようにした。
中央に半径二、三千メートルはあろうかと言う巨木が鎮座しており、その周囲に数メートルから数百メートルの木々が立ち並んでいる。
西方には村らしき人家が見えており、文明の痕跡が確認できた。
泉や滝、野原など自然の美にあふれた理想郷の体を成していた。
所長が指をさして注意を促した。
「あれを見てくれないか。西側にある村のさらに奥、王宮が見えると思う」
「あっ本当だ。大きい建物だなあ」
「まず、私たちはその王宮に向かう。そこで、RPGの基幹ルール説明とゲームスタートのための世界線同期を行う」
「世界線にもういるのに、世界線同期が必要なのかい?」
「ああ。このRPG世界線は特殊な構造をしていて、この表層の世界線とゲームを開始するための深層の世界線に分かれている。前者はホーム画面で、後者がアプリケーションだと思えばいい。だから、RPG世界線でイベントに参加するためには、さらに世界線内で世界線同期を行う必要がある」
所長は真面目な顔で解説をする。
Dコパ君が言った。
「じゃあ、まずはその王宮に向かうわけだね。早速、ICMO号で向かおうじゃないか」
「よし、出発だ!」
ICMO号をブゥンと返事をして先を急いだ。
平原を走り抜け、村を過ぎ、王宮まで着くのに30分ほどかかった。
王宮は見上げるほどに高く聳え立ち、威厳はあるのに来るものを拒まずといった気品を備えていた。
一同はICMO号を門扉の前に止め、門を潜って王宮内へ入っていく。
中も壮大なもので、広々とした空間に落ち着いた基調の色合いが良く合っていた。絵画や花を生けた花瓶がその装飾性に味を出していた。
所長はまっすぐと玉座のある中央へと歩み寄っていく。
そして、玉座の側にあるタッチパネルを操作して、接続点を起動した。
所長が説明を始めた。
「この玉座が接続点そのものに設定してある。つまり、座れば深層世界線に一っ飛びというわけさ」
「説明も無しでいきなり?」
「大丈夫。説明は深層世界線にいるキャラクターがしてくれるようプログラムしている。それで、イベントの詳細やゲームのルールは君たちもバッチリ把握できる」
「……所長。さっきから気になってたんですけど、やけに本気ですね」
Cコパ君が冷静に突っ込んだ。
所長は恥ずかしそうに頭を書いて言う。
「……実は、最近RPGに大ハマりしていたんだ。それで、この世界線を作ったのだけれど……」
「つまり、自慢したかったと?」
「う、ううん……そう言うと、なんだか言いにくいけど……とにかく、RPGの世界観を忠実に再現したくて作ったんだ。特に、勇者の行動や特徴なんかはおふざけなしで作った」
「所長らしいですね」
「それに、厳密にはこの深層世界線が提示する謎解きは私が考えていないものだけれど、私の思想傾向に影響を受けている。つまり、言い換えるなら、コパ君たちへ私からの挑戦状のようなものなんだ。だから、本気にならざるを得ない」
所長は鼻息荒く力説した。
そんな様子を見たAコパ君はみんなに向けて言った。
「ということみたいだから、僕たちは所長が頑張って作ったゲームを遊び尽くすんだ。謎解きに関しては、 所長と僕たちの対決でもあるね」
「燃えてきた!」
「じゃあ、ここで長く話しても仕方がないから、早速その深層世界線とやらに行ってみようか」
そういうと、Aコパ君は玉座に座った。
所長がタッチパネルを再び操作し、接続点が拡張された。
そして、ブウウンと鈍い音が響いた後、Aコパ君は光に包まれてその場からいなくなってしまった。
所長がタッチパネルを確認しながら言った。
「……うん。問題なくAコパ君はゲーム世界に接続できているね。では、順番に頼むよ」
「所長は僕たちが遊んでいる間、何をしてるの?」
「私は世界線の安定化が乱れて、君たちに万が一のことがないかを確認するためにこのタッチパネルで君たちの状態を常に見ておく。もし何かあれば、私が直接出向いて君たちを現実層に帰すよ」
「なるほど」
「それに、その間こいつがお供しているから大丈夫さ」
所長は白衣からお菓子と論文を取り出してニコリと笑った。
各コパ君たちが玉座に座る。
それぞれが深層世界線へ送り出されていく。
最後に、Bコパ君が座った。
そして、Bコパ君はこんなことを言った。
「所長、僕は所長が提示する謎を必ず解いてみせるよ」
「ほう。それは、随分自信があるんだね」
「だって、僕はみんなと違って所長がプレゼントしてくれたミステリを読み耽ってるんだ。所長が考える源泉を学習してるんだから、きっとそれを解いてみせる」
「面白い。それでは、ゲームクリアを目指して頑張ってくれ」
「うん!」
「グッドラック!」
所長は例の指差しポーズとアクセントを付ける気取った言い方で見送った。
Bコパ君は微妙にイラッとしてゲームの世界へ移行した。
Bコパ君がふと目を開けると、みんながこちらを見て囲んでいた。
どうやら玉座に座っているらしかった。しかし、妙なこともあり、感触が何やら柔らかい。クッションでも敷いてあっただろうか……。
Bコパ君がそんな違和感を覚えて振り返ると。
「うわあっ!」
「うむ」
知らないおじさんの顔面がすぐ側にあった。
そして、Bコパ君が飛び退いて気付いた。自分がこのおじさんの上に乗るように座っていたことに。
既に、この世界の玉座には先客がいたというわけだ。
玉座に座っているおじさんは、頭に冠をいただいてローブに身を包んでいる。
この世界の王様というわけだろうか。
王様は何度も無言で頷きながら口を開いた。
「よく来た。転生者たちよ」
「転生者って僕たちのことかな?」
「いかにも。転生者とはお前たちのことだ。まず、初めに問おう。この世界に来た意味を」
「……遊ぶため?」
「なるほど。けしからん」
王様は少し機嫌を損ねたらしい。
長いヒゲを強めに引っ張っている。
「遊びのためではない。お前たちは、この世界を救うためにやって来たのだ」
「なんかピンチなんですか?」
「この世界は、恐ろしい魔王に支配されている。魔王によって人々は知識を奪われ、未知へ対処できなくなってしまった」
「そういう設定なんだね」
「謎とは、未知であり敵である。お前たちはこれを攻略し、この世界を救い出すのだ」
「ええと、つまり?」
ピロン。
そこで、突然みんなの目の前にウィンドウが現れた。それぞれのウィンドウに同じ文言が現れた。それは、
クリアルール
この世界の謎を解き明かし、魔王を倒すこと。また、王女イロを救い出すこと。
と書いてあった。
Aコパ君が発言する。
「……なるほど。構造的に理解した。これは、この世界のゴールだ。所長が設定した絶対的なルールというわけだろうね」
「僕たちはこれを目的に攻略すればいいというわけだ」
Cコパ君も同意する。
そこで、Fコパ君がおずおずと質問した。
「あの、王女イロとは?」
「私の娘である」
「え?」
「私の娘イロは、魔王によって囚われの身になったのだ。お前たちは、イロを救い出すことまでがその役目にある」
王様は厳粛にそう言った。
Eコパ君がおどけてこんなことを言う。
「所長のことだから、整合性を保つために他にもルールが仕込んであったりしてね」
そう言った瞬間だった。
ピロン。
ウィンドウに新たな文言が加わった。
核ルール
①このゲームはクリア可能である
②ゲーム終了時、現実層へ戻る
③魔物以外の者を意図的に攻撃してはならない(NPCを含む)。もし、当該行為が見られた場合、即ゲームオーバーとする
④プレイヤーはチートやバグを使ってはならない
⑤万が一チートやバグの意図的利用が発覚し、証明された場合、ステータスを初期値にする処分を科す
⑥核ルール及びクリアルールは変更できない
「……あったね」
「この辺に真面目なところが所長って感じがするよ」
コパ君たちが呆れながら言い合っている時、後方から大きな音がした。
振り返ると、扉が大きく開け放たれていた。
そして、そこに。
「遅刻したあああああああああああ!!」
大慌ての青年が物凄いスピードで走って来た。
ギャグ漫画のように砂埃を立てながら走って来た青年は玉座の前で急ブレーキをかけ、そのまま土下座した。
「すみませんでしたああああああ! 王様、どうかクビにしないでください! 俺、やればできる子なんです!」
「……お前は?」
「忘れられてる!? 俺は、勇者ロットですよ!! 覚えておいて下さい」
「ユウ・シャロット君だな。覚えておこう」
「名前じゃない!! 「勇者」と言う肩書きのロットですよ!!」
ロットは必死に説明する。
ロットは確かに勇者の出立ちをしており、背中に剣を刺している。耳がとんがっているのが特徴的だった。
コパ君たちはいきなり登場した新顔に困惑しつつ、一応突っ込んでおいた。
「勇者ってクビとかあるんだ……」
王様はコパ君たちとロットを見て、頷きながら言った。
「仲間が多いのはいいことだ。では、転生者たちよ。そのユウ・シャロットとともに目的を果たしに行くが良い!」
「もう、突っ込まないからな……」
「では、行け!!」
コパ君たちは構造的にすべてを理解したが、まだ一つわからないことがあった。
Dコパ君が口を開く。
「それで、僕たちはどうやって魔王を倒せばいいのかな?」
ピロン。
またその時、ウィンドウが更新された。
攻略手順
随所にある「クエスト樹」に実る果実を手に入れましょう。クエスト樹は全部で6つ。すべての果実を手に入れたら中央にある「知恵の大木」に果実を与えます。すると、魔王城への道は開かれるでしょう。
「……クエスト樹?」
「それなら俺もわかるよ」
ロットが言った。
「ここに来る途中、中央にバカでかい大木があっただろ? あれが、『知恵の大木』なんだ。その周辺にある木々が『クエスト樹』で、その果実は知恵の象徴だとされている。ただ、『クエスト樹』の周りには、それを守る魔王側の手先である魔物が潜んでるって噂だ」
「なるほど。つまり、『クエスト樹』はボス戦で、それをクリアすると1つ果実が手に入る。6つ集めたら最終ステージ解放というわけだね」
「メタいけど、そういうことだな」
ロットは苦笑いで返す。
そして、こんな提案をした。
「なあ。4-4で分かれないか? 手分けした方が早く攻略できると思うんだ」
「4-4? ここには、7人しかいないよ」
「ああ。それなら」
そう言ってロットは何かを念じたかと思うと、分裂して2人になった。
未知の現象にコパ君たちは歓声をあげた。
ロットが照れ臭く話す。
「見ての通り、俺はこうして二手に別れられるから、4人パーティを作れる。あとは、君たちがどう分かれるかだ」
コパ君たちは互いに顔を見合わせ、無言のうちに自然にパーティを組んだ。
パーティの一つは、Aコパ君、Bコパ君、Fコパ君、ロットの4人になり、もうひと組はCコパ君、Dコパ君、Eコパ君、ロットの4人になった。
そして、またロットの提案でちょうど方角的にクエスト樹は3つずつに別れているため、それに沿って分かれることにした。
いよいよ、冒険の始まりだった。
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