「橘様!ありがとうございます!」
タマが、嬉しそうに、言った。
やっぱり、大人の魅力だよなぁー、やることが、上野様とは、ちがうよなぁー、とかなんとか、言いながら、タマは、橘に、媚びている。
どうやら、親分猫のお許し、とまでは行かずとも、据え置き的に、一の姫猫との関係を認めてもらえたようなのだが、その、親分猫が、更に、渋い顔をしている。
「あら、どうしましたか?」
橘が、声をかけると、親分猫は、ニャーと、困りぎみに鳴いた。
「えーと、集まって来てる猫達のことを、どうするか、親分猫は、お悩みだそうです」
タマの通詞《つうやく》に、守恵子《もりえこ》が、ではっ!と、何か思いついたようで、皆を見た。
「猫施薬院《ねこせやくいん》を、作りましょう!」
自信たっぷりな笑みを浮かべる守恵子に、親分猫含め、その場にいるものは、ポカンと呆けた。
言いたいことは、わかるのだが……。
猫の為にだけ、施しを行う施設を、わざわざ、作る必要があるのだろうか。
「守恵子は、決めました。人を助けるのは、私には、力不足。でも、猫なら、きっと、出来ると思うのです」
「守恵子様!きっと出来る、でしょ!!!きっと、でしょ!!!」
紗奈が、必死に止めた。
守恵子のこと、下手すれば、出家して、仏の力を借りながら、猫を助けるとか、分かったようなことを言い出すに違いない。
橘も、慌てて、
「守恵子様、では、犬は、どうなります!!」
と、叫ぶ。
ええーーーー!!!!
橘様、そこ、ですかっっ!!!
紗奈のみならず、親分猫も、タマも、ひっくり返りそうになっていた。
「守恵子様!都には、野犬というものが徘徊しております。人に噛みつく、はたまた、夜間に徘徊し、遠吠えする。時には、墓を荒らして、人肉を食らうという話も耳にします。そのような、野放しの犬は、どうしますかっ?!」
ひいいいーーー!!と、紗奈が、叫んでいた。幼き頃、野犬に襲われかけて以来、犬が苦手になったのだが、その時の恐ろしさが、いまだ、忘れられない。そこへ、橘の、墓を荒らして……のくだりが続き、つい、叫んでしまったのだ。
「えっ!?」
守恵子も、同様に、困惑している。犬とは、実は、恐ろしい物なのだと……。
「いいですか?猫施薬院など、作くれば、手に終えない、犬まで、連れてこられますよ?ここは、猫だけですと、守恵子様、断れますか?」
「あっ、それは……」
守恵子は、口ごもる。
「そうですよ!使えなくなった、馬や、牛も、やって来たら、タマだけじゃ、通詞《つうやく》できませんっ!」
「って、タマ、そこっっ?!」
たちもどった、紗奈が、タマを叱咤した。
「どうです?守恵子様の一言で、こんなにも、皆が、困っておりますよ?」
「えー、橘様が、犬がって、言ったからじゃ……」
口を挟んできた、タマに、橘が、噛みついた。
「お黙んなさいっ!タマ!通詞している間に、お前なぞ、食われてしまいますっ!」
ひいいいーーー!!と、叫びながら、タマは、後ずさった。
「犬じゃなくって、橘様に、噛みつかれたーーーー!!!」
なんですって?!
と、橘の怒りが、タマに飛ぶ。
「な、なんでも、ないです!タマ、噛まれたくないです!」
「そうでしょう、そうでしょう。と、いうことで、守恵子様?ご提案がございます」
橘が、沈痛な面持ちを崩さない守恵子へ、問いかけた。
「いかがでしょうか?当面は、病気、弱っている猫のみを引き取り、後の猫は、餌を与えるのみ。餌時に、お屋敷に、通って来させると……」
でも、と、守恵子が、呟く。
「橘、家のない、猫は?昼間は、どうにかなるとしても、夜露を、どこでしのげば良いの?」
「あ、あ!そ、それなら!!どうでしょう!!いっそ、私の国へ連れて行くというのは!」
紗奈が、決めたとばかりに、言い切った。
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