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夜。食器を洗い終えたあとは、特に何をするでもなく、
それぞれ自分のスペースに戻るのが、最近の習慣だった。
でもこの日は違った。
俺がなんとなくテレビをつけて、
ソファに座ったままリモコンをいじっていたら、
るかが無言のまま、リビングに戻ってきた。
手には、さっきまで使ってたスマホと、
そのままの部屋着。
何も言わずに、俺の横、少し離れた場所に腰を下ろす。
⸻
テレビではバラエティ番組が流れてた。
芸人がどたばた動き回る映像に、何となく目をやりながら、
俺は一度、となりにいるるかの横顔を盗み見た。
真顔。
けど、完全に無関心ってわけでもない。
時折、ほんのすこしだけ眉が動いてたり、
微かに口元が緩んでたりする。
「……この人、好きそうだな」
そう呟くと、るかは一瞬こっちを見て、
わずかに目を細めた。
「……そう?」
「前にYouTubeで見てたでしょ、同じ人のネタ」
「覚えてんの、そんなの」
「無言で5本連続見てたから」
その一言に、るかがふっと鼻で笑った。
ほんの少し、空気がやわらいだ。
⸻
それきり、また沈黙。
テレビの音が部屋の中心にいて、
俺たちはその両端にいるみたいだった。
でも、不思議とその距離が冷たく感じなかった。
⸻
俺はぼんやりと、画面よりも彼女の手元に視線を落とす。
膝の上に置かれたスマホ。
画面は消えていて、手は動いていない。
るかは、テレビを見てるんじゃなく、
“誰かといる時間”を静かに過ごしてるだけかもしれない。
(……なんか、それで十分だな)
そう思った瞬間、
彼女が小さな声で、ぽつりとつぶやいた。
「……トマト以外は、ちゃんと美味しかった」
「……は?」
「それだけ」
顔はこっちを見ないまま。
でもその一言で、俺の口元にも自然と笑みが浮かんだ。
⸻
会話じゃない。
この“間”こそが、今日の一番の会話だった。