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「おや、珠子さん、早速、姑と嫁の対立かい?」
すかさず、金原がちょっかいをだす。
「あらまあ、金原の社長ったら、冗談がキツいこと」
取って付けたような言葉を、亀松が言い、同時にチラリと高井子爵へ妖艶な流し目を送った。
たちまち、ご機嫌になった子爵は、金原を笑い飛ばし、母親へも朗らかな笑みを向けたが、当然、場は緊迫している。
珠子は、失態におろおろし、金原のからかいも耳に入っていない。
「金原さん!」
たまりかねた圭助が叫び、両家の人間は、渋い顔どころかを通りこした、引きつった面持ちで金原を凝視した。
「ああ、義父《おとう》さん、これは、失礼。珠子さんへの御祝いを渡していませんでしたね!」
「社長?義父《おとう》さん……と、いうことは……そちらの方は……、もしや、奥様……で……」
金原の言葉に、亀松が食いつく。続けて、固まりきっている櫻子へ向け、意味深に小さく頷いた。
「ああ。亀松。私の妻だ。金原商店へ500円の借金のかたとして、嫁がせられた」
「あら、それは、どうゆうことで?まるで、芸者のような話ですねぇ。素人の娘さんなのに。いえ、なんだか、もっと、酷い話のような……。勝代姐さんがいながら、なんて話になっているんでしょうねぇ……」
「亀松よ、柳原家も、それだけ、困窮してるんだ。暴利の金原商店に金を借りるくらいだからなぁ。だが、お陰で、私は、素晴らしい妻を娶れた。と、いうことで、珠子さんにもぜひ、幸せになって欲しいと思ってねぇ……」
亀松と金原の空々しい会話に、一同は、ざわついた。
ただ一人、高井子爵だけは、
「なんだ!金原君!結婚していたのか!それも、柳原家のお嬢さんとだなんて!いやぁ!奇遇というか、なんだか、めでたいなぁ!」
ははは、と、高笑いながら、弾けきっている。
「さあ、お玉、出番だぞ」
金原に急かされ、ざるを持ったお玉が、ちょこちょこと歩み出る。
「あらまっ、ハイカラな装いだこと!」
お玉を見た亀松の驚きに、
「ああ、妻の櫻子がな、ドレス生地で着物を作ってみたら?なんて言い出して。さすがは、柳原家で育ったことはある。商才まで備わっているとはなぁ」
金原が、すかさず乗っかり、柳原家の面々へ嫌みな笑みを手向けた。
「さあ、お玉。珠子さんへのお祝いだ!」
高らかに言う金原に、お玉は、あい!と答えると、ざるの中のおひねりを掴んで、パッと投げた。
が、おひねりは、ぽとりと、お玉の足元に落ちてしまう。
「ああ、貸してみろ、ここは、パッとばらまくんだっ!」
ざるを奪った金原が、一気に、おひねりをばらまいた。
百円札で作られたそれらは、見事に空を舞い、パッと、座敷に飛び散った。
「やや!こ、こりゃ!!」
「なんと!百円札!!」
頭上から落ちてきた、おひねりをみて、太鼓持ち達が騒ぎだす。
その間も、金原は、おひねりをばらまき続けた。
次から次へ、百円札が舞い落ちてくる状況に、亀松側が引き連れて来た一行は、歓喜の声をあげ、我先にと、おひねりを掴み取ろうと動き出す。
すぐさま、乱闘に近い状態が起こり、金原は、更に勢いをつけておひねりをばらまいた。
ポツリポツリと、両家の祝い膳にまでおひねりが落ち始め、縁者達もざわつき始める。
「さあ!櫻子!お前も、ばらまけ!珠子さんへのご祝儀だ!」
この有り様に、高井子爵は、ご機嫌になり、ははは、と、大笑いし始めた。
太鼓持ちや、鳴り物達は、必死の形相で、金原のばらまくおひねりに飛び付いていく。
両家の祝い膳に落ちたおひねりまで狙う者も現れて、勢い、膳がひっくり返りで、足の踏み場もない散々な状態になろうとしていた。
「櫻子さん!祝いの席をめちゃくちゃにして!これ、あなたが、仕組んだの?!」
百円札のおひねりを取り合う面々に押し退けられつつも、勝代が叫ぶ。