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30話 今月の紙芝居ニュース
夜
焚き火がほそく揺れる
ふっくらは丸い体を沈め
地面にぺたんと座っていた
短い脚は前に投げ出され
腹がふよんと揺れ
今にも眠りそうな姿
隣には琶がいる
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼は動かず
爪が紙芝居の枠を軽く押さえている
琶が一枚目をめくる
内容はほぼ空白
家一つ
道一本
人影は描かれていない
ふっくら
「えっ……今月なにもなかったの?」
琶
「……おまえの生活と同じだ」
ふっくら
「ひどっ!!
わたしなにもしてないって言った!?」
琶は無言で次をめくる
二枚目
畑の絵
前の月と同じに見える
でも線がわずかに太い
ふっくら
「なんか……
線が増えてない?」
琶
「畑も努力している」
ふっくら
「畑が努力ってなに!?」
三枚目
空の絵
雲が一つ
それ以外なにもない
ふっくら
「これ紙の無駄じゃない?」
琶
「芸術だ」
ふっくら
「いやいやいや
芸術って線と空気で語る系のやつ!?」
そして
最後の紙がめくられる
そこには
何も描かれていないはずなのに
紙の端が
わずかに墨染めのように濃く
重みが生まれていた
ふっくら
「……え、これ……
汚れ……?」
琶が
ふっくらの丸い頭を軽くつつく
「認めたくないものを
汚れと呼ぶな」
ふっくら
「じゃあ何!?
気になるよ!?
でも怖いよ!?
どうしよ!!」
琶は
紙の端をじっと見る
長い首が影を落とし
目がわずかに細まる
しかし
指は決して触れない
ふっくら
「触らないの?」
琶
「おまえが触れ」
ふっくら
「やだよ!!
なんか出るよ!!
絶対なんか出るよ!!!」
琶は肩をすくめるように翼を動かす
「では……
“何もない”ことにしておけ」
ふっくら
「今さら無理だよ!?
見ちゃったし!?
認識しちゃったし!?
あれ絶対なにかあるやつだよ!?」
琶は紙芝居を閉じながら言う
「なら……忘れろ」
ふっくら
「むりむりむり!!
忘れたいけど忘れられない!」
琶は
ふっくらの丸い体をすこし押して
地面に転がす
「転がれば忘れる」
ふっくら
「転がっても脳みそ入ってるんだよ!?
忘れられないよ!?」
焚き火の揺れが弱くなる
紙の端の重みは
焚き火にも染み込むように濃かった
ふっくらは丸くなって震える
「……琶、ほんとに何だったの……?」
琶は少しだけ笑ったように見えた
「……“今月のこと”だ」
それ以上は
何も教えてくれなかった