翌朝、瑠璃子は大輔が迎えに来る前にメッセージを送った。
【風邪の具合はいかがですか? 今日から私はバスで行くのでもう迎えに来なくても大丈夫です。今までお世話になりありがとうございました】
瑠璃子は大輔に負担をかけたくないと思いこれからはバスで行く事に決めた。大輔の分の弁当は引き続き作るつもりでいたが病院で渡せばいいと思っていた。
瑠璃子がメッセージを送った後、大輔からの返事はなかった。返事がないのは珍しい。
(もしかして風邪がぶり返したとか?)
瑠璃子は少し心配しながら部屋を出た。
マンションを出ると目の前に大輔の車が停まっていたので瑠璃子はびっくりする。
「先生、体調はもう大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「良かったー。お返事がないから寝込んでいるのかと心配しちゃいました」
そこで大輔が真面目な顔をして言った。
「メッセージの件だけど変な気は遣わなくていいから、ここは通り道なんだし」
大輔は少し怒っているような雰囲気だ。そこで瑠璃子が拗ねたように言った。
「だって先生が寝込むなんてよっぽどの事ですよ? 心配するなという方が無理です」
「もう大丈夫だから、心配してくれてありがとう。さあ乗って、行くよ」
瑠璃子は仕方なく助手席に座る。
そこで大輔は運転しながら言った。
「そんなに心配してくれるなら、うーん、そうだなぁ……たまに手作りの夕飯でもご馳走になろうかなぁ?」
その言葉に瑠璃子はキョトンとする。そしてすぐに聞き返した。
「えっ? そんな事でいんですか?」
「うん。昨日の鶏肉の煮物美味かったよ。ああいう家庭料理みたいなやつがいいなぁ」
「承知しましたっ! お安い御用ですっ!」
瑠璃子はみるみる笑顔になる。
そこで二人はこんな風に決めた。
大輔が早く帰れそうな日があれば早めに瑠璃子にメッセージを送る。そして瑠璃子の都合が良ければ夕食の準備をしてもらい大輔が家に帰る途中に寄って食べると。
瑠璃子はなるべく栄養バランスの良い食事を用意しようと思った。
これから年末にかけてますます忙しくなる大輔の体調管理をしっかりしよう……そう思った。
そしていよいよクリスマスイブの前日になった。
この日瑠璃子は仕事を終えてバスに乗っていた。明日の予定についてはまだ何も連絡がない。
大輔は連日手術が入っていて最近は食堂で会う機会も減っていた。
年末なので無理もないが、この様子だとクリスマスデートはドタキャンになる可能性だってある。
それはそれで仕方がない事だが、瑠璃子は中沢との交際の時によくドタキャンをされたのでついネガティブな思考になる。
バスを降りた瑠璃子はなんとなく暗い気分のまま歩き始めた。
その時ポケットの中で携帯がブルブルと震えた。瑠璃子が慌てて携帯を取り出すと大輔からメッセージが届いていた。
【連絡が遅くなってごめん。明日は午後2時に迎えに行くよ。夜は凄く寒いからダウンと手袋とマフラーも忘れずにね】
メッセージを読んだ瑠璃子の瞳は涙で潤んでいた。
大輔はドタキャンなどする人ではなかった。大輔はきちんと約束を守ってくれたのだ。
瑠璃子はその場で立ち止まると指でそっと涙を拭う。そして返信を入力した。
【明日楽しみにしています】
送信ボタンを押した瑠璃子は、途端に元気な足取りでマンションへ向かった。
いよいよクリスマスイブ当日になった。瑠璃子はウキウキしていた。
瑠璃子は憧れのホワイトクリスマスを体験出来るとあり楽しみで仕方がない。
今日瑠璃子は先日札幌で買ったニットワンピースを着る予定だ。
色はグレーで衿はVネック、スカート部分はプリーツタイプでウエストの切り替えにはリボンがある素敵なデザインだ。
ニット素材なので暖かいし、厚手のタイツとブーツを合わせてダウンを着込めば防寒対策もバッチリだ。
瑠璃子はワンピースに着替えると早速準備に取り掛かる。
仕事中はいつも後ろで一つにまとめている髪を今日は肩へ下ろした。メイクはナチュラルメイクをいつもよりも丁寧に施す。
仕上げにお気に入りの練り香水を首元と手首につけた。
大輔へのプレゼントもバッグに入れる。これで準備OKだ。
そろそろ大輔が迎えに来る時間なので瑠璃子はダウンを着て首元にストールを巻き部屋を出た。
外に出るとやんでいたはずの雪が再び降り始めている。
(正真正銘本物のホワイトクリスマスだわ!)
瑠璃子は笑顔で空を仰ぎ見る。すると空からはふわふわと小さな雪が舞い下りて来る。
思わず瑠璃子は雪を掬おうと手のひらを持ち上げた。
すると手のひらに舞い降りた瑠璃子の体温であっという間に溶けてしまう。瑠璃子は微笑んでそれを見つめていた。
その時大輔は瑠璃子のマンションへ向かっていた。
角を曲がり前方を見ると瑠璃子が立っていた。瑠璃子は楽しそうに手のひらで雪を掬おうとしている。
その無邪気な姿はまるで天使のようだ。
大輔は一瞬時が止まったかのように思えた。
そして嬉しそうに微笑む瑠璃子に目が釘付けになり一瞬にして心を奪われる。
その時瑠璃子が大輔の車に気付いて手を振った。瑠璃子と視線が絡み合った瞬間大輔の胸がズキンと疼く。
大輔はこの時自分の中からなんともいえない優しい気持ちが溢れてくるのを感じていた。
この優しさを余す事なく全て瑠璃子に捧げたい……そう思っている自分に気付いた。
初めて感じる感情に戸惑いつつ、大輔は瑠璃子の前に車を停めた。
コメント
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ホワイトクリスマス⛄️🎄❄️ お互いの想いを伝え合える 素敵な一日になりますように💝✨
早く先が読みたい
大輔さん 告白💌😌💕いたしましょう︎💕( ´艸`) もう、遠くから見てるだけじゃなくて、抱きしめましょう(*´︶`*)ノ︎💕