椅子に座った少年は、手をぎゅっと握りしめたまま視線を落としていた。
「……ずっと、あの子が親友だと思ってたんです。
なんでも話せるし、いつも一緒にいたし。
でも、この前“私にはほんとの親友が別にいる”って言われて……
笑ってごまかしたけど、心の中じゃ崩れるくらいショックでした」
蓮司はペンをくるくる回しながら、片眉を上げる。
「へえ。そいつ、なかなか直球で言うな」
少年は苦笑して、うつむいた。
「そうですよね……。でも、じゃあ僕はなんだったんだろうって思って」
蓮司は軽く肩をすくめ、飄々とした声で返す。
「まあ、“親友枠”ってのは人によって定義が違うからな。
二人にとっての“親友”が同じじゃないのは、案外普通のことだ」
少年は小さく首を振り、声を絞り出す。
「……でも、僕にとっては特別だったんです」
蓮司はペンを机にトンと置き、少し柔らかい声になる。
「それでいいんだよ。特別だと思った気持ちは、本物だろ。
相手がどう呼んでるかに関係なく、お前にとっての“大事”は揺らがない」
少年は顔を上げ、戸惑うように蓮司を見つめた。
「……でも、一方通行みたいで、むなしいです」
蓮司はにやりと笑い、片手を広げてみせた。
「一方通行、上等じゃん。
想ってた側のほうが、ずっと濃くて、ずっと熱い。
その時間は相手がどう呼ぼうと、お前の中にちゃんと残ってる。
それが友情の面白いところさ」
少年はしばらく黙ったあと、小さく息をついた。
「……残ってるものを、大事にすればいいんですかね」
「ああ。残ってるってことは、お前がちゃんと人を大事にできた証拠だからな。
それを持ってるやつは、また別の誰かとも深くつながれる。
“親友”って肩書きにこだわる必要はない」
少年はゆっくりと頷き、かすかに笑った。
「……そう考えたら、少し救われます」
蓮司はペンをくるくる回し、口元をゆるめる。
「よし。それでいい。
で、次に親友だと思えるやつが現れたら、今度はこっちから勝手に“親友認定”してやればいい。
そういう押しつけ、案外悪くないぞ」
少年は思わず吹き出し、肩の力を抜いた。
「……はい。なんか楽になりました」
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