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その間に多くの祝電が読まれていた。
ふと親族の席を見ると亜季ちゃんに話しかけている女性の姿があった。
正しく言うと女性の格好をした不審者が亜季ちゃんに話しかけていた。
千葉だった…。
千葉は高校卒業後に女装にハマってしまった事がキッカケで、数年後にはおかまバーで働き出した。
葵が卒業式の日に教えてくれた通りになった。
また、千葉はおかまバーで働く傍らモデルの仕事もしていたようだ。
20代の千葉に会った事があるが、本当に見た目はどこにでもいるような若い女性そのものだった。
それに、悔しいが“ドキッ”とするくらい可愛くてキレイだった。
そして、40歳になった今も肌はツヤツヤしているし、シワやシミは1つもなく若々しかった。
20代の頃の可愛らしさに色っぽさが加わり、より魅力的な女性というか…おかまになっていた。
そんな千葉に話しかけられている亜季ちゃんは、ちょっと迷惑そうな顔をしていた。
僕は空気の読めない千葉を連れ戻そうと席を立った。
「紺野っ!」
すると後ろから誰かに声をかけられた。
「松下…先生…‥」
振り向くと、僕を睨みつけながら肩で風を切って歩いて来る松下の姿があった。
あれから20年も経ち、だいぶ歳をとっていた。
白髪も目立ち、顔にはシワが増えてはいたが、相変わらず威圧感が半端じゃなかった。
「今日は、娘さんの結婚式に招待してくれてありがとう。それに、おめでとう」
「先生、お忙しい中お越し頂いて本当にありがとうございます」
「かたっ苦しい挨拶はその辺でいい。それより、佐藤はいつ現れるんだ?」
「たぶん…そろそろだと思います。もうしばらくお待ち下さい。先生の大好きなお酒も沢山用意してありますので、それまで飲んで楽しんでいて下さい」
「酒は止めたんだ…」
「どうしてですか? あんなに大好きだったじゃないですか? もしかして、何処か悪いんですか?」
「体はこの通りピンピンしている。私が酒を止めたのは、大事な生徒を2人も失ったからだ」
「それって…‥」
間違いなく、葵と仲村さんの事だろう。
「でも…どうやら今日からは飲んでもいいようだ」
松下は天井を見上げて微笑んでいた。
「どういう意味ですか?」
「お前は今まで何を見てきたんだ?」
「“何を見てきた”って言われても…」
松下が何を言いたいのか、さっぱりわからなかった。
「まぁ、いい。そのうちわかる時が来るかもしれないしな…」