さて、明らかに強そうなこのクマさんだけど私の剣でダメージ入るか怪しいんですけど…。だって私の剣鉄とか鋼じゃなくて石の剣よ?あまりにも武器が前時代すぎるからクマさんの毛皮的に通らなそうなんだよなぁ。もし通らないってなったらどうしよう…。むざむざ逃げ帰ることになるけど、でもそうするとこのクマさんを誰かになすり付けることになるし、やっぱり経験値も美味そうだから出来れば倒したいよね?魔法も使えない私でもワンチャンある攻撃方法は……。
対策を思考するユウナにお構い無しに突撃を繰り返す巨大なクマ。しかし、この数日ユウナはひたすらスライムたちの攻撃を回避し極めた結果回避スキルは上限のLv10まで到達し相手の攻撃がスカる仕様から純粋に素早さ補正にプラスとジャスト回避することに成功すると一定時間さらに素早さに補正が入るとにかくすばしっこいキャラクターに変わっていたのだ。そのため今のユウナからすればクマの突進技は鈍足でジャスト回避をする練習台にしかならないという事になり特に心配することなく思考に集中できるまでになっていた。
今のところは距離があるから突進がメインだけど多分近接でやり合うとなるとあの爪で引っ掻いたりしてくるはず…。一撃でも私攻撃食らうと致命傷レベルで脆いから全部の攻撃は絶対避けること、これがコイツとやり合うための前提条件……。てか、コイツに限らず他のモンスターも今後そうなるだろうなぁ。極振りなんてしなければ良かったけど今更悔いても仕方ない。とにかく今はこいつにどうやってダメージを与えるかを考えないと。一旦試しにこの剣で斬ってみるか。
先程まで避けることに専念していたため剣を抜かないでいたが、さすがにジリ貧で負けることは目に見えたためそろそろ攻撃に転ずるということで剣を鞘から抜き真っ向から相手をする。
突進してくるクマに対して臆せずユウナも真っ直ぐ走りクマにたどり着く少し前に飛び上がり空中で体をひねりながらクマの頭上を通り過ぎていく。その間利き手に持った剣がクマの背中を切り裂いていくが、そこまで多く血しぶきは出ていないところを見ると今剣では効果は薄いことが判明した。
うへぇ〜…今更だけど表現はマイルドになってるとはいえ赤黒いドットがビャービャー出るのはちょっと怖いよなぁ。で、問題は今の攻撃でそれほどダメージが入ってないことだよね。親切設計でクマさんの頭上に体力バーが見えるけど全体の10分の1くらいしか削れてないのを見ると普通にやるととんでもなく時間がかかること。でも、今の私にこれ以上の攻撃技がないのも事実。一応【つむじ風】ていう技があるけどLvも低いし上げたところでコイツにはほぼ無力ということ。残す攻撃はいつ使うか一切分からない【我流武術】とかいうこれ…。拳の威力が上がってもさすがに剣よりも火力が出るわけじゃないからどうしたもんかなぁ………。いや、待てよ?確かこのスキルって拳の威力の他にノックバックが付与されるんだよな?なら、これのレベルを上げてノックバックを強化して森の方に吹き飛ばせばちょっとグロいけど木に突き刺さって大ダメージ与えられるんじゃね?おっと、私もしかしなくても天才か?【我流武術】のレベルはようやく4レベルに到達したくらいだけどとにかくぶん殴ったり蹴ったりすればそのスキルの経験値が少しづつ蓄積される。幸か不幸か相手はクマさんで今の私では楽に倒せる相手では無いからこそ耐久値がそれなりにあって経験値稼ぎに適してる。なにより、私には【回避】に【脚力】ととにかく素早さに補正が入るスキルを持ってるから大振りな攻撃だろうとモーションが分かりやすいなら避けるのは容易い。さらに、【見切り】によって一回だけ完全回避を使うことが出来る為多少の無茶も効くということだ。ならばこそやることはひとつ。インファイトで私と勝負だクマさん!
プランを固めたユウナは剣を鞘に収めさらに身動きを軽くするために装備からも外す。そして、正真正銘己の拳一つでクマと対峙する。最初と同じように真っ直ぐ相手に向かい走り懐に潜り込むや否や拳を連打し、相手の攻撃を見切ってジャスト回避を決めたあと今度は連脚を繰り出す。ダメージはほとんど入っていないが彼女が何となく極振りにした攻撃と素早さ、特に素早さが真価を発揮する。なんの装備も攻撃バフのスキルもないのに彼女のDPSは25という数値を叩き出していた。この数値は先程まで使っていた剣と攻撃力がほとんど変わらないのだ。では剣で同じように攻撃をすれば良かったのではないかと考えるが剣では重量があり今の拳とおなじ速度で振るうことは出来ず同じ時間攻撃した際与えられるダメージ量は拳の方が数値が高い。何よりこの拳での攻撃によって【我流武術】のスキルレベルが上がっていき拳の火力の他にノックバック性能が付与されてそのノックバック率も上昇していく。つまり、育つと相手は攻撃に転ずることが困難になり、一方的に殴られるだけのサンドバッグにと変わってしまうのだ。そしてその現象が今起きてしまっている。攻撃がヒットする度に確率で少しノックバックして攻撃モーションがキャンセルされまた攻撃しようとすればキャンセルされ一方的に殴られ続けてしまい俗に言うはめ殺しがVRMMOで発生し戦闘開始から僅か42分相手の体力は残り二割まで削られた。
はぁ…はぁ……。流石にこの拳と連脚を使いすぎて疲れてきたけどここまで削れた…。そして遂に【我流武術】がLv8まで育った事でノックバックが強化されて私の攻撃でこのクマさんは大きく吹き飛んでいく!
気合いの込めた一撃が炸裂しスキル効果によって後方に大きく吹き飛ばしていく。たくましく生えていた木々を薙ぎ倒していき、約6メートルほど離れた場所まで飛ばされ偶然そこにあった巨大な岩にぶつかりそれが決めてでそのクマは光の粒となり消えていった。そしてレベルアップのファンファーレと共に《ジャイアントキリング》のスキルが強化されたのと新たなスキル《拳王》を獲得した。
ふぅ………。よし!剣士なのに今回剣使わないで勝ってしまったけど、こればっかりは仕方ないよね!なんせ剣がびっくりするくらい弱かったからね!これを気に本当に剣を新調と思ったわ。確か街のどっかに鍛治師とか居るらしいからその人のところに相談しに行くのも悪くないな。ま、とりあえずレベルが上がったことで触れるポイントも増えたしスキルで素早さはある程度補正かけれたから今度は力の方に注力しようかな!で、【我流武術】の他に新たに手に入れたスキル【拳王】てやつだけどこれはなんだろう?
《【拳王】獲得条件 高レベルのモンスターを素手でかつソロプレイで倒すことで入手可能
拳によるダメージアップ及びクリティカル率の上昇、レベルが上がることで空気を圧縮して指で放つ【指弾】を会得可能です。》
なんか…あれだねこのスキル極めるとガタイのいいグラサンかけたどっかの弟さんみたいになれそうだね。てか、そんなスキル手に入れたら本格的に私『戦姫』にならない?いや別にそれを狙ってたわけじゃないけどなんかそうなる未来が見えて怖いんですけど……。と、とりあえずあのクマさんのドロップアイテムを回収して今日はもう寝ようかな。ぶっ通しで殴る蹴るをしてたから疲れちゃったしね。
この時の彼女は知る由もなかった。この行動が再びとあるネット掲示板に書き込まれ注目の的になることを…。