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窓の外はどんよりした曇り空だった。校舎の隅にある空き教室。昼休み、誰も使わないその部屋で、蓮司はいつものように椅子を後ろに傾け、壁に足を投げ出して座っている。机の上にはペットボトルのお茶と開きかけのスナック菓子。
ノックもせず入ってきたのは、顔色の悪い同級生だった。立ったまま、目を合わせずにつぶやく。
「……ここにいても意味ない気がする。
もう、消えたいって思うことばかりで……」
教室の空気がひやりとする。蓮司はしばらく黙っていた。スナック菓子を一つ口に放り込み、袋の口を雑に閉じる。
そして、あくび混じりに言った。
「意味? そんなの誰も持ってねぇだろ」
顔を上げた同級生が、驚いたように蓮司を見る。蓮司は椅子の背に腕をかけ、片目だけで相手を見た。
「生まれたときから立派な意味が用意されてるヤツなんかいない。
有名人だって、なんかでっちあげてるだけだ。
意味なんて、あとから勝手にくっついてくるもんだし、今考えても答えなんか出ねぇよ」
飄々とした声だけど、そこにはどこか熱があった。同級生は、口を開きかけて、また閉じる。
「でも……消えたいって思うの、もう止められない」
蓮司は天井を見上げ、しばらく何かを噛みしめるように黙った。
やがて、ゆっくりと視線を戻す。
「消えたいって思うのは、弱いからじゃない。
それだけ今、お前がしんどいってことだ。
自分が消えれば全部終わるって考えちゃうくらい、追い込まれてるってことだろ」
蓮司は、机の端に置いていたお茶を手に取って一口飲む。
「でもな、消えるより先にやれること、まだいくらでもあるぞ。
逃げたっていいし、サボったっていいし、誰かに投げてもいい。
意味とか理由とか、今は考えなくていいから、とりあえず生きとけ。
生きてりゃ、そのうちお前の知らねぇ誰かが勝手にお前を必要としてくる」
同級生の目が揺れる。蓮司は、口の端を少しだけ上げた。
「消えたくなるほど頑張ってきたってことは、そんだけお前、ちゃんと生きてきたってことだ。
その力、勝手に消すには惜しいだろ。
だから、今は生き残ることだけ考えとけよ。
意味は後からでいい。俺だってそうしてる」
曇り空の外、風が少しだけ教室に流れ込んだ。
同級生は、ゆっくりとその場に座り込んだ。
蓮司はまた椅子を揺らしながら、ぼそりとつぶやいた。
「……ほら、座れ。とりあえずポテチ食えよ。意味ねぇけど、うまいぞ」