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#コメディ時々暗闇
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
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#恋愛
ばたっちゅ
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森は、深かった。
狩人たちと遭遇してから、 二人はほとんど休む間もなく走り続けていた。
木々は空を覆い、 昼だというのに薄暗い。
エレナは荒い息を整えながら、 隣を走るルシアンを見た。
「……大丈夫?」
ルシアンは短く頷く。
「おまえは。」
「私は平気。」
そう答えたものの、 足は重かった。
数日前まで、 港町で暮らしていた普通の人間だ。
森を何日も歩き続ける生活に、 身体が追いつくはずもない。
ルシアンはその様子に気づいていた。
「少し休もう。」
「でも……。」
「無理をすると、動けなくなる。」
エレナは素直に頷いた。
大きな木の根元へ腰を下ろす。
風が吹いた。
森の葉が揺れる。
静かな時間だった。
エレナは小さく笑った。
「ねえ。」
「なんだ。」
「最近、思うんだけど。」
ルシアンは彼女を見た。
「私たち。」
少し考えてから言う。
「逃げるの、上手くなったよね。」
ルシアンは吹き出した。
「そこか。」
「そこ。」
「普通は、もっと別の感想があるだろ。」
「例えば?」
「疲れた、とか。」
「帰りたい、とか。」
エレナは首を横に振る。
「……帰る場所、ないし。」
その言葉に、 ルシアンは何も返せなかった。
エレナは慌てて笑う。
「あ、ごめん。」
「謝るな。」
「最近、そればっかり。」
「本当だ。」
二人は小さく笑った。
その笑い声を、 森が優しく飲み込んでいく。
その時だった。
ルシアンの表情が変わった。
「……静かに。」
エレナも息を止める。
何か聞こえる。
遠くから、 金属音、 馬の蹄。
そして、
犬の鳴き声。
ルシアンが低く呟く。
「狩犬……。」
「狩犬?」
「追跡用だ。」
エレナの顔色が変わる。
「匂いを追ってる。」
ルシアンは立ち上がった。
「行くぞ。」
二人は再び走り出した。
森の奥へ。
奥へ。
だが。
狩犬の鳴き声は、 少しずつ近づいてくる。
「ルシアン!」
「止まるな!」
枝を飛び越える。
岩を越える。
その時。
エレナの足が滑った。
「きゃっ!」
濡れた斜面。
身体が転がる。
「エレナ!」
ルシアンが手を伸ばす。
届かない。
エレナの姿が、 崖下の霧へ消えた。
「ルシアン!」
彼女の叫びが響く。
そして。
静寂。
ルシアンは崖を駆け下りた。
「エレナ!」
返事がない。
霧が濃い。
視界が利かない。
「エレナ!」
風だけが答えた。
狩犬の声が近づいている。
焦りが胸を締めつける。
(どこだ。)
木々の間を探す。
見えない。
(どこだ。)
また叫ぶ。
「エレナ!」
その時だった。
遠くから、 かすかな声が聞こえた。
「……ルシアン!」
ルシアンは顔を上げる。
生きてる。
「エレナ!」
「ここ!」
声だけが頼りだった。
霧が邪魔をする。
姿は見えない。
それでも。
「喋ってろ!」
ルシアンが叫ぶ。
「え?」
「声を出して!」
エレナは戸惑った。
「な、何を?」
「何でもいい!」
エレナは思わず笑った。
「急に言われても!」
その声を追う。
一歩。
また一歩。
「ルシアン!」
「いる!」
「見えない!」
「俺も!」
霧が深い。
姿は見えない。
けれど。
声だけは聞こえる。
エレナは震えながら叫ぶ。
「ルシアン!」
「ここだ!」
「怖い!」
その言葉に。
ルシアンは立ち止まった。
そして。
静かに言う。
「俺も。」
エレナは息を呑む。
「え?」
「怖い。」
風が吹く。
霧が揺れる。
「おまえが見えない。」
エレナの目に、 涙が滲んだ。
「だから。」
ルシアンは叫ぶ。
「喋ってろ!」
「うん!」
「止まるな!」
「うん!」
「聞こえてる!」
「私も!」
一歩。
また一歩。
二人は進む。
姿は見えない。
それでも。
声だけを信じて。
やがて。
霧の向こうに、 影が見えた。
「ルシアン!」
「エレナ!」
二人は駆け寄る。
そして。
無意識に、 互いの手を掴んだ。
しばらく、 離せなかった。
エレナは笑った。
涙を浮かべたまま。
「……見つけた。」
ルシアンは苦笑した。
「ああ。」
「見つかった。」
その時。
遠くで、 狩犬が吠えた。
二人は顔を見合わせる。
追手は、 まだ諦めていない。
それでも。
エレナは手を離さなかった。
「ねえ。」
「なんだ。」
「もし。」
彼女は少し笑った。
「またはぐれても。」
ルシアンは頷く。
「探す。」
「見えなくても?」
「探す。」
「声だけでも?」
彼は迷わなかった。
「おまえの声なら。」
静かな瞳で見つめる。
「絶対に、聞き間違えない。」
エレナは少し照れくさそうに笑った。
「……私も。」
その手を、 もう一度握り直す。
「あなたの声なら。」
風が吹いた。
森の木々が揺れる。
遠くで、 狩人たちの角笛が鳴っている。
それでも。
二人は歩き出した。
暗い森の中を。
追われる未来へ。
それでも、 互いの声だけを道標にして。
たとえ、 世界中が敵になっても。
たとえ、 姿を見失う日が来ても。
この声だけは、 決して見失わないと信じながら。
――
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