テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
それから数日後。
夏休みが明け、怪異探求倶楽部の一同は部室に集まっていた。
信愛は焔垂の様子を見ながら、安堵したように微笑む。
「治ってよかったね」
「ああ!もうバッチリだ!」
焔垂は元気いっぱいに答えた。
「一時はどうなっちゃうの?って
不安だったけど、治ってよかったよ」
さくらもほっとしたように笑う。
「心配かけて悪かったなぁ」
すると、それまで話を聞いていた茜が、ふと思い出したように口を開いた。
「でもさ・・・TAMAYA、まだ炎上してるね」
「だね・・・」
信愛が複雑そうな表情で頷く。
そのとき、朝陽が驚愕したように言った。
「驚きましたよ。Zappツアーの最終日に
みんなの前で盗作を告白するなんて」
◇ ◇ ◇
Zappツアー最終日。
その日のことは、今も多くの人々の記憶に残っていた。
満員の観客を前に、摩耶は一人、ステージの中央に立っていた。
眩い照明が彼女を照らし、大勢の観客がその姿を見つめている。
摩耶はマイクを両手で握りしめると、静かに口を開いた。
「今日はきてくれてありがとう」
会場から歓声が上がる。
「みんなに支えられて私は今Zappツアーの
最終日にこのステージに立ててる」
そこで摩耶は一度言葉を止めた。
「でもね?」
その声色が変わったことに気づき、観客たちの歓声が次第に静まっていく。
「私はみんなに黙ってた事があるの」
摩耶は覚悟を決めるように顔を上げた。
「それを今からみんなに告白します・・・」
観客たちが、摩耶の次の言葉を待つ。
「『こころクリーニング』と『定義の無い言葉の刃物』
この2曲、みんな大好きって言ってくれて
いつも歌うたびに心から救われてきた」
摩耶の声がわずかに震える。
「でもこれ、私が作詞作曲したって
言ってきたけど・・・実は嘘なの」
その瞬間、会場が大きくざわめいた。
摩耶は逃げることなく、その騒めきを受け止める。
「この曲を書いたのは、佐敷千秋・・・」
摩耶は胸に手を当てながら続ける。
「かつて私のアシスタント兼マネージャーを
やってた子で、妹みたいに愛してた子・・・
私は・・・その子が書いた曲を奪った」
摩耶は言葉を詰まらせながらも、自分の罪を口にしていく。
「ごめん・・・私・・怖かったんだ」
「売れること、期待に応えることばっかり
考えて、千秋の気持ちを置き去りにした
結果、千秋は自殺した・・・」
会場に大きな動揺が走った。
摩耶は俯き、震える声を絞り出す。
「私は・・・最低な人間です」
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「歌を歌う資格も、このステージに
立つ資格もありません」
それでも、彼女の瞳には確かな決意が宿っていた。
「ですから・・・私は宣言します」
摩耶は真っ直ぐに観客を見つめる。
「TAMAYAという名前を捨てて
|Chiaki《ちあき》という新たなシンガーとして」
一度、大きく息を吸う。
「千秋の想いを、聲を、全世界に発信します」
それは、自らの罪を消すための言葉ではなかった。
失ってしまった大切な人の存在を背負い、その想いと共に歌い続ける。
摩耶が選んだ、新たな人生の始まりだった。
◇ ◇ ◇
しかし世間はそれを許さなかった。
TAMAYAことChiakiによる歌詞盗作の告白は、瞬く間にSNSで拡散された。
当然ながら、ネット上では非難の嵐が巻き起こっていた。
「かなり炎上してるみたいですね」
信愛が心配そうに呟くと、美月は腕を組みながら頷いた。
「まあね・・・」
「まあ事情を知らない奴からしたら
自分勝手に決着つけて都合が良すぎるだろ!
って思うだろうからな」
焔垂の言葉に、朝陽が静かに口を開く。
「でもこれは本人の意思なんですもんね」
「確か千秋さんからの手紙は
公開しないって言ってたんだよね?」
茜に尋ねられ、信愛は少し考え込むように頷いた。
「そうなんだよね・・・」
「カルネアデスバスの時みたいに
都合よくはいかないって事か」
さくらの言葉に、信愛は窓の外へ視線を向ける。
「この炎上が鎮火するのはかなり先だろうけど
TAMAYAさん、いや、Chiakiさんならきっと大丈夫」
その言葉には、不思議なほど確かな信頼が込められていた。
美月も小さく頷く。
事務所の社長も逮捕され、事務所は美沙が引き継ぐことになったらしい。
「でも美沙さんも大変だろうね」
「まあ、法律違反した事務所って事実は
再起する上で足枷になるだろうから
仕事取りにくいだろうしな」
焔垂の現実的な言葉に、信愛も頷いた。
「確かにね」
「しばらくは営業先への
謝罪回りに苦労するでしょうね」
美月がそう言うと、信愛は何かを思い出したように顔を上げた。
「確かなんとか野外ライブが
決まったって言ってましたよね?」
「ええ・・・昔から贔屓にしてくれてた
スーパーの屋上でやるらしいわ」
「スーパーか・・・」
さくらは少し複雑そうな表情を浮かべる。
「ちょっと前までは武道館も
夢じゃないって言ってたのにね」
「まあ、それは仕方ねーさ」
焔垂が肩をすくめる。
だが、信愛は穏やかに微笑んだ。
「まあ武道館はだいぶ先にはなるかもだけ
Chiakiさんなら大丈夫だよ」
その言葉を聞いた茜が、ぱっと明るい笑顔を浮かべる。
「なら今度みんなでその野外ライブ行ってあげようよ
そして誰よりもおっきな声で応援してあげよ」
信愛は嬉しそうに笑い、大きく頷いた。
「うん♬そうしよ♬」
その場にいた全員の表情が、自然と綻んだ。
すると美月が時計を確認し、席を立つ。
「さて、私は午後の授業の準備あるから
そろそろ行くわね」
扉へ向かいながら、美月は振り返った。
「あなた達も遅刻しないようにね?」
「はぁーい♬」
皆明るい返事が、部室いっぱいに響いた。
たとえ今は、小さなスーパーの屋上だったとしても。
いつか再び、大きなステージへ。
信愛は、そう信じていた。
File7−悲愛のアポロン−──END。
コメント
1件
210話、File7完結おめでとうございます。摩耶がステージで盗作を告白するシーン、震えました。あの場で「Chiaki」として再生を誓う覚悟の重みが、信愛たちの「大丈夫」という言葉に確かに託されていた。小さなスーパーの屋上から始まる再起に、どうか光が届きますように。丁寧に描かれた一つの区切り、素晴らしかったです。