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クラスでの「加害者認定」は、静かに、しかし確実に制度のように定着していった。
誰かが廊下ですれ違いざまに肘をぶつけてくる。誰かが机に墨汁を垂らす。誰かが窓を開け放って、遥の席にだけ風が当たるようにする。誰かがプリントを渡さず、誰かがノートを破る。
誰かが言った。「あいつ、アイツとつるんでから変わったよな」
――アイツ、とは日下部のこと。
黒板には「傍観者と共犯者の違い」の標語が貼られていた。誰かの手で赤ペンが加えられている。「共犯者と共犯者の違い」。
遥は自分の制服の袖口を見つめながら、あの日のことを思い出していた。黙っていることしかできなかった自分。日下部に庇われたあの瞬間。庇われたことで、自分がまた「誰かを巻き込んだ」事実。
逃げ出したいと思う。
けれど逃げられない。
日下部だけは、まだ傍にいる。
だからこそ、苦しい。
ある日の放課後、ロッカーを開けると、そこには汚れた犬のぬいぐるみが押し込まれていた。喉元には赤インクで「せいぜい吠えてろ」と書かれていた。
日下部にも、それと似た「贈り物」が届いていたらしい。だが彼は何も言わない。ただ、遥の方を見た。黙って、確かめるように。
遥は、もう笑えなかった。
自分が誰かを不幸にしている。
誰かの標的になってしまったことで、日下部さえも――。
机の中にあった手紙には、こう書かれていた。
「次はあんたの番だって、先生が言ってたよ。
誰も止めないから、安心して潰れていいよ。」
周囲は何も見ていないふりをする。教師たちは「お前たちの責任」とでも言いたげに、曖昧な視線を向けるだけだった。
遥の手は震えていた。
体も震えていた。
心の底で、絶え間なく何かが叫んでいた。
自分は、生きていてはいけないのだと。