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#怖い話
212
「おい、見たかよ。今夜、来るらしいぞ」
深夜のファミレス
客の全員がスマホをテーブルに置き、画面を凝視している。
俺もその一人だ。
巷では、数日前からある噂が駆け巡っていた。
『徳ポリス』の運営が、溜まりすぎた不徳を一気に清算する「特別なイベント」を開催するという。
午前二時
スマホが、これまでにないほど不気味な低音で振動した。
『通知:ボーナスステージ【大浄化祭】を開始します』
『期間内、特定エリアの「不徳者」を排除することで、獲得ポイントが10倍になります』
画面が真っ赤に染まり、地図上に巨大なサークルが表示された。
そこは、俺の住むアパートからほど近い、古い繁華街だ。
「10倍……だと?」
計算が頭を駆け巡る。
もし「重罪者」を一人仕留めれば、それだけで5万ポイント。
一生、働かずに「幸運」だけで生きていけるレベルだ。
俺は椅子を蹴って店を飛び出した。
外に出ると、そこには異様な光景が広がっていた。
パジャマ姿の主婦
スーツを乱したサラリーマン
血走った目の老人
誰もが、無言で、だが全力で同じ方向へ走っている。
「……いたぞ! あいつだ!」
誰かが叫んだ。
ターゲットは、コンビニの前で座り込んでいた、泥酔した若い男だ。
彼は、近づいてくる集団に気づき、千鳥足で立ち上がった。
「な、なんだよお前ら、酒飲んでるだけだろ……」
【ターゲット:不徳スコア -300 公然わいせつ未遂、アルコール依存、怠惰】
『ボーナス適用:浄化報酬 3,000ポイント』
「3,000……! いただきます!」
先頭を走っていた男が、全力で青年に体当たりをした。
青年が地面に転がる。そこへ、十数人の「善人」たちが一斉に群がった。
「排除! 排除! 排除!」
誰かが唱え始めると、それがコーラスのように広がっていく。
スマホのフラッシュが、まるで雷光のように何度も何度も男を照らし出す。
それは「撮影」ではない
「処刑」だ。
男が悲鳴を上げ、腕で顔を覆う。
だが、容赦はない。
「不徳を積むのが悪いんだよ!」
「俺たちの幸運の邪魔をするな!」
俺はその狂乱の輪に入ることができなかった。
いや、恐怖を感じたわけじゃない。
ただ、その男の背後、暗がりに立つ「別の影」に気づいたからだ。
影は、真っ黒なフルフェイスのヘルメットを被り
手には「徳」の文字が刻まれた特殊な警棒を持っていた。
『不徳執行官【ポリス】が出現しました。協力してターゲットを無力化してください』
執行官が、動かなくなった青年の首筋に警棒を押し当てる。
パチッ、という激しい放電音。
青年はビクンと跳ね、そのまま動かなくなった。
【浄化完了。不徳者の「存在」をシステムから削除しました】
「……削除?」
俺の喉が、引きつった音を立てた。
ポイントを奪うだけじゃない。
このアプリは、人間そのものを「バグ」として処理し始めたのか。
周囲の奴らは、画面に表示された「+3,000」の文字を見て、子供のように跳ねて喜んでいる。
足元に転がっている「元・人間」のことなど、一瞥もせずに。
「……次、次を探せ!まだ時間が残ってるぞ!」
集団が、また次の「悪」を求めて闇に消えていく。
俺は、手の中で熱を持ち始めたスマホを、初めて「化け物」のように感じた。
だが、画面にはこう表示されている。
【おめでとうございます!八神様。あなたの順位は現在、全国12位です】
「……あと、少し。あと少しで、俺は『神』になれる」
俺は震える足で、血のついた地面を跨ぎ、闇の奥へと足を踏み入れた。
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