テラーノベル
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「…………誰かが私を呼んでる。この声は……響野先生……だよね? でも、先生の声……だんだん遠ざかってる……」
暗闇の深淵まで堕ちた瑠衣は、寂しさと恐怖で辺りを見回す。
これは夢なのか、あるいは幻を見ているのか、瑠衣本人もよく分かっていない。
「こんな真っ暗な所で一人でいるなんて、すごく嫌なんだけど……」
先ほどまで微かに聞こえていた愛する男の声は、いつしか聞こえなくなっている。
ここにいても仕方がないと感じた瑠衣は、今いる場所から離れる事にした。
何一つ音もなく光すら差し込まない漆黒の世界を、瑠衣はひたすら歩き続ける。
歩けども歩けども、周りは一面真っ黒に塗り潰された空間。
方向感覚も失い、どれくらいの時間を歩いたのか、時の感覚をも奪われた彼女は、それすら分からない。
「もう……何も見えない所を歩き回るの…………疲れちゃったよ……」
瑠衣はその場にヘナヘナと座り込み、再び首を横に振り周辺を見回すと、仄かに光っている一点を見つけ出した。
「あ! あの光は出口かな……」
やっとの思いで立ち上がり、鉛のように重くなった足を引き摺りながら光のある場所へ急いだ。
「うわぁ…………すっっっごく綺麗……!!」
光の先に見えたものは、パステルブルーと鮮やかな青で一面に包まれた絶景。
抜けるような青空には刷毛で描かれたような白い雲が浮かび、眼下にはマリンブルーの海が広がっている。
瑠衣が立っている小高い丘と連なっている大地は、全体にネモフィラの花で覆い尽くされて風にそよぎ、濃淡の青が織りなす美しい世界に、彼女は息を呑んだ。
「ここって、以前テレビで見た海浜公園に似てるけど……違うのかな? 海浜公園は行きたいって思ってた場所だし、密かに嬉しいかも」
海から運ばれてくる潮風の香りが瑠衣の鼻腔を優しく撫で、彼女は吸い込まれるように歩みを進めた。
なだらかな淡いブルーの丘を転ばないように気を付けつつ、ゆっくりと下っていくと、小さな川が見えてきた。
川の向こう岸に女性と思われる人がしゃがみ込み、じっと小川を見つめているのが見て取れる。
(あの女性に、ここがどこなのか聞いてみようかな……)
瑠衣は勇気を出して女性の元へ近付き、川面を眺め続けているその人に声を掛けた。
「すみません。私……道に迷ってしまって…………ここはどこですか?」
ダークネイビーのパンツスーツに身を包み、長い黒髪の毛先を緩くカールさせている日本人離れした面立ちの女性がゆっくりと立ち上がる。
瑠衣に顔を向けると女性は大きく目を見張り、両手で口元を押さえて絶句した。
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